(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月18日12時40分
宮城県塩釜港仙台区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八幸寶丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
76.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
第八幸寶丸(以下「幸寶丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,550トンを載せ、船首3.5メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成11年12月17日塩釜港仙台区に至り、14時00分塩釜港仙台南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から121度(真方位、以下同じ)2.4海里の地点で投錨仮泊した。
A受審人は、仮泊後は休息し、入浴後缶ビール2缶、夕食時に焼酎の水割り2杯を飲み、23時頃就寝した。翌18日06時00分起床して朝食の用意をし、新日本製鉄岸壁に着岸予定の13時まで時間があるので、08時ハッチペインティングに総員で従事した。
A受審人は、船長として着岸操船を行う際、正常な判断力を維持し、適切な動作が取れるよう、飲酒を慎んで飲酒運航の防止措置をとるべきであったが、多少飲んでも正常な判断力は保てるものと思い、ペインティング中寒かったので、08時30分アルコール分25度の焼酎6に水4の割合の水割りを200ccより少し大きいコップで1杯飲み、その後も時々作業を中断しては同量を飲むことを繰り返し、10時30分作業を終了するときまでに合計5杯ほど飲んでいた。
A受審人は、通常の飲酒量は水割り2、3杯程度で既にこの量を超していたのに、11時00分から同時30分までの昼食中も更に焼酎4に水6の割合の水割り1杯を飲み、しばらく自室で休息した後、12時00分単独で昇橋した。
A受審人は、昇橋して直ぐ船首に要員を配置のうえ揚錨を開始し、12時10分抜錨して機関を微速力前進にかけ、7ノットの対地速力で手動操舵によって006度の針路で進行し、同時17分南防波堤灯台から104度2.08海里の地点で、針路を313度に転じるとともに半速力前進に上げ、10.0ノットの対地速力で続航した。
A受審人は、12時21分半南防波堤灯台から091度1.6海里の地点において針路をほぼ着岸予定岸壁に向く276度に定め、間もなく船首2人、船尾2人の総員配置として進行中、船橋は全ての窓が閉鎖されていたうえ暖房で暖かく、次第に酔いが進む状態となっていった。
12時32分半A受審人は、南防波堤灯台から304度0.28海里の地点に達して右舷側の北防波堤突端に並航したとき、再び7.0ノットの微速力に減じ、舵輪による操舵からリモートコントロールによる手動操舵に切り替え、床からの高さ1.2メートルのエンジンコンソール後方に前方を向いて立ち、右手でコンソールの手摺りを握り、左手でリモートコントロールを操作しながら進行した。
A受審人は、間もなくエンジンコンソールに腹部をつけて寄りかかり、次第に酔いのため意識が朦朧(もうろう)となってコンソールにもたれかかる状態となり、12時39分わずか過ぎ意識を失って左手に体重がかかり、リモートコントロールダイアルが大きく左に回って幸寶丸は急激に左回頭を始めた。
12時40分少し前A受審人は、船首配置の一等航海士からのマイクの声で気を取り戻し、後進、後進との報告を聞き、意識が朦朧としたまま機関後進としたが及ばず、12時40分南防波堤灯台から277度1.06海里の地点において、186度に向首したとき、船首部が造成工事中の岸壁に4ノットの速力で直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果、幸寶丸はバルバスバウに凹損を生じ、工事中の岸壁の鋼管矢板、鋼管杭等を損傷した。
(原因)
本件岸壁衝突は、宮城県塩釜港仙台区において、飲酒運航の防止措置が不十分で、保針がなされず、岸壁に向かって回頭したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、塩釜港仙台区において、着岸操船を行う場合、正常な判断力を維持し、適切な動作が取れるよう、飲酒を慎んで飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、多少飲んでも正常な判断力は保てるものと思い、飲酒を慎まず、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、酩酊(めいてい)状態で保針ができず、岸壁に向かって回頭して衝突を招き、バルバスバウに凹損を生じさせたうえ、工事中の岸壁に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。