(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月22日00時30分
福岡県鐘崎港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船第一福江丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
23.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,206キロワット |
3 事実の経過
第一福江丸(以下「福江丸」という。)は、株式会社S工業(以下「S工業」という。)が運航する、船体中央部に船橋を設けた鋼製作業船で、A受審人ほか1人が乗り組み、関門港から長崎県福江港まで土運船を曳航する目的で、船首0.4メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成12年6月21日11時05分福江港を発し、関門港へ向かった。
ところで、A受審人は、平成7年からS工業所有の浚渫船に付属する交通船第五福江丸に船長として乗り組み、専ら五島列島周辺海域での運航に当たっていたところ、新造されたばかりの福江丸に船長が決まっていなかったので、S工業から依頼されて臨時に乗り組んだもので、これまで福江港から関門港までの航海をした経験がなかった。
A受審人は、発航前に簡単に航海計画を立てたとき、福江丸に大尺度の海図や水路誌が備えられていなかったことから、通航予定の福岡県倉良瀬戸の水路調査を十分に行うことができなかったが、海図第179号(関門海峡至平戸瀬戸)及び装備されているGPSプロッターの海岸線図を参考にすれば大丈夫と思い、海図第1228号(玄界灘)や第1239号(倉良瀬戸)などの大尺度の海図を取り寄せて同瀬戸付近の水路状況を十分に調査することなく発航した。
こうして、A受審人は、機関長と4時間交替で単独の船橋当直に従事して九州北岸を東行し、23時00分ごろ玄界灘の栗ノ上礁灯標北側沖合で機関長と交替して単独の船橋当直に就き、操舵輪後方右舷側に立って手動操舵に当たり、GPSプロッターとレーダーで船位を確認しながら倉良瀬戸に向けて東行した。
やがて、A受審人は、前方に一ノ瀬灯浮標、オノマ瀬灯浮標及び倉良瀬灯台の各灯火を視認し、オノマ瀬灯浮標を通過したころに進路を左に転じて倉良瀬灯台の方に向かうつもりでいたところ、倉良瀬戸に入ったころに、海図179号上の地ノ島と鐘ノ岬との間の水道付近が白抜きになっていることに気付き、同水道が通航可能かも知れないと考えているうち、同水道に向かっている小型船の灯火を認め、地ノ島と鐘ノ岬との間の水道には浅礁域が広がっており、地形を熟知した地元の小型船以外は通航が困難であることを知らないまま、翌22日00時10分倉良瀬灯台から211度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点に達したとき、手動操舵のまま針路を同水道に向く090度に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
00時29分A受審人は、鐘崎港西防波堤灯台から287.5度1,580メートルの地点に達したとき、正船首方向わずか右250メートルのところに浅礁域帯を示す簡易灯浮標のオレンジ色の灯火を認め、針路を地ノ島と鐘ノ岬との中間に向首する035度に転じたところ、00時30分福江丸は、鐘崎港西防波堤灯台から299度1,500メートルの浅礁に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
乗揚の結果、船底部のスケグに凹損を、プロペラ翼に曲損をそれぞれ生じたが、サルベージ船によって引き下ろされて博多港に引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、長崎県福江港から関門港へ向けて航行する際、水路調査が不十分で、夜間、福岡県倉良瀬戸を通航中、浅礁域が広がる地ノ島と鐘ノ岬との間の水道に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県福江港から関門港へ向けて航行する場合、途中の倉良瀬戸の航行は初めての経験であったから、発航前に大尺度海図や水路誌などにより水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船に備えられていた小尺度の海図やGPSプロッターに表示される海岸線図を参考にすれば大丈夫と思い、水深や浅礁が記載された大尺度の海図などで水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、地ノ島と鐘ノ岬との間の水道には浅礁域が広がっていることを知らないまま、同水道に向け進行して乗揚を招き、船底部スケグに凹損を、プロペラ翼に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。