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平成13年長審第68号
件名

貨物船興福丸漁船第三十三長栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月5日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平野浩三、亀井龍雄、河本和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:興福丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第三十三長栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
興福丸・・・船首部に擦過傷
長栄丸・・・左舷後部水面下の外板に破口

原因
興福丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
長栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、興福丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三十三長栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三十三長栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月12日18時46分
 瀬戸内海安芸灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船興福丸 漁船第三十三長栄丸
総トン数 496トン 19トン
全長 75.47メートル 25.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   190

3 事実の経過
 興福丸は、コンテナ輸送に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、コンテナ291トンを積載し、船首1.1メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成12年10月12日15時30分山口県岩国港を発し、神戸港に向かった。
 18時25分A受審人は、単独の航海当直に当たって来島梶取鼻灯台から284度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点に達し、針路を073度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの速力で自動操舵により進行した。
 18時36分A受審人は、来島梶取鼻灯台から309度2.7海里の地点において、同針路同速力で進行中、右舷船首46度1.0海里のところに、第三十三長栄丸(以下、「長栄丸」という。)の白、紅2灯を認め得る状況であったが、そのころ同船より更に遠方に見える来島海峡航路西口北方から自船の前路を右方に通過する南下船の動静に気をとられ、間近には船がいないと思い、見張りを行うことなく、前路を左方に横切る態勢の長栄丸の存在に気付かず続航した。
 18時41分A受審人は、来島梶取鼻灯台から329度2.3海里の地点において、右舷船首46度0.5海里のところに衝突のおそれのある態勢で接近する長栄丸の法定灯火を認め得る状況で、同船の紅灯のみ初めて認めてレーダーによりその距離を確認したが、直ちに双眼鏡で接近する同船の灯火状態およびその方位変化を確かめるなど適切な見張りを行わなかったため、同船とは衝突のおそれがないと思い、速やかに減速するなど同船の進路を避けずに進行した。
 18時45分半過ぎA受審人は、長栄丸が間近に接近したとき、ようやく衝突のおそれがあることに気付いて汽笛で短音を5回吹鳴し、その後左舵一杯としたが及ばず、18時46分来島梶取鼻灯台から352度2.3海里の地点において、興福丸の船首が長栄丸の左舷船尾に後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、長栄丸は、FRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、漁獲物3,700キログラムを積載し、船首1.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、愛媛県喜路漁港を発し、広島県尾道糸崎港に向かった。
 18時18分B受審人は、単独の航海当直で来島梶取鼻灯台から254度3.2海里の地点に達し、大下瀬戸に向けて針路を044度に定め、機関を全速力前進にかけ、前方の見通しが良かったことからレーダーのスイッチを切って操舵用のいすに腰掛けて自動操舵とし、8.5ノットの対地速力で進行した。
 18時36分B受審人は、来島梶取鼻灯台から315度1.83海里の地点において、左舷船尾75度1.0海里のところに興福丸の白、白、緑3灯を認め得る状況で、来島海峡航路を入出航する船舶の輻輳海域であったが、いすに腰掛けたまま左舷船尾方を一瞥(いちべつ)して接近する船がいないものと思い、いすから立ち上がるなどして見張りを行っていなかったので、同船が前路を右方に横切る態勢で接近することに気付かず、進行した。
 B受審人は、その後興福丸の方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然としていすに腰掛けて見張り不十分で、警告信号を行わず、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに続航し、18時46分わずか前至近に迫った同船に気付いて左一杯としたが及ばず、原針路原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、興福丸は船首部に擦過傷を生じたのみで、長栄丸は左舷後部水面下の外板に破口を生じ、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、安芸灘において、興福丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する長栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、長栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、安芸灘において、単独の航海当直で、来島海峡航路に向けて進行する場合、前路を左方に横切る長栄丸の灯火を見落とすことのないよう、見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同航路から前路を通過する他船の動静に気をとられ、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、間近になるまで同船の接近に気付かず進行して衝突を招き、興福丸の船首部に擦過傷を、長栄丸の左舷後部水面下の外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、安芸灘において、単独の航海当直で、船舶が輻輳する来島海峡航路の西口付近を通過して大下瀬戸に向けて進行する場合、左舷船尾方から前路を右方に横切って衝突のおそれのある態勢で接近する興福丸を見落とすことのないよう、いすから立ち上がるなどして見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人はいすに腰掛けたまま船尾方を一瞥して接近する船がいないと思い、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切って衝突のおそれのある態勢で接近する興福丸に気付かないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:25KB)





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