(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月5日05時57分
長崎県長崎漁港(三重地区)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七音丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
21.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
3 事実の経過
第七音丸は、長崎県野母埼の周辺において中型旋網漁業の運搬船として従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年1月4日16時00分同県脇岬港を発し、同港沖合で夜間操業を行い、翌5日03時00分同県三重式見港内の長崎漁港(三重地区)に入港してあじ1.8トンを水揚げし、同日05時40分同港を発し、脇岬港に向かった。
ところで、三重式見港長崎漁港(三重地区)は、港域の境界線が内防波堤の入口から約2,200メートル沖合の三重埼と神楽島の幅員2,600メートルで形成され、三重埼から南東方に約1,000メートルにわたってほぼ完成に近い築造中の沖防波堤があって、その周囲の沖合300メートルのところに約200メートルの間隔で工事区域を示す黄色点滅灯(灯高1.5メートル、4秒1閃光、光達距離6.0キロメートル。)が設置されていた。また、沖防波堤の東端から南東方400メートルには三重式見港三重中央灯浮標(灯質モールスA、白色、光達距離8海里、以下「中央灯浮標」という。)、神楽島南西端から650メートルのところに肥前平瀬灯標(灯質白、5秒2閃光、光達距離12海里、灯高19メートル、以下「平瀬灯標」という。)がそれぞれ存在していた。
A受審人は、同漁港への出入港経験が豊富で、出航操船については、内防波堤入口を通過して大きく左転して、左舷船首に平瀬灯標及び右舷船首に中央灯浮標を見たときに、平瀬灯標を操舵目標として両灯火の中間に向け、築造中の沖防波堤から遠ざかる針路で進行することにしていた。
05時51分、単独で船橋当直中のA受審人は、三重式見港三重南防波堤西灯台から010度(真方位、以下同じ。)170メートルの内防波堤の入口を通過したとき、平素、出航針路に向けるための転針地点であったが、折から左舷前方より接近する入港船を認め、同船を避けて予定針路に向けることとし、同時51分半手動操舵により右転したのち大きく左転を開始した。
左転を終えたA受審人は、05時53分少し前同灯台から270度480メートルの地点において、針路を予定の194度に定め、機関を全速力前進にかけて進行したとき、左舷船首11度の方向に中央灯浮標が見えていたが、操舵目標となる夜標を確かめて船位を確認することがなかったので、これを平瀬灯標と思い込み、前示の漁船を避航したため船位が予定針路から約300メートル右方に偏位して沖防波堤東端に著しく接近した針路となっていることに気付かず、手動操舵により10.5ノットの対地速力で進行した。
その後もA受審人は、レーダーを作動させておらず、船位を確認しないまま続航し、05時57分平瀬灯標から345度1,860メートルの地点において、原針路原速力で、沖防波堤東端付近の水面下の消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、球状船首に亀裂を伴う破口を生じ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県三重式見港から出航中、内防波堤の入口付近において入航船を避けて転針し、予定針路から大きく偏位した状況から沖合に向ける出航針路とした際、船位の確認が不十分で、沖防波堤の水面下の消波ブロックに向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、夜間、長崎県三重式見港から出航中、内防波堤の入口付近において平瀬灯標を船首の操舵目標として出航針路とする場合、入航船を避けて転針し、船位が予定の出航針路線上から大きく右方に偏位していたから、沖防波堤に著しく接近した針路とならないよう、速やかに操舵目標となる夜標を確かめるなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船位が予定出航針路上にあるものと思い、船位を確認しなかった職務上の過失により、左舷船首に見える中央灯浮標を操舵目標の平瀬灯標と思い込み、船位が大きく偏位して沖防波堤の消波ブロックに向かっていることに気付かず進行して乗揚を招き、球状船首に亀裂を伴う破口を生じさせるに至った。