(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月25日03時30分
福岡県博多港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海栄丸 |
総トン数 |
18.37トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
海栄丸は、従業区域を丙区域とし、網船、灯船、探索船及び運搬船3隻の僚船6隻と船団を組み、あじ、さばのまき網漁に従事するFRP製運搬船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年5月24日17時30分福岡県大島漁港を発し、同県小呂島東南東方7海里ばかり沖合の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、漁場への往復航の操船を単独で行うほか、操業中には魚群の探索及び集魚並びに網船の裏こぎなどに従事し、1日当たり3時間ないし4時間の休息しかとれていない状態での操業が続いており、さらに前日に私用があって2時間ばかりの休息しかとれないまま発航し、睡眠不足の状態となっていた。
翌25日02時30分A受審人は、操業を終えて漁獲物を積み込み、福岡県博多漁港で水揚げするため、漁場を発進し、03時16分少し過ぎ残島灯台から001度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点に達したとき、針路を博多港中央航路の防波堤入口に向く111度に定め、機関を全速力前進にかけて18.0ノットの対地速力とし、自動操舵により進行した。
A受審人は、操舵室左舷側後部に設けたいすに腰を掛けて操船に当たっていたところ、能古島に至るまでは漁船が多数おり、これらを避航しながら博多漁港に向かっていたので、眠気を催さなかったものの、定針して間もない03時18分少し前残島灯台から058度930メートルばかりの地点に達したころから、周囲に他船の灯火を認めなくなり、このことに安堵(あんど)して気が緩み、強い眠気を催す状態となったが、同漁港まであとわずかであり、それまでは何とか我慢できるものと思い、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
03時20分少し過ぎA受審人は、眠気のため意識が朦朧(もうろう)とした状況下、残島灯台から090度2,100メートルの地点に達したとき、針路を西防波堤入口に向けるつもりで、誤って地行浜の砂浜に向く145度に転じ、間もなく居眠りに陥った。
海栄丸は、A受審人が居眠りに陥ったまま進行中、03時30分博多港西防波堤南灯台から237度1,960メートルの地行浜の砂浜に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底外板の塗料が剥離し、来援した引船によって引き下ろされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、福岡県博多漁港に向けて航行中、強い眠気を催した際、居眠り運航の防止措置が不十分で、博多港内の地行浜の砂浜に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福岡県博多漁港に向けて単独の船橋当直に当たって航行中、強い眠気を催した場合、連日の操業で十分な睡眠がとれず、睡眠不足の状態にあったから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、あとわずかで同漁港に着くので、それまでは何とか我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、強い眠気のため意識が朦朧とした状況下、西防波堤入口に向けるつもりで、誤って地行浜の砂浜に向首する針路とし、操舵室左舷側後部に設けたいすに腰を掛けて船橋当直に当たっているうち、いつしか居眠りに陥り、同浜への乗揚を招き、船底に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。