(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月8日02時20分
宮崎県目井津漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船真海丸 |
総トン数 |
116トン |
全長 |
37.57メートル |
主機の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
補機の種類 |
4サイクル・6シリンダディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
回転数 |
毎分1,800 |
3 事実の経過
真海丸は、平成4年9月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事する一層甲板のFRP製漁船で、上甲板下は、船首側から順に船首タンク、燃料油タンク、6区画の魚倉とその船底の燃料油タンク、機関室、船員室及び予冷倉となっており、船体中央よりやや後方の船尾楼は、上甲板上が機関室、調理室兼サロン(以下「サロン」という。)、船員室及び舵機室に区画され、機関室上部の船尾楼甲板に操舵室及び無線室がそれぞれ配置されていた。
機関室は、上段及び下段からなり、上段には、中央に開口部があり、前部に3台の冷凍機、左舷側に主配電盤、後部に機関室警報盤がそれぞれ設置され、下段には、ほぼ中央部に主機が、その両側にいずれも電圧225ボルト容量250キロボルトアンペアの三相交流発電機を駆動する補機(以下、右舷側を「1号補機」、左舷側を「2号補機」という。)がそれぞれ据え付けられていた。
2号補機は、船側外板から約600ミリメートル(以下「ミリ」という。)の間隔で、発電機を船尾側として据えられており、同補機と船側外板との間の床面には複数の鋼板製敷板(以下「床敷板」という。)がコーミングで囲われて置かれており、コーミングの左舷縁と船側外板との間には90ミリないし110ミリの隙間(すきま)があった。
補機は、株式会社新潟鐵工所(以下「新潟鐵工所」という。)が製造した6NSF−G型と呼称するディーゼル機関で、燃料油にA重油が使用され、各シリンダに発電機側を1番として6番までの順番号が付けられていた。
補機の連接棒は、その大端部と連接棒キャップが斜め割りとなっており、同キャップとの間にクランクピン軸受メタルを組み込んだうえ、同キャップ側から2本の連接棒ボルトで締め付けてクランク軸に連結されていた。
真海丸は、補機の切替えが10日ごとに行われ、停止した補機について、燃料油こし器の開放掃除が行われていたところ、その際に漏洩(ろうえい)した燃料油が2号補機左舷側下方の船底部に滴下してたまり、いつしか同船底部に放置されたウエスなどの可燃物に付着する状況となっていた。
A受審人は、昭和58年有限会社N水産(以下「N水産」という。)に入社し、就航時から船長として乗り組み、甲板部については、停泊中の当直体制をとらず、また、機関部の同当直体制については機関長に一任していた。
B受審人は、平成10年2月上旬N水産に入社し、機関長として乗り組み、機関の運転管理と機関室の防火管理に当たり、同室内で喫煙しないことや排気管付近に洗濯物を干さないことなどについて、機関部乗組員に対して注意していたが、補機下方船底部に可燃物はないものと思い、定期的に床敷板を開けて同船底部の点検を十分に行わなかったので、2号補機左舷側下方船底部に燃料油の付着したウエスなどの可燃物が放置されていることに気付かなかった。
ところで、2号補機は、平成8年12月の定期検査に伴う工事において、全般的な開放整備が行われ、その後運転が続けられるうち、6番シリンダにおいて、クランクピン軸受に異物が混入して軸受メタルが異常摩耗したものか、連接棒ボルトの締付力不足によるものか、上部連接棒ボルトに緩みを生じ、軸受メタルがクランクピンに繰り返したたかれるようになり、次第に圧延されて剥離(はくり)し、上部連接棒ボルトの緩みが増大する状況となっていた。
真海丸は、平成10年3月3日から音響測深機新替え及び船首槍(やり)出し部の補強工事のため、宮崎県外浦港にある造船所に上架された際、主機及び補機の更油、機関室ビルジの陸揚げなどが行われたものの、2号補機のクランク室点検と同補機下方船底部の点検はいずれも行われず、7日08時ごろ下架され、入渠前運転されていた1号補機に替えて2号補機が始動された。
