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平成13年横審第50号
件名

漁船第五萬漁丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年1月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、葉山忠雄、花原敏朗)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:第五萬漁丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)

損害
過給機が損傷、2番、4番及び6番のシリンダヘッドの燃焼室面に亀裂

原因
主機の運転制限値の確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の出力管理に当たり、運転制限値の確認が不十分で、過負荷運転が繰り返されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月30日13時10分
 金華山東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五萬漁丸
総トン数 137トン
全長  38.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分600

3 事実の経過
 第五萬漁丸(以下「萬漁丸」という。)は、平成元年11月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6N260−EN2型と称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、連続最大出力1,471キロワット毎分回転数750(以下、回転数は毎分のものを示す。)で、一体鋳造製のシリンダブロックに吊りメタル式の主軸受と溶接鋼板製のオイルパンを有し、シリンダブロックにシリンダライナが嵌め(はめ)込まれ、同ライナ上にシリンダヘッドが載せられて各シリンダ毎に4組のスタッドボルトとナットで締め付けられた構造で、船首側からシリンダ番号が付されており、平成6年2月に萬漁丸の主機として換装され、燃料噴射系統に負荷制限装置が取り付けられて計画出力735キロワット同回転数600として登録されたが、換装後、同装置が取り外され、航海時及び操業中には全速力の回転数を740までとして運転されていた。
 シリンダヘッドは、鋳鉄製で、4弁式の吸気弁と排気弁を備え、燃焼室面の外周につけられた溝にシリンダライナ頂部の突起部が嵌まるようになっていた。また、ピストンは、一体形に精密鋳造されたダクタイル鋳鉄製で、ヘッド部の内面に数箇所のリブを有し、連接棒小端部から噴出する潤滑油がヘッド部を冷却するようになっていた。
 主機の潤滑油系統は、オイルパンの潤滑油が直結ポンプで吸引・加圧され、冷却器及びこし器を経て主軸受、伝動歯車装置、カム軸装置等に送られ、主軸受に入ったものが同軸受を潤滑するほかクランク軸内及び連接棒内の油穴を通してクランクピン軸受、ピストンピンに至り、一部がピストンを冷却し、それぞれ潤滑と冷却を終わったものがクランク室に落ちて再びオイルパンに戻るようになっていた。
 萬漁丸は、平成10年1月に定期検査のために入渠し、主機のピストン、シリンダライナ及び連接棒ボルトが全数新替えされ、同11年12月には第一種中間検査のために主機のピストン抜き整備が行われたのち、同月27日前船主から購入され、主機の回転数が740回転までとして運転されていたことが引き継がれた。
 ところで、主機は、機関銘板などに連続最大出力の表示がなく、陸上試験成績表には換装時に制限された計画出力での試験結果が記録されているのみであったが、取扱説明書には過負荷運転の防止と燃焼管理の両面での目安として、シリンダ出口排気温度が摂氏400度(以下、温度は摂氏のものとする。)を超えないよう記載されていた。
 A受審人は、同12年1月5日機関員として乗り組み、3月21日から機関長の職務に就いたもので、前任者から主機の回転数が740回転を上限として運転されていると口頭で引き継いでいたところ、それまでにも主機が760回転を超えて運転され、排気温度が400度を超えることがあるのを認めたものの、740回転で運転中にも船橋の操縦ハンドルの位置が上限まで余裕があったので、回転数に余裕があるものと思い、メーカーに連続最大出力における回転数を尋ねたり、また、同出力で制限される排気温度を取扱説明書で調べるなど、運転制限値を確認することなく、漁労長に回転数の制限を明確に伝えることができないまま運転を続けた。
 萬漁丸は、漁獲の有無にかかわらず、魚倉に常時海水が張られており、魚群を追うときや帰港時に市場の開始時間に間に合うよう急ぐときには、主機の回転数が760ないし765回転まで上げられて過負荷運転が繰り返され、やがて熱応力が過大になった5番ピストンのヘッド部のリブに亀裂(きれつ)を生じ、それが進展するところとなった。
 こうして、萬漁丸は、A受審人ほか17人が乗り組み、船首2.0メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成12年6月27日03時00分岩手県大船渡港を発し、途中で生餌を積み込んだのち三陸沖合の漁場に向かい、同月30日07時40分から魚群の探索を開始したところ、08時ごろ5番ピストンの亀裂が表面に達し、ヘッド部内面から潤滑油が燃焼室に漏れ、煙突からの排気の色が白くなり、A受審人が燃料噴射弁の不良と考えていったん主機を停止し、同弁を順次取り替え、回転数を上げると白煙が消えたので、操業を続けることとし、主機を600回転にかけて航走していたところ、13時10分北緯37度15分東経154度13分の地点で、主機の5番ピストンが割れて異音を発した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、魚群の探索に当たっていたが、機関室からの異音を聞いて直ちに同室に赴き、停止された主機を点検し、5番シリンダヘッドの吸気弁及び排気弁の異状を認め、その後、シリンダヘッドを開放してピストンの破損を確認した。
 萬漁丸は、僚船にえい航されて宮城県気仙沼港に引き付けられ、精査の結果、主機5番ピストンの破片で同シリンダヘッド、同シリンダライナ及び過給機が損傷し、また、2番、4番及び6番のシリンダヘッドの燃焼室面に亀裂を生じているのが認められ、のち損傷箇所が修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の出力管理に当たり、運転制限値の確認が不十分で、魚群を追うときなど過負荷運転が繰り返され、過大な熱応力でピストンのヘッド部に亀裂が生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、前任者から口頭で回転数の上限を引き継いだのみであったから、過負荷運転になることのないよう、メーカーに連続最大出力の回転数を尋ねたり、また、同出力で制限される排気温度を取扱説明書で調べるなど運転制限値を確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、740回転で運転中にも船橋の操縦ハンドルの位置が上限まで余裕があったので、回転数に余裕があるものと思い、メーカーに連続最大出力の回転数を尋ねたり、また、同出力で制限される排気温度を取扱説明書で調べるなど、運転制限値を確認しなかった職務上の過失により、操業中に魚群を追うときなどに過負荷運転が繰り返され、5番ピストンと2番、4番及び6番シリンダヘッド等に亀裂を生じる事態を招き、同ピストンが割損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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