(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月31日01時15分
和歌山県地ノ島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二油味丸 |
総トン数 |
199トン |
登録長 |
40.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第二油味丸(以下「油味丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.4メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成13年8月29日11時35分茨城県鹿島港を発し、神戸港に向かった。
A受審人は、小雨模様のもと、翌30日22時00分単独で船橋当直に就いて紀伊水道を北上し、翌々31日00時03分下津沖ノ島灯台から270度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、針路を002度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、加太瀬戸に向けて進行した。
加太瀬戸は、和歌山県地ノ島と和歌山市加太との間にある、大阪湾と紀伊水道を結ぶ南北方向に開いた可航幅約500メートルの水道で、地ノ島の周囲には浅所が散在し、一方、A受審人は、これまで何度も同瀬戸を通航していたので、加太瀬戸の水路事情を十分に承知しており、通航の際はレーダーあるいは目視により、地ノ島など陸岸からの距離関係を把握しながら操船することとしていた。
00時55分A受審人は、田倉埼灯台から221度1.6海里の地点に差し掛かったころ、しゅう雨となり、視程が0.5海里ばかりに低下したのを認めたので、操舵スタンド左側のレーダー後方に立ち、レーダーと目視により前方の見張りに当たり、時折、操舵室後部の海図台に赴いてGPSにより測位しながら続航した。
ところで、油味丸のGPS受信器は、プロッタの機能はなく、表示された緯度、経度の値を読み取って海図上に転記することになり、時々刻々と変化する陸岸との距離関係を知るには相当の時間間隔を要するものであった。
01時00分A受審人は、田倉埼灯台から244度1.1海里の地点に達したとき、雨雲などの影響によりレーダーを調整しても地ノ島の映像が識別しにくい状態となったが、何度も加太瀬戸を通航しているので、GPSを頼りに地ノ島に近づいてその島影を視認すれば大丈夫と思い、可航幅が広い由良瀬戸を通航するなど、針路を適切に選定することなく、地ノ島が見えたら加太瀬戸に向けるつもりで、針路を同島の中央より少し東方に向く012度に転じて進行した。
A受審人は、やがて視界が更に悪化するようになって、地ノ島を視認できないまま続航中、01時14分半間近に迫った島影を認め、急ぎ機関を全速力後進としたが及ばず、01時15分地ノ島灯台から236度900メートルの地点において、油味丸は、5.0ノットの対地速力となったとき、原針路のまま浅所に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は約500メートルであった。
乗揚の結果、船底外板に凹損を生じたが、来援したタグボートによって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、しゅう雨による視界不良のもと、紀伊水道を加太瀬戸に向けて北上中、レーダー映像が識別しにくい状態となった際、針路の選定が不適切で、地ノ島に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、しゅう雨による視界不良のもと、紀伊水道を加太瀬戸に向けて北上中、レーダー映像が識別しにくい状態となった場合、装備のGPS受信器では時々刻々と変化する陸岸との距離関係を知るには相当の時間間隔を要するものであったから、可航幅が広い由良瀬戸を通航するなど、針路を適切に選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、何度も加太瀬戸を通航しているので、GPSを頼りに地ノ島に近づいてその島影を視認すれば大丈夫と思い、針路を適切に選定しなかった職務上の過失により、地ノ島に向首したまま進行して乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせるに至った。