(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月5日06時20分
沖縄県糸満漁港西水路
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船登美丸 |
総トン数 |
9.73トン |
登録長 |
12.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
65 |
3 事実の経過
登美丸は、一本釣り漁等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、そでいか旗流し漁に従事する目的で、船首0.7メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成13年1月2日17時20分沖縄県糸満漁港を発し、沖縄島南西方の漁場に至り、操業に従事していたところ、天候が悪化したので、同月4日14時30分北緯25度40分東経127度00分の地点を発して帰途に就いた。
A受審人は、発進後、単独で船橋当直に就き、機関を半速力前進に掛け、3.0ノットの対地速力で、針路を喜屋武埼に向けて自動操舵により進行し、同日22時00分甲板員と船橋当直を交代して休息を取り、翌5日02時00分再び単独で船橋当直に就き、同じ針路及び速力で続航した。
そして、A受審人は、04時25分ごろ喜屋武埼の南方2.1海里ばかりの地点に達し、針路を北に取って糸満漁港に向かい、06時00分糸満漁港西水路に入り、針路を066度(真方位、以下同じ。)に定め、対地速力を2.5ノットとして同水路の右側部分を進行した。
A受審人は、06時15分半糸満港西水路第3号灯浮標(以下、灯浮標名については「糸満港西水路」の冠省を省略する。)から148度120メートルの地点で、針路を第5号灯浮標と第6号灯浮標との間に向く073度に転じたが、その直後、入港準備作業を行うことを思い付き、遠隔操縦装置を船首楼の甲板上に置いたまま、前部甲板上にコイルされていた係留索を船首楼の甲板上に上げる作業を始め、針路の保持を十分に行わなかった。
登美丸は、A受審人が甲板上にコイルされていた係留索を船首楼の甲板上に上げていたところ、同索の一端が遠隔操縦装置に接触し、同装置の舵の操作ノブが中央より右舵に偏した位置に止まり、徐々に右回頭して糸満漁港西水路南側のさんご礁に著しく接近する状況となったが、同受審人が入港準備作業に夢中になり、このことに気付かず続航中、06時20分第3号灯浮標から102度400メートルの地点において、135度に向首して同じ速力で同水路南側のさんご礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底に擦過傷を生じ、のち、自力離礁した。
(原因)
本件乗揚は、夜間、糸満漁港西水路において、同漁港に入航する際、針路の保持が不十分で、同水路南側のさんご礁に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、糸満漁港西水路において、同漁港に入航する場合、針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、入港準備作業を行うことを思い付き、遠隔操縦装置を船首楼の甲板上に置いたまま、前部甲板上にコイルされていた係留索を船首楼の甲板上に上げる作業を始め、針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により、同作業中に同索の一端が遠隔操縦装置に接触し、同装置の舵の操作ノブが中央より右舵に偏した位置に止まり、徐々に右回頭し、同水路南側のさんご礁に著しく接近する状況となったことに気付かず進行して乗揚を招き、船底に擦過傷を生じさせるに至った。