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平成13年広審第74号
件名

貨物船第八栄進丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年2月6日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、坂爪 靖、西林 眞)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八栄進丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八栄進丸甲板員

損害
船首に亀裂及び船底全般に破口

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月29日22時10分
 瀬戸内海 大畠瀬戸東口屋代島北岸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八栄進丸
総トン数 497トン
全長 68.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第八栄進丸は(以下「栄進丸」という。)は、北九州から大阪に至る瀬戸内海各港間を砂利運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、平成12年10月29日19時50分広島港似島沖を発し、関門港六連島に向かった。
 ところで、A受審人は、出入港操船は自ら行うこととし、船橋当直を船長、一等航海士、B指定海難関係人の3人で単独2時間半交替の輪番制に定め、入港して荷役作業を1時間ないし2時間かけて全員で行い、荷役が終わると出港する運航形態で、荷役のない日曜日を乗組員の自宅のある似島沖に錨泊して休日としていた。また、同指定海難関係人に対しては、長年一緒に乗船して経験も有り、日頃同人に船橋当直を行わせていて支障がなかったので、眠気を感じた際の居眠り運航防止について特に気を止めていなかった。
 一方、B指定海難関係人は、平成元年から一等機関士として乗船したが、平成11年7月に乗組員が5人から4人になったことから、職務を甲板員に変更し、航海当直、船体整備とともに甲板機械の整備にもあたり、平成12年10月になって出入港及び荷役作業が連続して続き、毎週日曜日は自宅で休息はとっていたが、1日4ないし5時間の睡眠で体力的にやや疲労を感じていた。
 こうして、A受審人は、出航操船ののち、20時00分似島北西方の広島港港界を出たところで、B指定海難関係人に船橋当直を行わせることとし、同人の体力からしても年々厳しい労働環境となり、疲労も蓄積されやすい状況であったが、当直交代時、特に変わった様子も見られなかったうえ、日頃船橋当直を行わせていて支障がなかったので、同人に当直を行わせても大丈夫と思い、眠気を催した際には立って外気にあたるよう指示するなどの居眠り運航防止上の適切な指示をすることなく降橋した。
 B指定海難関係人は、当直を引き継いで間もなく、単独で舵輪後方に置かれた背もたれ付き椅子に腰掛けて手動操舵で山口県岩国沖を南下し、21時50分大磯灯台から038度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点において、針路を211度に定め、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で進行した。
 B指定海難関係人は、その後大畠瀬戸東口の相地鼻沖において数隻の漁船の間を通過し、22時00分大磯灯台から045度2.4海里の地点に達したとき、海上も穏やかで、同瀬戸に気になる他船もいなかったことから安心し、眠気を催してきたが、同瀬戸を通過すれば当直交代となるので、それまでは眠気を我慢できると思い、立って外気にあたるなどの居眠り防止措置をとることなく、椅子に腰掛けたまま当直中、いつしか居眠りに陥った。
 22時08分半B指定海難関係人は、予定変針点の大畠航路第4号灯浮標北西方を航過したことに気付かず、舵輪を握って山口県屋代島北岸に向首したまま続航中、栄進丸は、22時10分大磯灯台から084度1,450メートルの屋代島北岸明神鼻の浅所に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の初期で視界は良好であった。
 A受審人は、自室で休息中、乗揚の衝撃を感じ、昇橋して事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、船首に亀裂及び船底全般に破口を伴う凹損をそれぞれ生じ、その後満潮時を待って引船により引き降ろされて修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、広島湾を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、屋代島北岸の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、居眠り運航防止上の適切な指示を与えなかったことと、船橋当直者が、眠気を催した際に居眠り防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、広島湾を南下中、無資格者に当直を行わせる場合、体力的に厳しい労働環境となっていたのだから、居眠り運航とならないよう、居眠り運航防止上の適切な指示を与えるべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直交代時、特に変わった様子も見られなかったうえ、日頃船橋当直を行わせていて支障がなかったので、同人に当直を行わせても大丈夫と思い、眠気を催した際には立って外気にあたるよう指示するなどの居眠り運航防止上の適切な指示を与えなかった職務上の過失により、無資格の当直者が眠気を催した際、居眠り防止措置をとらないまま航行を続け、同人が居眠りに陥ったことにより乗揚を招き、船首に亀裂及び船底全般に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人は、夜間、単独の船橋当直に就き、広島湾を南下中、眠気を催した際、立って外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、深く反省しているから勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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