(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月22日12時25分
愛知県泉港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート泉丸 |
登録長 |
6.46メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
47キロワット |
3 事実の経過
泉丸は、最大とう載人員6人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人4人を同乗させ、潮干狩りの目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成13年4月22日09時00分愛知県泉港を発し、同県福江港沖合に存在する向山の瀬と称する干出浜に向かった。
これより先、A受審人は、同日07時のテレビ放送の天気予報を見て東三河南部区域に強風、波浪注意報が発表されており、午後から北西の風波が更に高まるとのことから、午前中に潮干狩りを切り上げるつもりで係留地の泉港を発航したものであった。
泉丸の船体構造は、甲板上には船首部に物入れ及び船体中央部船尾寄りに物入れとその後ろ側に無蓋の操舵室が、甲板下には操舵室の船尾側にいけす及び船尾部に物入れがそれぞれ配置されていた。当時、船首部の物入れには係留索及び錨等が、操舵室前側の物入れには重さ20キログラムの蓄電池等が、また、船尾部の物入れには40リットルの燃料がそれぞれ積み込まれ、甲板上に移動物は積載されていなかった。
A受審人は、09時40分泉港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から262度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に投錨し、向山の瀬で潮干狩りを行ったのち、11時30分各人がほぼバケツ一杯分のアサリを採取して帰港準備に取り掛かったとき、同瀬の北側に築造されている離岸堤の切通し部から、その沖合に白波が立っていることを認め、北西の風が強まってきたことを知ったものの、いつものように同乗者全員に救命胴衣を着用させて船尾甲板に座らせ、同時40分前示地点を発進して帰途に就いた。
ところで、泉港は、渥美湾に面した愛知県渥美半島北岸に位置し、西防波堤灯台のある北端部から南方に約40メートル延び、そこから南西方に屈曲して陸岸に至る西防波堤と、同灯台から116度56メートルの地点を北西端として南東方に延びる北防波堤との間に、可航幅44メートルの港口(以下「港口」という。)を有していた。泉港に出入航する船舶は、同港沖合が海岸線に沿って遠浅となっていることから、強い北西風によって港口付近に磯波が発生し、それが前示両防波堤で反射あるいは屈折するほか、引き波とあいまって複雑かつ不規則に変化し、時折港口において一段と高起することがあったので、磯波の危険性に対して十分に配慮する必要があった。また、北西風が強吹する際の最寄りの避難港として、泉港の西方約1.5海里に北西側を陸地で防護された伊川津漁港があった。
A受審人は、波浪による横揺れを避けるために渥美半島北岸に沿って設置されているのり養殖施設の陸岸寄りを東行し、12時20分わずか前西防波堤灯台から298度570メートルの地点に達したとき、港口に高起した磯波を認めたが、その沖合に至ったのち、磯波の状況を見計らいながら航行すれば何とか港口を通航することができるものと思い、港口への進入を中止して伊川津漁港に向かうなど、磯波の危険性に対して十分に配慮することなく、針路を港口の沖に向かう110度に定め、機関を微速力前進に掛けて5.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、12時23分半西防波堤灯台から021度75メートルの地点で、港口に向けて徐々に右転を始めるとともに機関を極微速力前進の2.0ノットの速力に減じて港口の磯波の状況を見計らいながら続航し、同時24分半同灯台から066度60メートルの地点で、針路を港奥に向かう210度とし、機関を微速力前進に増速して5.0ノットの速力で進行した。
泉丸は、12時25分わずか前港口に差し掛かったとき、波長が自船の長さ程度の一段と高起した磯波に遭遇し、船体中央部付近がその頂部に乗った直後に左舷側に大傾斜を生じ、12時25分西防波堤灯台から161度45メートルの地点において、原針路、原速力のまま、復原力を喪失して転覆した。
当時、天候は晴で風力7の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、港口付近には最大波高約1.5メートルの磯波があった。
転覆の結果、泉丸は、船外機及び魚群探知機に濡損を生じた。
一方、A受審人及び同乗者は、転覆直前に海中に飛び込み、その後転覆した泉丸の船底に這い上がっていたところ、来援した漁船に救助された。
(原因)
本件転覆は、愛知県泉港に向けて帰航中、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、磯波が高起した港口への進入を中止せずに進行し、船体中央部付近が一段と高起した磯波の頂部に乗った直後に大傾斜を生じ、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛知県泉港に向けて帰航中、同港港口に高起した磯波を認めた場合、港口への進入を中止して最寄りの伊川津漁港に避難するなど、磯波の危険性に対して十分に配慮すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、磯波の状況を見計らいながら航行すれば何とか港口を通航することができるものと思い、磯波の危険性に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、磯波が高起した港口への進入を中止せずに進行し、船体中央部付近が一段と高起した磯波の頂部に乗った直後に大傾斜を生じ、復原力を喪失して転覆を招き、船外機及び魚群探知機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。