(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月9日23時10分
山口県柳井港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三十一八興丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
58.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
第三十一 八興丸(以下「八興丸」という。)は、専ら宮崎県細島港から愛媛県三島川之江港や広島県大竹港等へのチップ輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首2.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成13年6月9日14時00分細島港を発し、大竹港に向かった。
ところで、A受審人は、各港間の航海時間が半日前後なので、船橋当直の当直時間割を特に定めず、入出港や狭水道通航の操船を自らが行えるようその都度当直時間を決めて一等航海士と2人で5ないし6時間交替で当直を行っており、航海中5時間ほどの休息時間の確保が可能であった。また、各港とも夜間荷役がないので荷役待ちの間などに十分に休息時間をとれる状態であった。
A受審人は、発航操船に引き続いて17時30分まで船橋当直に当たったのち、一等航海士と当直を交代して降橋して夕食をとり、そのまま食堂で過ごして19時00分ごろ自室に戻り、23時00分からの当直に備えて睡眠をとろうとベッドに入ったものの、なかなか寝付かれず、それでもいつの間にか寝入って就寝中、22時50分ごろ目覚し時計で起床した。
22時53分ごろA受審人は、昇橋し、同時57分少し過ぎ大畠航路第2号灯浮標から090度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点で、一等航海士と交代して単独の船橋当直に就いた。
当直を交代したとき、A受審人は、自動操舵のまま針路を347度に定め、機関を全速力前進の10.0ノットの対地速力とし、所定の灯火を表示して進行した。そして、右舷前方0.6海里ばかりに大畠瀬戸方面に向かう目標の野島のレーダー映像を、船首方少し右方1.5海里ばかりに大畠航路第3号灯浮標の灯光をそれぞれ確かめたあと、いすに腰掛けたところ、天気がよく、海上も穏やかで、付近に他船を見かけなかったうえ、起きたばかりでまだ眠気から完全に覚めた状態でなかったこともあって、眠気を催したが、いすから立ち上がって身体を動かしたり、外気に当たったりするなどして居眠り運航の防止措置をとらないで、当直を続けるうち、間もなく居眠りに陥り、23時00分野島を右舷側600メートルに並航し、転針予定地点に達したことに気付かず、山口県柳井港の境川河口の護岸に向かって続航中、23時10分柳井港新東防波堤西灯台から033度380メートルの地点において、八興丸は、原針路、原速力のまま、同護岸の捨石群に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候はほぼ高潮時であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に凹損を生じたが、サルベージ船により引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、山口県柳井港南方沖合を大畠瀬戸に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港の境川河口の護岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山口県柳井港南方沖合を大畠瀬戸に向けて北上中、単独の船橋当直に就いて間もなく眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって身体を動かしたり、外気に当たったりするなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いすに腰掛けたまま当直を続け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、柳井港の境川河口の護岸に向首進行して乗揚を招き、船首部船底外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。