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平成13年仙審第22号
件名

漁船第二十八勇勝丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成14年2月20日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、東 晴二、喜多 保)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第二十八勇勝丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
1、2号発電機及び補機、電動ポンプ等を濡れ損

原因
応急冷却海水管の点検不十分
機関室ビルジ高液面警報装置の作動確認不十分
浸水した際の排水措置不十分

主文

 本件遭難は、2号発電機原動機の応急冷却海水管の点検が不十分で、同管のゴム管継手が抜け出して海水が噴出し、機関室に浸水したことと、機関室ビルジ高液面警報装置の作動確認が不十分であったうえに、浸水した際の排水措置が不十分で、1、2号発電機等が海水に浸かったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月3日21時40分
 宮城県気仙沼港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八勇勝丸
総トン数 76.24トン
登録長 27.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 397キロワット(計画出力)
回転数 毎分635(計画回転数)

3 事実の経過
 第二十八勇勝丸(以下「勇勝丸」という。)は、昭和56年9月に進水したかつお一本釣り漁業に従事する船尾船橋型のFRP製漁船で、船橋下方に機関室、船橋船首側の甲板下に釣りあげたかつお及び生き餌を入れる魚倉が区画されていた。
 機関室は、上下2段に分かれ、下段には、中央の主機を挟んで右舷前部寄りに120キロボルトアンペアの1号発電機、左舷前部寄りに150キロボルトアンペアの2号発電機を装備し、2号発電機原動機(以下、発電機原動機を「補機」という。)後方の船底に海水箱を有し、その海水箱の後方には順に、雑用ポンプ、散水ポンプ、燃料移送ポンプ、空気圧縮機等を、後部隔壁沿いの中央右舷寄りに電動の機関室ビルジポンプを、前部隔壁沿いに強制循環ポンプをそれぞれ設置し、上段には、前部に当直者用の椅子及び日誌台を据え、右舷壁沿いに主配電盤を設置していた。
 補機の冷却は、間接冷却方式で、1次の冷却海水系統は、各補機とも独立して配管され、海水が海水箱付き海水吸入弁を通して補機直結冷却海水ポンプにより0.8キログラム毎平方センチメートルに加圧され、清水冷却器及び潤滑油冷却器を冷却したのち、船外弁を経て船外へ放出されるようになっていた。そして、補機直結冷却海水ポンプに異常を生じるなどして海水の供給が不能となったときのため、雑用水系統から海水が応急冷却海水管を通して同ポンプの吐出管に供給されるようになっていた。
 2号補機の応急冷却海水管は、同補機左舷上方を船首尾方に配管した雑用水主管に、枝管及び呼び径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)の仕切弁を取り付け、同弁と直結冷却海水ポンプ吐出管の枝管との間は、同径の鋼管及びゴム管継手で接続し、同継手に鋼管を差し込んでいる嵌合部には外側から金属バンドで締め付けてあり、したがって、2号補機は、通常、応急冷却海水管の仕切弁が閉弁状態で運転され、同海水管には直結冷却海水ポンプの吐出圧力がかかっていた。そして、ゴム管継手の位置は、2号補機と左舷壁との間の床板よりわずか下方に配管されていて、その上方に床板は敷かれていなかった。
 また、機関室のビルジは、機関室ビルジポンプのほかに雑用ポンプによっても排出することができ、同ポンプのビルジ吸入管として呼び径100ミリの止め弁付鋼管が機関室ビルジだめに配管されており、機関室下段の後部隔壁に取り付けた集合起動器盤には、機関室ビルジポンプの発停用押しボタンスイッチが、同じく警報盤には機関室ビルジ高液面警報装置が組み込まれていた。
 A受審人は、平成12年3月勇勝丸に機関長として乗り組み、機関部員4人を指揮して機関の運転保守に携わり、機関室当直を操業の行われる日中は機関部員と交代で、漂泊して操業の行われない夜間は自分1人で当たり、また、発電機については、生き餌の多いとき1号機を、少ないとき2号機を単独で運転し、機関室ビルジを機関室当直時に適宜排出していたところ、いつしか2号補機応急冷却海水管の鋼管がゴム管継手の嵌合部に腐食を生じ、これが進行して金属バンドの締め付け力が次第に低下し、海水が同部より微少量漏洩する状況となったが、海水の漏洩はスタンチューブ及びポンプのグランド部からだけと思い、機関室巡視時などに、同応急冷却海水管を十分に点検しなかったので、このことに気付かなかった。
