(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月20日00時50分
友ケ島水道地ノ島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船八栄丸 |
総トン数 |
393トン |
全長 |
64.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
表
3 事実の経過
八栄丸は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人と同人の兄のB受審人ほか1人が乗り組み、鋼材897トンを積載し、船首2.75メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成12年10月19日22時10分神戸港を発し、愛知県衣浦港に向かった。
ところで、A受審人は、船長の職務としては公的な書類関係の作成を行うだけで、航海計画の立案、入出港時の操船、狭水道の通航及び運航会社との通信連絡などの実務については、B受審人がY汽船有限会社の社長で、海上経験も豊富なことから、同人に運航を任せていた。
A受審人は、出航時、狭水道である友ケ島水道・加太瀬戸を経由して目的地に向かうことを知っていたが、これまでB受審人が同瀬戸を何回も通航した経験があったことから、同人に任せておけば大丈夫と思い、自ら同瀬戸通航の指揮がとれるよう、B受審人に対し昇橋時機を示して報告するよう指示することなく、船首配置を終えて甲板上の後片づけをしたのち、自室で休息した。
B受審人は、所定の灯火を表示し、出港操船後、引き続き単独で船橋当直に就いて大阪湾を南下し、23時08分関空泉州港北泊地沖灯標から342度(真方位、以下同じ。)6.0海里の地点に達したとき、針路を地ノ島灯台に向く208度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
やがて、B受審人は、加太瀬戸に近づいたので船位などを確かめることとし、レーダーを作動させ、翌20日00時32分地ノ島灯台から029度3.0海里の地点に達したことを認めたのち、時折小雨が降り視界があまり良くない状況であったものの、レーダーをスタンバイ状態とし、舵輪後方のいすに腰掛けて目視による見張りに当たり、同灯台の灯光を船首目標にして続航した。
00時44分少し前B受審人は、左舷船首方に操業中の漁船を視認し、そのころ加太瀬戸への予定転針地点としている、地ノ島灯台から030度1.0海里の同瀬戸北口に接近したが、同瀬戸へはまだ距離があるので、同漁船が替わってから転針しても大丈夫と思い、レーダーを使用するなど船位の確認を十分に行わなかったので、転針地点に達したことに気付かないまま進行した。
B受審人は、前示漁船に気をとられたまま、地ノ島に向首して続航し、00時48分半同漁船が替わったので手動操舵に切り換え、加太瀬戸に向け左舵10度をとったとき、ようやく、地ノ島の島影が船首方近距離に迫っているのを認め、乗揚の危険を感じ、機関を全速力後進にかけたが及ばず、八栄丸は、00時50分地ノ島灯台から060度150メートルの地ノ島東端の浅瀬に、その船首が230度を向き、わずかな行きあしをもって乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、加太瀬戸はほぼ転流時であった。
A受審人は、就寝中、機関が後進にかかったのに気付いて昇橋し、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船首部船底外板に凹損及び推進器翼に曲損などを生じたが、サルベージ船により引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、加太瀬戸を通航する際、船位の確認が不十分で、転針の時機を失し、地ノ島に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、狭水道の通航に際し、船長が、自ら運航の指揮がとれるよう、船橋当直者に対し昇橋時機を示して報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、狭水道の加太瀬戸を通航する場合、自ら運航の指揮がとれるよう、昇橋時機を示して報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、船橋当直者が同瀬戸を何回も通航した経験があったことから、同当直者に任せておけば大丈夫と思い、昇橋時機を示して報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自ら運航の指揮をとらず、同当直者が、船位の確認を十分に行わないまま進行して地ノ島東端の浅瀬に乗り揚げる事態を招き、船首部船底外板に凹損及び推進器翼に曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、狭水道の加太瀬戸に向け南下中、同瀬戸北口に接近した場合、転針の時機を失することのないよう、レーダーを使用するなど船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同瀬戸へはまだ距離があるので、左舷船首方の漁船が替わってから転針しても大丈夫と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、地ノ島に向首したまま進行して同島東端の浅瀬に乗り揚げ、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。