(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月7日21時00分
福岡県博多港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船明神丸 |
総トン数 |
4.40トン |
登録長 |
11.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
308キロワット |
3 事実の経過
明神丸は、最大搭載人員13人の軽合金製交通船で、船長M及びA受審人が乗り組み、僚船の乗船者を輸送する目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年9月7日20時53分福岡県博多漁港福岡船だまりを発し、同県玄界漁港に向かった。
M船長は、自ら手動操舵に就いて操船に当たり、法定の灯火を表示し、20時57分少し前博多港西公園下防波堤灯台(以下「西公園下防波堤灯台」という。)から146度(真方位、以下同じ。)1,110メートルの地点において、針路を346度に定め、機関を回転数毎分600の微速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で、博多港西公園下防波堤北側の開口部(以下「開口部」という。)に向けて進行した。
M船長は、荒津大橋を通過していたとき、 僚船の20号明神丸から電話が入り、同船が玄界漁港を出航したので、同船と会合して乗船者を明神丸に移乗させるよう指示があり、手動操舵に就いていたことから一旦(いったん)電話を切り、20時58分少し過ぎ西公園下防波堤灯台から139度770メートルの地点において、A受審人と手動操舵を交替して操船を委ね(ゆだね)、20号明神丸に電話をかけて同船の位置及び会合地点を確認することにした。
手動操舵に就いたA受審人は、西公園下防波堤灯台及び博多港西防波堤南灯台の両灯光を左舷前方に見て、開口部に向ける転針地点まではまだ距離があることを知り、機関を回転数毎分1,600の半速力前進にかけ、15.0ノットに増速して続航した。
A受審人は、左横にいたM船長が携帯電話器で通話先の電話番号を探すことに手間取っていることが気に掛かり、右手で舵輪を握ったまま同船長の方を向いていたところ、舵が少し左に取られた状態となり、20時59分少し前西公園下防波堤灯台から127度580メートルの地点に達したころから、徐々に左回頭が始まったが、前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに進行した。
20時59分少し過ぎA受審人は、西公園下防波堤灯台から119度390メートルの地点において、左回頭を続けて船首が開口部に向き、西公園下防波堤灯台の灯光を左舷船首方に、博多港西防波堤南灯台の灯光を右舷船首方にそれぞれ視認し得る状況となり、更に左回頭が続いて西公園下防波堤灯台の灯光が右舷船首方に替わり、西公園下防波堤の東側に設置された全農福岡LPガス基地入荷桟橋に向首するようになったが、依然として、左横のM船長の方を向いたまま、前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに続航し、21時00分西公園下防波堤灯台から173.5度90メートルの地点において、明神丸は、船首が277度に向いたとき、 原速力のまま、同桟橋の係船ドルフィンに衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮のほぼ中央期で、視界は良好であった。
衝突の結果、明神丸は、左舷船首部に破口を生じ、A受審人が胸骨骨折などを、M船長が肋骨骨折などをそれぞれ負った。
(原因)
本件ドルフィン衝突は、夜間、福岡県博多港第1区において、博多漁港福岡船だまりから博多港西公園下防波堤北側の開口部に向け、手動操舵で航行する際、見張り不十分で、舵が少し左に取られた状態となって徐々に左に回頭し、同防波堤の東側に設置された桟橋の係船ドルフィンに向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福岡県博多港第1区において、博多漁港福岡船だまりから博多港西公園下防波堤北側の開口部に向け、手動操舵で航行する場合、針路が保持されるよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左横にいたM船長が、携帯電話器で通話先の電話番号を探すことに手間取っていることが気に掛かり、右手で舵輪を握ったまま同船長の方を向き、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、舵が少し左に取られた状態となり、徐々に左に回頭していることに気付かず、博多港西公園下防波堤の東側に設置された桟橋の係船ドルフィンに向首進行して衝突を招き、左舷船首部に破口を生じさせ、自身が胸骨骨折などを負い、M船長に肋骨骨折などを負わせるに至った。