(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月25日04時25分
長崎県三重式見港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十一野村丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
23.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
558キロワット |
3 事実の経過
第三十一野村丸(以下「野村丸」という。)は、長崎県三重式見港を基地とし、まき網漁業に従事するFRP製網船で、A受審人ほか10人が乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成13年1月24日15時00分同港を発し、西方沖合20海里付近の漁場に向かい、17時30分漁場に至り夜中過ぎまで操業を続けた。
A受審人は、翌25日02時00分ノ瀬灯標から279度(真方位、以下同じ。)17.0海里の地点を発進して帰途につき、針路をGPSに入力してある三重式見港三重中央灯浮標南方約100メートルの入港ポイントに向くよう100度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.4ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
三重式見港西部港界付近では、長崎県による防波堤築造工事が進行しており、同工事水域は灯高1.5メートル、光達距離6キロメートルの同期式灯浮標16基で囲まれ、入出港する船舶は昼夜を問わず容易に工事水域を識別できた。同工事については同県臨海開発局によって文書で関係先に周知されており、同文書には、港口中央部の三重式見港三重中央灯浮標及び三重導灯を利用した航行安全をはかるための航海参考図が添付されていた。更に、同防波堤は、平成9年6月5日刊行の海図第1259号(三重式見港)に工事中として記載されていた。
A受審人は、防波堤築造工事が進行していることを知っていたが、出港時に工事水域内の既設部の切り通しを航行し、たまたま何もなく通過できたことから、ショートカットしようと同切り通しを通ることとし、三重式見港三重中央灯浮標及び三重導灯を経由する安全な針路を選定することなく、04時16分ノ瀬灯標から193度930メートルの地点に達したとき、055度に転針し、工事水域内に向かって進行した。
04時21分A受審人は、ノ瀬灯標から111度750メートルの地点で6.0ノットに減速し、同時22分同灯標から100度880メートルの地点で防波堤既設部北端を示す標識灯を認めたので、その北方に向く050度に針路を転じ、同時24分わずか前工事水域内に進入した。
04時24分防波堤既設部北端まで約200メートルに接近したときA受審人は、サーチライトで同北端を確認しながら更に同北端から離す044度の針路として進行中、04時25分ノ瀬灯標から080度1,310メートルの地点において、既設部北方の水面下の消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、シューピースを曲損し、船底のソナー送受波器を壊損したほか、船底各所に破口を生じて浸水し、船体後部が水没して主機等が濡損した。
(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県三重式見港に入港する際、針路の選定が不適切で、防波堤築造工事水域内に進入し、水面下の消波ブロックに向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、三重式見港に入港する場合、同港西部港界内付近では防波堤築造工事が進行中で多数の灯浮標で表示されていたのであるから、同工事水域内に進入しないよう、港口中央部に設置された灯浮標及び導灯に沿う安全な入港針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、昼間に出港したとき同工事水域内既設部の切り通しを航行し、たまたま何もなく通過できたことから、ショートカットしようと思い、工事水域内に進入した職務上の過失により、水面下の消波ブロックに乗り揚げ、シューピース曲損、ソナー送受波器壊損、船底破口を生じさせたうえ、船体後部を水没させて主機等を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。