(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月10日02時00分
色丹島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七十二昭栄丸 |
総トン数 |
119トン |
全長 |
36.75メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
809キロワット |
回転数 |
毎分420 |
3 事実の経過
第七十二昭栄丸(以下「昭栄丸」という。)は、昭和58年6月に進水した、さけ・ます流し網漁業及びさんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤阪鐵工所(以下「赤阪鐵工所」という。)が製造したDM26R型と呼称するディーゼル機関を備え、主機架構の船尾側上部に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備していた。
主機は、負荷制限装置の付設により計画出力588キロワット同回転数毎分380(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録されたが、就航後に同装置の設定が解除されていた。
過給機は、石川島汎用機械株式会社が製造したVTR201−2型で、タービン入口ケーシング、タービンケーシング及びブロワケーシングなどから構成され、軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸がタービン側軸受ケーシングの単列玉軸受及びブロワ側軸受ケーシングの複列玉軸受で支持され、また、タービン側軸受ケーシングの下部に約0.8リットルの潤滑油が入れられていて、ロータ軸と共に回転する円板ポンプでかき上げられた同油により玉軸受が注油されるようになっており、同軸受ケーシング側面には、中央部下方寄りに油面計、下部に排油口が設けられ、呼び径12ミリメートルの排油口プラグが銅製パッキンを挿入のうえ取り付けられていた。
昭栄丸は、毎年5月下旬から7月末までがさけ・ます流し網漁、8月下旬から11月末までがさんま棒受け網漁の各操業を続けた後、岩手県大船渡港の造船所に上架されており、平成11年3月には業者による船体及び機関等の定期整備の際に過給機の整備が行われて各玉軸受等が交換された。
A受審人は、同年5月から昭栄丸の機関長として乗り組み、機関の運転保守にあたり、例年どおり各操業が再開されたのち、通常の全速力前進時に主機の回転数420までとして運転を続けていた。
ところで、過給機は、越えて9月上旬タービン側軸受ケーシングの潤滑油が排油口プラグ取付け部からわずかに漏洩する状況になり、同油量が次第に減少していた。
昭栄丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、北海道花咲港を根拠地とし、さんま棒受け網漁の操業を繰り返していて、次の操業の目的で、船首1.5メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同月9日13時00分同港を発し、色丹島北東方沖合の漁場に向かった。
ところが、A受審人は、花咲港の出航にあたり、主機を始動する際、過給機タービン側軸受ケーシングの潤滑油量が減少して補給を要する状態であったが、無難に運転しているから大丈夫と思い、油面計で同油量を点検しなかったので、その状態に気付かなかった。
こうして、昭栄丸は、翌10日00時15分同漁場に至り、主機を回転数420にかけて航行しながら魚群探索中、過給機タービン側軸受ケーシングの潤滑油量が補給されないままに著しく不足し、玉軸受が潤滑不良となって焼き付き始め、02時00分北緯44度07分東経147度52分の地点において、ロータ軸が固定部と接触して曲がりを生じ、異音を発すると同時に主機の給気が不足して回転数が低下し、煙突から黒煙を噴出した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、甲板上で異音に気付き煙突の黒煙を見て機関室に急行し、船橋から遠隔で非常停止されていた主機を点検したところ、過給機の異状を認め、同機を開放したものの損傷箇所の船内修理ができず、その旨を船長に報告した。
昭栄丸は、操業を打ち切り、付近の僚船により曳航されたのち、無過給とする措置をとらないままに主機を低速で運転して花咲港に帰港し、過給機を精査した結果、タービン側軸受ケーシングの玉軸受、ロータ軸のほかタービンケーシング及びブロワケーシング等の損傷が判明し、各損傷部品を新替えした。
(原因)
本件機関損傷は、過給機タービン側軸受ケーシングの潤滑油量の点検が不十分で、排油口プラグ取付け部の漏油により同油量が著しく不足し、玉軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、出航にあたり、主機を始動する場合、運転中に過給機タービン側軸受ケーシングの潤滑油量が不足しないよう、油面計で同油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、無難に運転しているから大丈夫と思い、過給機タービン側軸受ケーシングの潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、排油口プラグ取付け部の漏油により同油量が減少して補給を要する状態に気付かず、そのまま運転を続けて同油量が著しく不足し、玉軸受の潤滑不良を招き、同玉軸受、ロータ軸、タービンケーシング及びブロワケーシング等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。