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平成13年長審第47号
件名

貨物船第八幸寶丸岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月19日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平田照彦、平野浩三)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第八幸寶丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
幸寶丸・・・バルバスバウに凹損
工事中の岸壁・・・鋼管矢板、鋼管杭等を損傷

原因
幸寶丸・・・飲酒運航の防止措置不十分

主文

 本件岸壁衝突は、飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月18日12時40分
 宮城県塩釜港仙台区

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八幸寶丸
総トン数 499トン
全長 76.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 第八幸寶丸(以下「幸寶丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,550トンを載せ、船首3.5メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成11年12月17日塩釜港仙台区に至り、14時00分塩釜港仙台南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から121度(真方位、以下同じ)2.4海里の地点で投錨仮泊した。
 A受審人は、仮泊後は休息し、入浴後缶ビール2缶、夕食時に焼酎の水割り2杯を飲み、23時頃就寝した。翌18日06時00分起床して朝食の用意をし、新日本製鉄岸壁に着岸予定の13時まで時間があるので、08時ハッチペインティングに総員で従事した。
 A受審人は、船長として着岸操船を行う際、正常な判断力を維持し、適切な動作が取れるよう、飲酒を慎んで飲酒運航の防止措置をとるべきであったが、多少飲んでも正常な判断力は保てるものと思い、ペインティング中寒かったので、08時30分アルコール分25度の焼酎6に水4の割合の水割りを200ccより少し大きいコップで1杯飲み、その後も時々作業を中断しては同量を飲むことを繰り返し、10時30分作業を終了するときまでに合計5杯ほど飲んでいた。
 A受審人は、通常の飲酒量は水割り2、3杯程度で既にこの量を超していたのに、11時00分から同時30分までの昼食中も更に焼酎4に水6の割合の水割り1杯を飲み、しばらく自室で休息した後、12時00分単独で昇橋した。
 A受審人は、昇橋して直ぐ船首に要員を配置のうえ揚錨を開始し、12時10分抜錨して機関を微速力前進にかけ、7ノットの対地速力で手動操舵によって006度の針路で進行し、同時17分南防波堤灯台から104度2.08海里の地点で、針路を313度に転じるとともに半速力前進に上げ、10.0ノットの対地速力で続航した。
 A受審人は、12時21分半南防波堤灯台から091度1.6海里の地点において針路をほぼ着岸予定岸壁に向く276度に定め、間もなく船首2人、船尾2人の総員配置として進行中、船橋は全ての窓が閉鎖されていたうえ暖房で暖かく、次第に酔いが進む状態となっていった。
 12時32分半A受審人は、南防波堤灯台から304度0.28海里の地点に達して右舷側の北防波堤突端に並航したとき、再び7.0ノットの微速力に減じ、舵輪による操舵からリモートコントロールによる手動操舵に切り替え、床からの高さ1.2メートルのエンジンコンソール後方に前方を向いて立ち、右手でコンソールの手摺りを握り、左手でリモートコントロールを操作しながら進行した。
 A受審人は、間もなくエンジンコンソールに腹部をつけて寄りかかり、次第に酔いのため意識が朦朧(もうろう)となってコンソールにもたれかかる状態となり、12時39分わずか過ぎ意識を失って左手に体重がかかり、リモートコントロールダイアルが大きく左に回って幸寶丸は急激に左回頭を始めた。
 12時40分少し前A受審人は、船首配置の一等航海士からのマイクの声で気を取り戻し、後進、後進との報告を聞き、意識が朦朧としたまま機関後進としたが及ばず、12時40分南防波堤灯台から277度1.06海里の地点において、186度に向首したとき、船首部が造成工事中の岸壁に4ノットの速力で直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 衝突の結果、幸寶丸はバルバスバウに凹損を生じ、工事中の岸壁の鋼管矢板、鋼管杭等を損傷した。

(原因)
 本件岸壁衝突は、宮城県塩釜港仙台区において、飲酒運航の防止措置が不十分で、保針がなされず、岸壁に向かって回頭したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、塩釜港仙台区において、着岸操船を行う場合、正常な判断力を維持し、適切な動作が取れるよう、飲酒を慎んで飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、多少飲んでも正常な判断力は保てるものと思い、飲酒を慎まず、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、酩酊(めいてい)状態で保針ができず、岸壁に向かって回頭して衝突を招き、バルバスバウに凹損を生じさせたうえ、工事中の岸壁に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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