 また、機関室ビルジ高液面警報装置のフロートが作動不良で同装置が作動しない状態となっていたが、A受審人は、機関室ビルジだめに水を張るなどして、同警報装置の作動確認を行わなかったので、同装置が作動しない状態となっていることに気付かなかった。
 こうして勇勝丸は、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、船首1.90メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同年9月2日06時00分宮城県気仙沼港を三陸沖合の漁場に向けて発し、翌3日04時35分同港東方240海里ばかりの漁場において操業を開始し、16時45分その日の操業を終えて主機を停止し、出港後連続運転中の2号発電機をそのまま運転して漂泊した。
 18時00分A受審人は、機関室を巡視したものの、依然として2号補機の応急冷却海水管の点検を十分に行わなかったので、ゴム管継手からの漏水に気付かず、機関室ビルジを排出したのち上段の椅子に座って当直を行っていたところ、緩んでいた同継手が水圧により鋼管との嵌合部から抜け出して海水が機関室に噴出し、ビルジだめのビルジ量が次第に増加して高液面警報点に達したものの同装置が作動しなかったので、ビルジ量の増加も、同継手から海水が噴出して左舷壁に当たっていることも発見できず、1号発電機へ切り替えたり、2号補機の海水吸入弁を閉鎖したりできないでいるうち、同日21時40分北緯39度35分東経146度01分の地点において、浸水面が機関室後部床板付近まで達した。
 当時、天候は雨で風力4の北東風が吹いていた。
 A受審人は、上段の椅子に座って当直中、機関室内の異音に不審に思って下段に降りたところ、異音が2号補機フライホイールのかき上げる水音であることに気付いて直ちに機関室ビルジポンプを運転し、船橋へ機関室の浸水を通報したのち、浸水箇所を探したもののゴム管継手が水没していて発見できず、また、気が動転して雑用ポンプによる機関室ビルジの排水措置を思いつかないでいるうちに、ゴム管継手からの噴出が機関室ビルジポンプによる排出よりも多かったことから、21時50分同ポンプが水没して停止し、魚倉の水中ポンプを機関室に搬入してホースをつなぐなどの排水準備をしているうち、22時20分2号発電機が海水に浸かって船内が無電源となった。
 その後、乗組員全員で20リットル入り容器4個でバケツリレーにより海水の排出に当たるとともに、船底弁及び船外弁をすべて閉鎖したところ、浸水面は、主機クランク室中ほどまで達していたのが、翌4日02時00分下段の床板まで減少した。
 勇勝丸は、02時40分僚船及び八戸海上保安部に救助を求め、来援した巡視船によって気仙沼港港外まで曳航され、続いて僚船により同港の岸壁に引きつけられ、手配した消防車が機関室内の海水を排出したところ、2号補機応急冷却海水管のゴム管継手が抜け出ているのが発見され、濡れ損のため、1、2号発電機、電線、機関室ビルジ高液面警報装置のフロート等を新替えし、雑用ポンプ、散水ポンプ等の電動機巻線を巻替えしたうえ絶縁乾燥し、1、2号補機及び主機を開放整備して修理された。

(原因)
 本件遭難は、2号補機の応急冷却海水管の点検が不十分で、同管の腐食によりゴム管継手が抜け出して海水が噴出し、機関室に浸水したことと、機関室ビルジ高液面警報装置の作動確認が不十分であったうえに、浸水した際の排水措置が不十分で、1、2号発電機及び補機、電動ポンプ等が海水に浸かったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、2号補機の運転保守に当たる場合、海水管の腐食により海水が漏洩することがあるから、応急冷却海水管からの微少漏水を見逃すことのないよう、同海水管の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、海水の漏洩はスタンチューブ及びポンプのグランド部からだけと思い、同海水管の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同海水管が腐食してゴム管継手との嵌合部から微少漏水していることに気付かず、腐食の進行により同継手が抜け出し、機関室に海水が噴出する事態を招き、1、2号発電機及び補機、電動ポンプ等を濡れ損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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