(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月21日17時30分
北海道小島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十八大国丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
24.80メートル |
幅 |
4.39メートル |
深さ |
1.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
529キロワット |
3 事実の経過
第五十八大国丸(以下「大国丸」という。)は、平成9年7月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、船体中央部に操舵室、同室下部に機関室が配置されていた。
機関室は、中央部に主機、前部には同機前方の動力取出軸からゴム弾性継手を介して駆動される集魚灯用発電機及び30個の集魚灯用安定器が設置されていた。
集魚灯用発電機は、大洋電機株式会社が製造したTEW400KVA6P型と呼称する3相交流電圧225ボルト容量400キロボルトアンペアのブラシレスのもので、励磁機界磁巻線、電機子巻線が固定され、回転軸には励磁機電機子巻線、励磁機回転子、界磁巻線及び軸流式の冷却ファン等がそれぞれ取り付けられていて、同ファンによりケーシング側面の通風口から空気が吸引されていた。
また、機関室通風装置は、操舵室上部の左右両舷側に各1台、機関室壁後部の左右両舷側に各2台の電動式通風機、各通風機から同室の各部に至る通風ダクトを備えており、操舵室から各通風機の始動・停止及び給気・排気の運転切替えの遠隔操作ができるようになっていた。
A受審人は、平成9年8月大国丸に船長として乗り組み、操船のほか主機や船内電気設備の運転保守にあたり、毎年2月上旬から12月下旬まで長崎県対馬沖から北海道沖にかけての日本海、北海道沖の太平洋に漁場を移動しながら操業を繰り返していた。
ところで、機関室通風装置は、同室前部の通風ダクトが操舵室上部の通風機から敷設されていて、その給気が同ダクト開口部から吹き出て集魚灯用発電機に当たることから、雨水等が外気とともに同通風機に吸い込まれると同発電機に降りかかる状況であった。
A受審人は、その状況を知っていて、機関室の通風を行う際、雨天や時化模様のときには操舵室上部の通風機を排気に切り替えて運転するようにしていたものの、失念するなどで給気のまま運転することがあったが、これまで無難に運転しているから大丈夫と思い、同通風機を排気専用にするなど、機関室通風装置の適切な運転取扱いを行うことなく、給気にして特に差し支えのない機関室壁後部左舷側通風機の1台を排気、他の通風機を給気の状態で運転した。
大国丸は、同13年7月8日青森県小泊港に寄せ、北海道小島沖合の漁場における日帰り操業を繰り返し、操舵室上部の通風機を給気の状態で運転していたところ、同月19日夜から翌20日朝にかけ雨天になったので、同通風機に吸い込まれた雨水が通風ダクト開口部から集魚灯用発電機に降りかかり水滴が同発電機の通風口を経てケーシング内部に入り、励磁機電機子巻線の絶縁抵抗が次第に低下した。
こうして、大国丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月21日12時05分小泊港を発し、17時15分小島北西方沖合の漁場に至り、主機を停止回転数にかけクラッチを中立とし漂泊した後、操舵室上部の通風機を給気で運転しながら操業開始前に集魚灯を点灯したところ、集魚灯用発電機の励磁機電機子巻線が絶縁抵抗の著しい低下により短絡して発火し燃え上がり、17時30分松前小島灯台から真方位330度24.2海里の地点において、同発電機に火災が発生した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、操舵室で火災発生による主機運転音の変化に気付き、排気運転中の通風機から排出される白煙を認め、同室から主機を非常停止し、乗組員とともに持運び式粉末消火器等を用いて消火活動を行い、間もなく鎮火させた。
大国丸は、主機動力取出軸のゴム弾性継手を取り外して集魚灯用発電機を切り離し、主機を運転して小泊港に引き返した。
火災の結果、大国丸は、集魚灯用発電機の励磁機電機子巻線のほか励磁機回転子、電機子巻線等が焼損し、同発電機が新替えされた。また、消火活動の際に粉末消火器の消火剤の付着により集魚灯用安定器が汚損したが修理された。
(原因)
本件火災は、機関室通風装置の運転取扱いが不適切で、同装置の通風機に吸い込まれた雨水が通風ダクト開口部から集魚灯用発電機に降りかかり水滴が同発電機の通風口を経てケーシング内部に入り、励磁機電機子巻線が絶縁抵抗の著しい低下により短絡して発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、船内電気設備の運転保守にあたり、機関室の通風を行う場合、機関室通風装置の通風機による給気が通風ダクト開口部から吹き出て集魚灯用発電機に当たる状況を知っていたから、通風機に吸い込まれる雨水が同発電機の絶縁抵抗を低下させないよう、操舵室上部の通風機を排気専用にするなど、同装置の適切な運転取扱いを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで無難に運転しているから大丈夫と思い、機関室通風装置の適切な運転取扱いを行わなかった職務上の過失により、操舵室上部の通風機に吸い込まれた雨水が通風ダクト開口部から集魚灯用発電機に降りかかり水滴が同発電機の通風口を経てケーシング内部に入り、励磁機電機子巻線が絶縁抵抗の著しい低下により短絡して発火し燃え上がる事態を招き、励磁機回転子、電機子巻線等を焼損させるに至った。