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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 火災事件一覧 >  事件





平成13年広審第24号
件名

交通船たいおう火災事件(簡易)

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年1月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:たいおう機関長 海技免状:二級海技士(機関)(履歴限定)

損害
主機、電気配線等焼損

原因
主機始動後の点検不十分

裁決主文

 本件火災は、主機始動後の点検が不十分で、過給機潤滑油入口管から漏油するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月8日10時20分
 愛媛県三島川之江港

2 船舶の要目
船種船名 交通船たいおう
総トン数 42.76トン
全長 18.00メートル
4.20メートル
深さ 1.92メートル
機関の種類 過給機付2サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 669キロワット
回転数 毎分2,170

3 事実の経過
 たいおうは、昭和55年9月に進水した旅客定員12人の2基2軸型軽合金製交通船で、船体のほぼ中央部から船尾にかけて操舵室及び後部客室を、その船首側下層に前部客室をそれぞれ配置し、同室の後部に厨房、洗面所及び両客室を結ぶ階段を設け、後部客室及び船尾甲板の下部に機関室及び操舵機室兼後部倉庫を区画していた。
 機関室は、高さが約2メートル、前後長さが約4.5メートルで、前部中央に主機を2基並行して据え付け、後部中央から操舵機室兼後部倉庫内にかけて燃料油タンクを設置し、後部客室の左舷前部及び後部中央に出入口ハッチが、同室の両舷側壁に自然通風用の空気取入口がそれぞれ設けられていた。
 主機は、いずれもアメリカ合衆国ゼネラルモーターズ社製の8V−92TI型と称するV型ディーゼル機関で、4シリンダずつV形に配列された各シリンダ列の船尾側にそれぞれ過給機を備え、各過給機を出た排気管が主機ごとに合流したのち、天井に沿って船尾壁左右に設けた各排気排出口まで導かれており、機関室で発停を行うほか、操舵室に遠隔操縦装置、計器盤及び警報装置を装備し、同室から発停を含むすべての運転操作ができるようになっていた。
 また、過給機は、同社製の空冷式排気ガスタービン過給機で、ロータ軸中央部がジャーナル軸受等で支持されており、主機潤滑油入口主管の船尾端から左右の各過給機軸受箱まで、それぞれ外径約12ミリメートルの潤滑油入口管が配管され、同管の過給機側末端に小判形フランジを溶接し、軸受箱上面に2本のボルトで取り付けられていた。
 A受審人は、平成9年O海運株式会社に工務監督として入社したのち、同11年7月から同社が管理するたいおうの機関長を兼務して機関の運転管理に当たり、専ら親会社であるD製紙株式会社の顧客や役員の輸送業務に従事していた。そして、同業務が月平均2回程度であったことから、1ないし2週間ごとに定係地である愛媛県三島川之江港の沖合を航行して主機及び補機器の保守確認運転を行うようにしていたもので、主機始動時に同機及び機関室を点検したあとは操舵室で運転監視を行うようにし、機関室に入ることはほとんどなかった。
 ところで、右舷主機左舷側過給機の潤滑油入口管は、長年にわたる振動の影響を受け、過給機側フランジ溶接部に疲労による微小亀裂を生じて潤滑油がわずかずつにじみ出し、同フランジ付近に保温材が施されていなかったので、漏油量が徐々に増加して注意深く点検すれば発見できる状況となっていた。
 A受審人は、同12年9月8日午前中に機器の保守確認運転を行うこととし、たいおうに乗船して機関室に降り、主機などを始動したのち同室内の見回りを行ったが、一瞥して水や油の漏れなどはないと思い、主機各部を十分に点検していなかったので、前示フランジ溶接部から潤滑油が漏れていることに気付かなかった。
 こうして、たいおうは、A受審人と船長の2人が乗り組み、船首0.7メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日09時ごろ三島川之江港を発し、操舵室で船長が操船に、同受審人が機器の遠隔監視と見張りの補助にそれぞれ当たり、機関室を無人としたまま、両舷主機の回転数を毎分2,000の全速力に定め、同港沖合の香川県円上島などを経由して帰港中、右舷主機左舷側過給機潤滑油入口管の前示亀裂が進展して潤滑油が周囲に飛散し、同機タービンケーシングに降りかかった同油が発火して燃え広がり、10時20分三島川之江港西防波堤灯台から真方位320度0.7海里の地点において、機関室が火災となった。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 操舵室で監視にあたっていたA受審人は、何気なく後方を振り返って船尾方から黒煙が排出されていることに気付き、後部客室左舷前部の機関室出入口ハッチを開けたところ、右舷主機後部から黒煙が上がっていたことから、その旨を船長に伝えて両舷主機を停止した。
 たいおうは、A受審人と船長が持ち運び式泡消火器4本を使用して消火に当たるとともに、同業船に救助を依頼して三島川之江港に引き付けられて火災はほどなく鎮火し、主機、電気配線等に焼損を生じたほか、操舵室及び上部客室等が汚損したが、のちすべて修理された。

(原因)
 本件火災は、愛媛県三島川之江港を発航するにあたり、主機始動後のの点検が不十分で、過給機潤滑油入口管のフランジ溶接部に生じた亀裂から漏油したまま運転が続けられ、航行中、亀裂の進行によって同油が周囲に飛散し、過給機タービンケーシングに降りかかって発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛媛県三島川之江港を発航するにあたって主機を始動した場合、始動後は機関室を無人とすることでもあったから、水や油の漏れなどの異状を生じたまま主機を運転することのないよう、主機各部を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、一瞥して水や油の漏れなどはないと思い、主機各部を十分に点検しなかった職務上の過失により、過給機潤滑油入口管フランジ溶接部に亀裂が生じて漏油していることに気付かないまま運転を続け、機関室火災を発生させて主機、電気配線等に焼損を生じ、操舵室及び上部客室等を汚損させるに至った。





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