(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月21日05時20分
北海道高島岬
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船太龍丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
19.89メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
3 事実の経過
太龍丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成13年9月20日10時00分北海道小樽港を発し、18時半ごろから北海道高島岬北西方50海里ばかりの漁場で操業を開始し、いか約400キログラムを漁獲したのち、翌21日01時00分帰航のため同漁場を発進した。
発進時、A受審人は、単独の船橋当直に就き、他の乗組員を休息させ、立った姿勢で前路の操業船などを監視しながら、機関をほぼ全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、自動操舵により東行した。
ところで、当時、A受審人は、小樽港を基地とし操業していたが、同月17日水揚げのため同港に帰港して以来、18日は魚市場の休日のため19日は荒天のために休漁し、両日とも船内で過ごして休養をとり、操業による疲労や睡眠不足を解消していた。また、同人は、普段操業中に00時ごろから04時ごろまで仮眠をとる習慣があり、20日は漁場到着後操業開始まで約2時間仮眠をとり、操業開始後操舵室で僚船との無線連絡や見張りに当たっていたところ荒天模様となったので、早期に操業を切り上げ前示のとおり帰航の途に就いたものであった。
04時05分A受審人は、日和山灯台から298度(真方位、以下同じ。)14.2海里の地点に達したとき、針路を高島岬に向く122度に定めて進行し、同時50分日和山灯台から294度6.7海里の地点に達したとき、前路に障害となる他船を認めず、足がだるくなっており、操舵室の床に座ったままレーダーによる見張りができたことから、同室左舷側に設置してあるベッドの壁に背中をもたせ掛け同室床面に座り込んだ。
A受審人は、そのままの姿勢で船橋当直を継続すると気の緩みや仮眠の習慣から眠り込んでしまうおそれがあったが、眠気を特に感じていなかったことから居眠りすることはあるまいと思い、時折立ち上がって見張りを行うとか休息中の乗組員を見張りに立たせるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、同じ姿勢で続航中、いつしか居眠りに陥った。
こうして太龍丸は、居眠り運航となり、小樽港に向け転針がなされず、高島岬に向首したまま進行し、05時20分日和山灯台から274度1.9海里の岩礁に原針路、原速力で乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、左舷船首部に破口などを生じ、のちクレーン船により陸揚げされて廃船処分とされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、漁場から小樽港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、高島岬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、漁場から小樽港に向け帰航する場合、操舵室の床面に座ってベッドの壁に背をもたせ掛けた姿勢のまま当直を続けると、気の緩みや仮眠の習慣から居眠りに陥るおそれがあったから、時折立ち上がって見張りを行うとか休息中の乗組員を見張りに立たせるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同受審人は、特に眠気を感じていなかったことから居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、居眠り運航となって、高島岬に向首進行して乗揚を招き、左舷船首部に破口などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。