(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月29日12時20分
福井県常神岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第六みなと丸 |
総トン数 |
4.49トン |
全長 |
11.05メートル |
幅 |
2.30メートル |
深さ |
0.84メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
第六みなと丸(以下「みなと丸」という。)は、昭和52年8月に進水し、船体中央部に操舵室を備えたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年5月29日05時00分福井県世久見漁港を発し、烏辺島沖合の釣り場に至って4時間ほど釣りを行ったのち、10時00分同釣り場を発進し、千島北西方沖合1海里にある1号魚礁と称する釣り場に向かった。
A受審人は、10時10分常神岬灯台から233度(真方位、以下同じ。)2.5海里の、各辺ほぼ4メートルの立方体状の魚礁が多数海底に設置されている前示釣り場に着いて機関を停止し、水深64メートルで底質が砂の海底に、重さ約20キログラムの唐人型錨を船首から投じ、直径15ミリメートルの合成繊維製の錨索を80メートル延出して左舷船首部の木製ビットに係止し、錨泊して遊漁を再開した。
ところで、A受審人は、平素から前示釣り場に投錨して遊漁を行わせていて、以前、帰航するために揚錨中、錨が魚礁に絡んで揚がりにくい経験があったことから、絡んだ錨を容易に揚げることができるよう、投錨に際し、アンカークラウン先端のアイに、長さ100メートルの錨索を連結した長さ4メートルの鋼製錨鎖の片端を取り付け、錨鎖とアンカーシャンクのリング辺りを、直径3ミリメートルの合成繊維製ロープ(以下「細索」という。)で縛ってから投錨する方法を採っており、ウインチローラーの動力で揚錨できないときには、機関の前後進力により錨索を緊張させて細索を切断し、アンカークラウンの方から錨を引き揚げていた。
12時05分A受審人は、遊漁を止めて帰航することにし、機関を始動したのち、左舷側甲板上の機関室囲壁に設置されているウインチローラーを使用して錨索の巻き揚げを開始したところ、間もなく、錨が魚礁に絡んで揚がり難くなったが、いつもどおり、機関の前進力又は後進力を利用して錨索を緊張させれば、細索が切れて錨を揚げることができると思い、船首先端部のたつに錨索を係止し直してから機関の回転数を徐々に上げて前後進し、細索を切断して揚錨するか、それが困難なときには、浮子などを錨索に結んでから捨錨したのち回収するなど、適切な揚錨方法をとることなく、錨索を左舷側船首部から出したままウインチローラーに係止したのち、同船首部にある機関の遠隔操縦レバーを操作し、機関を回転数毎分500の微速力前進にかけて揚錨を再開した。
A受審人は、何回か前後進を繰り返しても、錨索が緊張したままで錨が揚がる様子がなく、12時15分機関回転数を1,000に上げて前後進を繰り返し、それでも揚錨できなかったので、同時20分少し前錨索が船底を替わって右舷後方に張った状態で、機関を1,500回転まで一気にかけて急発進したところ、みなと丸は、錨が外れないまま、船体が横引きされて左舷側に大傾斜し、瞬時に復原力を喪失し、12時20分前示錨泊地点において、その船首が西方を向いて左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、付近海域には北西方から高さ1.5メートルばかりのうねりがあった。
転覆の結果、みなと丸は、機関等に濡損を生じたが、地元漁船により世久見漁港に引き付けられ、のち修理された。また、A受審人と釣り客3人は、船底を上にしたみなと丸にはい上がっていたところ、航行中の遊漁船に救助された。
(原因)
本件転覆は、常神岬南西方沖合において、帰航するため揚錨中、魚礁に絡んだ錨を揚げるにあたり、揚錨方法が不適切で、錨が外れないまま、機関の急発進により船体が横引き状態となって大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、常神岬南西方沖合において、帰航するため揚錨中、錨が魚礁に絡んで揚がり難くなった場合、機関回転数を一気に上げて急発進すると、錨が外れないまま船体が横引きされて転覆するおそれがあったから、船首先端部のたつに錨索を係止し直してから機関の回転数を徐々に上げて前後進し、細索を切断して揚錨するか、それが困難なときには、浮子などを錨索に結んでから捨錨したのち回収するなど、適切な揚錨方法をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、いつもどおり、機関の前進力又は後進力を利用して錨索を緊張させれば、細索が切れて錨を揚げることができると思い、適切な揚錨方法をとらなかった職務上の過失により、錨索を左舷側船首部から出した状況で機関を急発進させ、錨が外れないまま、船体が横引き状態となって大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、機関等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。