(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月18日21時55分
備讃瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第三十五勇盛丸 |
総トン数 |
497トン |
全長 |
62.77メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第三十五勇盛丸(以下「勇盛丸」という。)は、主に石油製品の運搬に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.90メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成12年12月18日18時45分愛媛県伯方港を発し、大阪港堺泉北区へ向かった。
ところで、A受審人は、専ら、京浜、瀬戸内海及び九州方面において石油製品の輸送に従事していたが、今航海、京浜港川崎区で積荷したオレフィン系液体貨物である分解ガソリンを岡山県水島港で揚荷した際、空倉となったカーゴタンクを次航の積荷に備えて洗浄する必要があったことから、水島港を出港後、航海中に空タンクの洗浄を行いながら、同作業によって生じるスロップ水を陸揚げ処理することができる伯方港に一旦(いったん)寄港し、約4トンのスロップ水の全量を陸揚げしたのち、次の積荷準備を整えたうえで大阪港へ向かっていたものであった。
また、A受審人は、水島港入港に先立ち、入港時刻に合わせるために沖待ちを余儀なくされたので、平素、同港の入港時刻に合わせて沖待ちするときは、岡山県釜島東方に錨泊して時間調整を行っていたのであるが、今航海は食料が不足していたことから、この沖待ち時間を利用して食料の補給を行うこととし、17日11時10分最寄りの香川県丸亀港に入港して食料の補給を行い、翌18日朝まで同港に停泊して十分に睡眠を取ったのち、同日08時30分水島港へ向けてシフトを開始したものであった。
A受審人は、同日、丸亀港から水島港までのシフト作業に始まり、水島港での入港、揚荷、出港の各作業に従事し、揚荷中に短時間の休息を取ったものの、揚荷を終えて水島港を出港したのちも、航海中のカーゴタンクの洗浄作業や、伯方港に入港しても洗浄によって生じたスロップ水の陸揚げ作業などに従事し、その間、船長として水島航路の航行を初めとして、要所において自らが指揮を執っていたことなどから、十分な休息時間を取ることができなかったので、やや過労気味の状態で伯方港を出港した。
A受審人は、船橋当直を、同人が08時から12時及び20時から24時、首席一等航海士が04時から08時及び16時から20時、次席一等航海士が00時から04時及び12時から16時までの4時間交替3直制に定めて伯方港を出港したところ、出港時間が自身の当直時間である20時まで1時間ばかりの時刻であったことから、16時から20時まで当直予定の首席一等航海士をなるべく休ませようと思い、出港操船に引き続き、そのまま同人が1人で船橋当直に当たり、備後灘を東行して備讃瀬戸南航路に入航した。
21時12分A受審人は、高見港南防波堤灯台から178度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点に至ったとき、針路を061度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて11.5ノットの対地速力で、法定灯火を表示して進行した。
そして、A受審人は、操舵輪の後方に設置された肘掛けと背もたれの付いたいすに両足を投げ出した姿勢で腰を掛け、ワッチキーパー(当直員が、一定時間以上動かない場合に警告音が鳴る装置。)のスイッチを切ったままで見張りを行っていたところ、21時19分ころ備讃瀬戸南航路第5号灯浮標及び同6号灯浮標間を航過した辺りに達したとき、反航船が全くいない一方通行の航路内であったことから気が緩み、やや過労気味であったことや操舵室内の暖房が良く効いていたことなどが起因して眠気を覚えるようになったが、強い眠気ではなかったのでまさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、立ち上がって操舵室の外に出て冷たい外気に触れるなどの居眠り運航の防止措置をとらずに続航し、いつしか居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、居眠りに陥ったまま、折からの南寄りの風浪を右舷側から受け、左方へ2度ばかり圧流されながら進行中、21時55分小瀬居島灯台から268度2,600メートルの地点において、勇盛丸は、原針路、原速力のまま、備讃瀬戸大橋を橋台に接するように航過したのち、三ツ子島南方の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首部船底に凹損を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、備讃瀬戸南航路を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、三ツ子島南方の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、備讃瀬戸南航路を東行中、眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、立ち上がって操舵室の外に出て冷たい外気に触れるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、強い眠気ではなかったことから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、ワッチキーパーのスイッチを切ったまま、暖房の効いた操舵室内のいすに腰を掛けた姿勢で見張りを行い、立ち上がって操舵室の外に出て冷たい外気に触れるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、折からの南寄りの風浪により左方へ2度ばかり圧流されながら、三ツ子島南方の浅所に向かって進行して乗揚を招き、船首部船底に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。