(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月1日23時05分
博多港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートゆひな |
全長 |
8.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
52キロワット |
3 事実の経過
ゆひなは、レーダーを装備していないFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人7人を乗せ、花火見物と海上からの夜景を楽しむ目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年8月1日19時00分博多港西防波堤北灯台(以下、灯台の名称については博多港を省略する。)から241度(真方位、以下同じ。)3.3海里ばかりに位置する名柄川左岸の定係地を発し、博多港西防波堤の沖合を遊覧航海したのち、20時00分から鵜来島西方950メートルのところで錨泊して花火見物を行った。
22時20分A受審人は、花火見物を終えて抜錨し、西防波堤北灯台と東防波堤灯台との間の防波堤入口(以下「防波堤入口」という。)から博多港第1区(以下「防波堤内」という。)に入り、博多ふ頭先端部に着岸して休息をとり、同時40分ごろ同岸壁を発進して防波堤内を遊覧しながら帰途に就くこととし、操縦席に腰を掛けて単独で手動操舵に当たり、機関を種々使用して目視による見張りを行いながら中央ふ頭の沖合を北上し、箱崎ふ頭と東防波堤との間を通過したのち、材木岸壁を右舷側に見て箱崎防波堤と貯木場との間を航過し、香椎かもめ大橋の西方で左転して南下を開始した。
そのころA受審人は、同乗者の1人と操舵を交替し、操縦席の左隣に立って操舵模様を見守っていたところ、定係地のある博多港南部の状態はよく知っていたものの、同港東部の地形などについては十分に把握しておらず、周囲の状況から目を離した間に船位が分からなくなったが、防波堤内を航行しているものと思い、一時停止して、GPSプロッターや備えていた小型船舶用参考図などを活用して船位を確認することなく、自船が東防波堤の外側を航行していることに気付かないまま、23時00分東防波堤灯台から019度2,120メートルのところで再び交替して自ら操舵に当たり、針路を箱崎ふ頭など陸岸の明かりを左舷側に見る205度とし、機関を半速力前進にかけて17.0ノットの対地速力で進行した。
こうして、A受審人は、陸岸の明かりに紛れた東防波堤灯台や西防波堤北灯台の灯光を船首方向に視認することになったものの、防波堤内に点在する灯浮標の灯光と判断し、依然GPSプロッターなどで船位を確認しないで進行中、23時05分少し前右舷正横近くに西防波堤北灯台の灯光とともに同灯台を視認し、咄嗟に東防波堤南端を示すものと考え、防波堤入口から外に出るつもりで右舵をとったところ、23時05分西防波堤灯台から205度130メートルの地点において、ゆひなは、西防波堤内側の、当時の高潮で海面下となっていた同防波堤棚状部分に、原速力のまま236度に向首した状態で乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底に亀(き)裂を伴う擦過傷を、推進器に損傷をそれぞれ生じたが、自力で西防波堤を離れ、のち修理され、また、同乗者Oが乗揚の衝撃で転倒して肋骨骨折などの傷を負った。
(原因)
本件乗揚は、夜間、博多港内を航行中、船位の確認が不十分で、博多港西防波堤に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、博多港内を花火見物と海上からの夜景を楽しむ目的で遊覧航海を行ったのち、博多港東部から定係地へ帰航中に船位が分からなくなった場合、同港東部海域の状況を十分に把握しておらず、目視航行のみでは船位の確認が困難な状態であったから、一時停止して、船内に備えていた小型船舶用参考図及びGPSプロッターを活用し、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、博多港の防波堤内を航行しているものと思い、GPSプロッターを活用するなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、西防波堤に向けて進行していることに気付かず、同防波堤への乗揚を招き、船底部に亀裂を伴う擦過傷を、推進器に損傷をそれぞれ生じさせ、また、同乗者1人に肋骨骨折などの傷を負わせる至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。