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平成13年広審第84号
件名

貨物船第十一ニッケル丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年3月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第十一ニッケル丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:第十一ニッケル丸甲板長

損害
前部船底に凹損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船橋が無人状態で、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月25日02時40分
 瀬戸内海 伊予灘北部

2 船舶の要目
船種船名 第十一ニッケル丸
総トン数 192トン
全長 46.2メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット

3 事実の経過
 第十一ニッケル丸(以下「ニッケル丸」という。)は、専ら兵庫県東播磨港から山口県徳山下松港、三重県四日市港又は千葉県千葉港へばら積みの石けん液を輸送する船尾船橋型ケミカルタンカーで、石けん液310トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、A受審人、B指定海難関係人及び機関長の3人が乗り組み、平成13年4月24日14時00分東播磨港を発し、徳山下松港に向かった。
 ところで、A受審人は、平成3年寿海運株式会社に入社したのち、ニッケル丸に幾度も乗船し、平素は一等航海士として乗り組み、船長が休暇で下船中のみ船長の職務を執っていたところ、出航前日東播磨港停泊中にB指定海難関係人が乗船し、同人とは面識がないうえ、以前同じ船に乗り組んだこともなく、同人の職歴や航海当直についての知識や経験などが分からなかったことから、出航後同人に比較的航行船舶の少ない広い海域で単独の船橋当直を行わせることとし、同人が年配であったのでいちいち指示するまでもないと思い、当直中無断で船橋を離れて船橋を無人の状態とすることがないよう十分指示することなく、同人に船橋当直を行わせて播磨灘北部から井島水道を経て備讃瀬戸東航路を西行した。
 A受審人は、B指定海難関係人の当直中、実質的な船主にあたる機関長に同人の当直状況をときどき監視してもらうほか、ときどき自室から周囲を見るなどして同人が予定進路を航行していることを確かめながら自室で休養していた。
 19時40分A受審人は、牛島沖合の備讃瀬戸北航路を航行中、B指定海難関係人から船橋当直を引き継ぎ、その後備後灘を西行して宮ノ窪瀬戸及び来島海峡西口を経て安芸灘に入った。
 平素A受審人は、徳山下松港に向かう際、クダコ水道を通航して伊予灘に入ることとしていたが、同水道通航がB指定海難関係人の当直時間にあたることから、同水道よりも幅が広く屈曲の少ない釣島水道を通ることとし、越えて25日01時45分安芸灘南部を航行中、交替のため同人が昇橋したので、釣島水道の航路標識や予定針路について同人に詳しく説明したのち、01時50分波妻ノ鼻北西方約1海里のところで同人に当直を引き継いで降橋した。
 こうして乗船後2度目の船橋当直に就いたB指定海難関係人は、A受審人の指示に従って安芸灘南航路第2号及び同第1号各灯浮標を左舷側800メートルばかりにそれぞれ航過し、視界が良かったので使用中のレーダーを見ず、野怱那島、睦月島などの島影や航路標識を見て船位を確かめながら釣島水道に入り、そのころ左舷船尾近距離に認めた同行船2隻と接近しないよう、海図記載の推薦航路線から少し離れて航行することとし、02時09分野怱那島灯台から150度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で針路を242度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に乗じて12.5ノットの対地速力で進行した。
 02時31分B指定海難関係人は、小市島灯台から062度1.9海里の地点に達したとき、小用を催し、船首方向に見えていた転針目標の同灯台に接近するまでまだ少し時間がかかり、それまでに用を済ませて昇橋しようと思い、間もなく船長に無断で船橋を離れて見張りを中断し、船尾楼甲板に赴いた。
 その後ニッケル丸は、船橋が無人状態となって同島東岸に向首接近したが、船位の確認が行われず、転針の措置がとられなかった。
 B指定海難関係人は、右舷側の食堂内でひと休みしたあと、船橋でコーヒーを飲むためのコーヒーカップを持ち、食堂後方の甲板に出て、船尾を向いて小便をしたのち、02時40分少し前船橋に戻ったところ、船首方至近に小市島を認め、驚いて自動操舵のまま針路設定つまみを右に回すとともに機関を後進にかけたが、02時40分ニッケル丸は、小市島灯台から035度100メートルの地点において、原針路、原速力のまま、小市島東岸に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には約2ノットの南西流があった。
 自室のベッドで横になっていたA受審人は、衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、ニッケル丸の前部船底に凹損を生じ、救助船によって離礁したあと修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、伊予灘北部の釣島水道西口において、船橋が無人状態で、船位の確認が行われず、小市島に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、乗船したばかりの乗組員に単独の船橋当直を行わせるにあたり、当直中無断で船橋を離れないよう十分指示しなかったことと、船橋当直者が、小用のため船長に無断で船橋を離れて見張りを中断したこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、瀬戸内海において、乗船したばかりの無資格の甲板長に単独で船橋当直を行わせる場合、当直中船長に無断で船橋を離れることがないよう十分指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板長が年配であったのでいちいち指示するまでもないと思い、当直中船長に無断で船橋を離れることがないよう十分指示しなかった職務上の過失により、同甲板長が当直中無断で船橋を離れて船位の確認が行われず、小市島に向首接近して乗揚を招き、ニッケル丸の前部船底に凹損を生じさせるに至った。
 B指定海難関係人が、船橋当直中小用を催した際、船長に無断で船橋を離れ、見張りを中断したことは本件発生の原因となる。





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