(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月19日01時00分
吐
喇群島横当島
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船福神丸 |
総トン数 |
14.82トン |
全長 |
15.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
375キロワット |
3 事実の経過
福神丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、延縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成13年5月16日14時00分鹿児島県山川港を発し、吐
喇群島周辺の漁場に向かった。
A受審人は、通常、1回の出漁期間を7ないし10日間とし、夜明けから正午頃まで操業の後、午後及び夜間は漂泊、錨泊、あるいは適宜入港して休息をとり、水揚げは専ら山川港で行っていた。
同月17日早朝A受審人は、諏訪之瀬島北西方沖合漁場に至って操業し、夜間は吐
喇群島南西端にある横当島付近で漂泊して休息をとり、翌18日早朝同島南西方沖合約25海里の漁場で再び操業を開始した。
A受審人は、操業を終える頃天気予報で強風となることを知り、10年前から年に5、6回は錨泊して地形等について知っている横当島付近に避難することとし、13時00分同島に向かって発進し、17時00分横当島北岸付近において錨泊を開始したが、奄美地方に波浪注意報が発令され、次第に北風が強くなってきたので、21時00分南岸付近に移動することとした。
A受審人は、横当島南岸付近に至り、魚群探知器によって水深20メートル程度で平坦な地点を選んで重量100キログラムのストックアンカーを投下したが、錨掻きに不安を感じたので投錨し直すこととし、21時25分同地点付近で、横当島495メートル頂(以下「横当島頂」という。)から214度(真方位、以下同じ。)900メートルの水深21メートルの地点において再投錨した。
錨索は、錨に繋いだ径15ミリメートル長さ11メートルのワイヤー、更に同ワイヤーに結んだ径24ミリメートル長さ200メートルの化学繊維製ロープ(以下、「化繊ロープ」という)からなり、通常延出される20から40メートルの先端部分の摩耗劣化が進行すると、この部分が切除されては使用されていたので、当初200メートルあったものが150メートル程になっていた。
こうして同ロープは新品購入時から4年余り経過して次第に強度が低下し、特に使用頻度が高い先端部分がいつしか劣化していたが、A受審人は、投揚錨時に目視で外観を見て大丈夫と思い、ストランド内側の状態を確認するなど劣化状態の点検を十分に行わなかったので、この状況に気付かなかった。
21時30分A受審人は、ワイヤーのほか、化繊ロープを40メートル延出し、機関を停止し、ほぼ北西方を向首して島岸から100メートル離れた状態で錨泊を開始した。
A受審人は、その後錨索の張り具合等の状態を2度ほど点検したが、ピンと張った状態で通常と変わりなく、風も強くならなかったので休息することとし、22時00分甲板員とともに就寝した。
福神丸は、同日夜中頃から風向が南寄りに変化するとともに船体が振れ回って化繊ロープの劣化部が切断して圧流され、同月19日01時00分横当島頂から220度800メートルの地点において、船首を北西方に向け、同島南岸に乗り揚げた。
A受審人は、衝撃を感じて乗揚に気付き、事後の措置に当たった。
当時、天候は曇で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船底外板に破口を生じて機関室に浸水し、後、廃船とされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、荒天避泊のため吐
喇群島横当島南岸付近で錨泊する際、化学繊維製錨索の劣化状態の点検が不十分で、錨索が切断して島岸に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、荒天避泊のため横当島南岸付近で錨泊する場合、4年余り使用している化学繊維製錨索は強度が次第に低下し、特に使用頻度の高い先端付近は摩耗劣化が進行しやすい状況であったから、劣化状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、目視で外観を見て大丈夫と思い、劣化状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、錨索が切断して圧流されて乗揚を招き、船底外板に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。