そして真海丸は、08時40分母港の目井津漁港に回航され、同港岸壁に船尾付けで係留され、翌8日からの出漁に備えて燃料油などの補給が行われた。
A受審人は、13時過ぎ食料や清水などの積込みを終えて甲板部乗組員を上陸させるにあたり、いつものように停泊当直体制はとらずに、自らも帰宅した。
B受審人は、それまで目井津漁港停泊中には機関部停泊当直体制をとっていなかったが、出港準備を整え、船内を無人状態として補機や冷凍機が運転されていたときには、帰宅後、定期的に機関室の見回りに出掛けており、7日16時過ぎいったん帰宅したのち、20時ごろ同室の見回りに赴いた際、出港前夜に船内で就寝するため帰船した甲板員Uから機関員Mも戻ることを聞き、その後の同室見回りを、同機関員に依頼する旨を伝えて帰宅した。
2号補機は、運転が続けられるうち、前示6番シリンダのクランクピン軸受メタルの剥離が進行し、同メタルが焼損気味となっていたが、翌8日00時ごろ帰船して同補機を点検したM機関員に異状が発見されないまま、上部連接棒ボルトの緩みが更に増大する状況となっていた。
こうして、真海丸は、U甲板員とM機関員が船員室で就寝中、2号補機6番シリンダの上部連接棒ボルトが大端部から脱落して連接棒キャップがクランクピンから外れ、クランク軸にたたかれて大端部がクランク室側壁を突き破り、同補機が停止して電源を喪失し、破口部から飛散した高温の金属片が床敷板と船側外板との隙間から補機左舷側下方船底部に落下したとき、燃料油の付着したウエスなどの可燃物に降りかかって着火し、02時20分目井津港新南防波堤灯台から真方位240度230メートルの前示係留地点において、機関室が火災となった。
当時、天候は曇で風力4の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
機関室下段後方の船員室で就寝していたU甲板員は、補機の異音に続いて船員室内の照明が消え、機関室で警報が発せられたことから目を覚まし、M機関員を起こして異状を知らせた。
M機関員は、サロンから機関室上段に通じる扉を開けたところ、機関室警報盤の警報が作動し、白煙が立ち上っていることを発見し、下段に降りて2号補機付近からの発煙とプラスチックが燃えるような異臭を認め、上段に戻り、U甲板員から受け取った持運び式泡消火器を手にして再び下段に向かおうとしたが、立ち上る煙と異臭で初期消火活動をとることができず、同甲板員に消防署とN水産への通報を依頼した。
A受審人は、自宅で就寝中、N水産からの電話連絡で火災発生を知り、03時ごろ真海丸に到着し、船尾楼甲板から機関室に通じる扉を開けて黒煙と刺激臭の立ち込めていることを認め、消火器による消火作業を断念した。
B受審人は、N水産からの通報で火災発生を知り、03時10分過ぎ真海丸に到着し、すでに来援していた消防署員と協力して放水消火作業に当たった。
真海丸は、18台の消防車及び巡視艇から居住区及び機関室への放水消火が行われ、08時15分ごろ前示岸壁において鎮火したが、機関室、居住区及び操舵室などを全焼したことにより船首部を残して沈没し、のち引き揚げられたが、廃船処理された。
(原因)
本件火災は、補機下方の機関室船底部の点検が不十分で、燃料油の付着したウエスなどの可燃物が放置され、係留中、2号補機連接棒がクランク室側壁を突き破ったことに伴い、高温の金属片が破口部から飛散し、同可燃物に降りかかって着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、機関室の防火管理に当たる場合、補機下方の機関室船底部に燃料油の付着したウエスなどの可燃物を放置すると、発火源となるものが船底部に落下したとき、接触して着火するおそれがあったから、定期的に床敷板を開けて補機下方船底部の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船底部に可燃物はないものと思い、床敷板を開けて同船底部の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、2号補機下方船底部に燃料油の付着したウエスなどの可燃物が放置されていることに気付かないまま運転を続け、同補機連接棒がクランク室側壁を突き破ったことに伴い、高温の金属片が破口部から船底部に落下し、接触して着火させる事態を招き、機関室火災を生じさせ、居住区及び操舵室などを焼損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。