(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月5日12時48分
兵庫県明石港西外港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ひので丸 |
総トン数 |
274トン |
全長 |
57.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
ひので丸は、船尾船橋型の貨物船で、A、B両受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成11年11月5日10時00分大阪港大正内港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
A受審人は、出港操船後引き続き船橋当直に就き、11時00分神戸港第7防波堤東灯台から182度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点に達したとき、12時ごろ明石海峡の通航が予定されていたものの、昇橋したB受審人が、同海峡を単独で何回も通航した経験があることや、昼間でもあり、また、普段から体調が悪いときや眠気を催したときには報告するよう指導していたことから、報告があれば自ら当直を交替するつもりで、同人に船橋当直を委ね、自室に退いて休息した。
B受審人は、前日は大阪港に停泊し、睡眠が十分にとれて疲労していない状態で、単独で船橋当直に就き、機関を全速力前進の10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で引き継ぎ、神戸港ポートアイランド沖合の空港埋立予定地に沿って明石海峡航路に向けて西行し、12時12分平磯灯標から205度1.3海里の地点に達したとき、針路を同航路に沿う304度に定めて自動操舵とし、折からの潮流に抗して6.5ノットの速力で進行した。
B受審人は、明石海峡航路に入航したのち、その前から先航していた速力差があまりないガット船と、同航路内で著しく接近したまま追い越す状況となり、緊張を長く強いられた状態で続航し、12時24分ごろガット船の左舷側至近をやっと追い越し、周囲にも気に掛かる船舶を見掛けなくなったことから、安心し、操舵輪後方の肘掛けがある背もたれ付きいすに腰掛け、緊張から解放された状態で当直を続けた。ところで、このような状態で腰掛けたままでいると、気の緩みなどから眠気を催すおそれがあった。
しかし、B受審人は、明石海峡を通航中で、転針地点を間近に控えていることでもあり、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航にならないよう、立った姿勢で船橋内での当直位置を移動するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたままでいるうち居眠りに陥った。
12時36分B受審人は、明石海峡航路の屈曲点の予定転針地点に達したものの、居眠りしていてこのことに気付かず、明石港西外港南防波堤(以下「南防波堤」という。)に向首したまま、強潮流域を抜けて速力が増加しながら続航中、同時47分半ふと目を覚ましたとき、船首至近に同防波堤を初めて視認し、手動操舵に切り替えて左舵一杯とし、機関を停止したが及ばず、ひので丸は、12時48分明石港西外港西防波堤灯台から078度120メートルの南防波堤消波ブロックに、左回頭中の船首が274度を向いたとき、約9.0ノットの速力で乗り揚げ、擦過した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、明石海峡中央部付近は約4ノットの東南東流があった。
A受審人は、乗揚の衝撃で昇橋し、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船首部船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じた。
(原因)
本件乗揚は、明石海峡を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、南防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、単独で船橋当直に就いて明石海峡を西行中、他船を追い越した緊張から解放された状態で当直に当たる場合、いすに腰掛けたままでいると気の緩みなどから眠気を催すこともあるから、居眠り運航にならないよう、立った姿勢で船橋内での当直位置を移動するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、明石海峡を通航中で、転針地点を間近に控えていることでもあり、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたままで居眠りに陥り、予定転針地点に達したことに気付かず、南防波堤に向首したまま進行して消波ブロックへの乗揚を招き、船首部船底外板に凹損などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。