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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年神審第89号
件名

貨物船第五神力丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年3月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:第五神力丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船首部船底から船尾に亀裂等

原因
強潮流に対する配慮不十分

裁決主文

 本件乗揚は、強潮流に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月29日13時50分
 鳴門海峡

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五神力丸
総トン数 498トン
全長 73.61メートル
登録長 70.80メートル
11.50メートル
深さ 7.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第五神力丸(以下「神力丸」という。)は、船尾船橋型鋼製の鉱石運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、けい石1,607トンを載せ、船首3.82メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成13年1月29日12時00分徳島県徳島小松島港を発し、広島県福山港に向かった。
 A受審人は、昭和54年以降、神力丸船舶所有者の会社に勤務し、紀伊水道側から瀬戸内海へ向かうとき、鳴門海峡を経由することが多く、同海峡付近の水路事情にも、潮流模様にも精通しており、自船の運動性能等を勘案し、転流時刻からの時間帯として、順流時には同時刻から1時間後、逆流時には同時刻から30分後までをもって、同海峡通航可否判断の目安としており、当時、同海峡の転流時刻が12時17分であることを知っていた。
 こうして、A受審人は、自ら船橋当直に当たり、機関を10.0ノットの全速力前進にかけ、鳴門海峡に向け北上中、平成13年1月29日13時35分鳴門飛島灯台(以下「飛島灯台」という。)から145度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点に達したとき、針路を342度に定め、折から4.3ノットの逆潮流に抗して、5.7ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 13時40分A受審人は、飛島灯台から120度600メートルとなる、大鳴門橋直下まで1,100メートルの地点に差し掛かったが、何とか通航できるものと思い、発航地での荷役時間の遅延によって、鳴門海峡通過予定時刻が、自ら定めた通航可否判断時間帯から1時間遅れていたから、強い逆潮流を受けて船体が危険な状態に陥ることのないよう、東方の広い水域で潮待ちを行うなど、強潮流に対する配慮を十分に行うことなく、同海峡の通航を強行することにした。
 やがて、A受審人は、左舷船首方に南下中の船舶を認め、同船と大鳴門橋付近で出会うものと予測し、同橋直下を通過して間もなく、13時47分飛島灯台から010度850メートルの地点で、同船との航過距離を離そうとして右舵7度をとったところ、更に強まった強潮流により船首が急激に右方へ落とされ、保針不能となり、折からの風圧影響も受けて、船首が北東を向いたまま圧流され、険礁である一ツ碆の浅所海域の西側通過を期待し、機関停止としたが及ばず、13時50分飛島灯台から038度700メートルの、水深3メートルの浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で、風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、鳴門海峡は約5.6ノットの南流時であった。
 乗揚の結果、船首部船底から船尾にかけて亀裂を伴う凹損及び推進器翼に曲損を生じ、機関室内の一部に浸水したが、流出油等はなく自力離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、鳴門海峡に向け北上中、同海峡に差し掛かった際、強潮流に対する配慮が不十分で、同海峡の通航を強行し、強い逆潮流を受けて保針不能となり、浅所へ圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鳴門海峡に向け北上中、大鳴門橋直下まで1,100メートルの地点に差し掛かった場合、発航地での荷役時間の遅延によって、同海峡通過予定時刻が、自ら定めた通航可否判断時間帯から1時間遅れていたから、強い逆潮流を受けて船体が危険な状態に陥ることのないよう、東方の広い水域で潮待ちを行うなど、強潮流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、何とか通航できるものと思い、強潮流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同海峡の通航を強行中、小舵角の右舵をとったところ、強い潮流により船首が急激に右方へ落とされ、保針不能となり、折からの風圧影響も受けて船首が北東を向いたまま圧流され、険礁海域の浅所への乗揚を招き、船首部船底から船尾にかけて亀裂を伴う凹損及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。





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