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平成13年長審第71号
件名

漁船第3大徳丸漁船孝栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月12日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平田照彦、平野浩三)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第3大徳丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:孝栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
大徳丸・・・船首部に擦過傷
孝栄丸・・・右舷船尾部を割損、船長が右肋骨骨折

原因
大徳丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守
孝栄丸・・・動静監視不十分、速力不適切

主文

 本件衝突は、孝栄丸に追随する第3大徳丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、孝栄丸が、動静監視不十分で、第3大徳丸の前路で減速したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月21日11時23分
 熊本県緑川河口

2 船舶の要目
船種船名 漁船第3大徳丸 漁船孝栄丸
総トン数 4.41トン 2.34トン
登録長 11.31メートル 9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 60 30

3 事実の経過
 第3大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、投網漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成13年1月21日11時19分熊本県天明漁港を発し、島原湾の漁場に向かった。
 天明漁港は、熊本市南部をほぼ北から南に流れる天明新川の河口付近にある河川港であり、天明新川は、同市南部をほぼ東から西へと流れて島原湾に流入する緑川にその河口付近で合流していた。
 A受審人は、天明新川河口から約230メートル上流左岸の係留地を離岸し、機関を半速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で手動操舵によって同川を下航して緑川に入り、11時21分住吉灯台から081度(真方位、以下同じ)1.7海里の地点で、針路を緑川中央部に設置された漁業用の標識柱にほぼ向首する277度に定めたとき、右舷側約5メートル隔てて孝栄丸が追い抜いていくのを認めた。
 A受審人は、間もなく孝栄丸が自船の正船首方に進出し、11時21分半わずか前同船との距離が約30メートルとなったとき、機関を全速力近くに上げて8.0ノットの対地速力とし、ほぼ同じ船間距離を保ちながら追随した。
 11時22分45秒A受審人は、操舵スタンドの後方で立って操船していた孝栄丸のB受審人がかがみ込むのを見た直後同船が減速したことを認めたが、更に接近したら右転して避ければよいものと思い、そのまま進行すると同船に著しく接近して衝突のおそれがあったのに、速やかに減速することなく原速力のまま続航した。
 A受審人は、11時23分わずか前孝栄丸との距離が20メートルに接近したとき右舵を取って替わそうとしたが、たまたま左舷側を航過した第三船の航走波で舵効が得られず、更に孝栄丸に接近したので急ぎ機関操縦レバーを下げたが、11時23分住吉灯台から078.5度1.5海里の地点において、大徳丸の船首部が、原針路、原速力のまま、孝栄丸の右舷船尾に真後ろから衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であり、潮候は下げ潮の末期で、天明新川及び緑川には1ノットの下向流があった。
 また、孝栄丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、採介藻漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日11時18分天明漁港を発し、有明海の漁場に向かった。
 B受審人は、天明新川河口から約400メートル上流左岸の係留地を離岸し、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で手動操舵によって同川を下航し、11時19分少し過ぎ左岸から出てきた大徳丸を認め、同船の後を追随した。
 B受審人は、11時21分少し前緑川に入って針路を西方に向けるとともに機関を半速力前進に上げて8.0ノットの対地速力とし、同時21分左舷側約5メートル離して大徳丸を追い抜いて同船の前路に出たのち、同時21分わずか過ぎ住吉灯台から080.5度1.7海里の地点で針路をほぼ標識柱に向く277度に定め、船体後部の囲壁のない操舵スタンド後方に立って操船しながら進行した。
 その後、B受審人は、顔をふくため、身体をかがめて操舵スタンド下部に入れておいたタオルを取ることとし、その際保針がおろそかにならないよう一旦減速することとしたが、後方から大徳丸が来ることを知っていたのに同船の状況を確かめるなどその動静を確認せず、同船が船尾方30メートル隔てて追随していることに気付かないまま、11時22分45秒4.0ノットの微速力に減速して続航した。
 11時23分B受審人は、顔をふき終わったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大徳丸は船首部に擦過傷を生じ、孝栄丸は右舷船尾部を割損したうえ操舵スタンドが倒壊し、のちそれぞれ修理され、B受審人が右肋骨を骨折するなどした。

(原因)
 本件衝突は、熊本県緑川河口付近の水路において、両船が、ほぼ同一針路で前後して航行中、孝栄丸に追随する大徳丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、先航する孝栄丸が、動静監視不十分で、大徳丸の前路で減速したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、緑川河口付近の水路において、先航する孝栄丸に追随中、同船が減速したのを認めた場合、追突することがないよう、速やかに減速するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に接近しても転舵によって衝突を避けることができるものと思い、速やかに減速するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、孝栄丸との衝突を招き、大徳丸の船首部に擦過傷を、孝栄丸の右舷船尾部に割損及び操舵スタンドの倒壊を生じさせたうえ、B受審人に右肋骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、緑川河口付近の水路において、大徳丸の前路を先航する場合、同船の状況を確認するなど、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方の船が注意するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、大徳丸が追随していることに気付かず、同船の前路で減速して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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