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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第92号
件名

引船若潮引船列灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、西村敏和、相田尚武)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:若潮船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
旭 栄・・・右舷船首部に擦過傷
第22号灯浮標・・・浮体外筒部に凹損等

原因
潮流と風圧流の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件灯浮標衝突は、潮流と風圧流の危険性に対する配慮が不十分で、強潮時における関門航路の通航を待たなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月6日04時17分
 関門海峡

2 船舶の要目
船種船名 引船若潮 バージ旭栄3号
総トン数 492.41トン 約3,980トン
全長 51.90メートル 87.90メートル
  23.80メートル
深さ   5.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 4,118キロワット  

3 事実の経過
 若潮は、船首船橋型の押船兼引船兼作業船で、A受審人ほか5人が乗り組み、アルミスラグ6,800トンを載せて船首3.70メートル船尾5.25メートルの喫水となった無人の鋼製バージ旭栄3号(以下「旭栄」という。)を曳航(えいこう)し、船首2.80メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、平成11年12月4日15時50分福岡県三池港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 ところで、A受審人は、長年にわたり若潮によって旭栄を曳航または押航し、九州及び四国地方の製鉄所や精錬所で積載したアルミ等のスラグ類を徳山下松港に運送しており、その間、月に2、3度は関門航路を通航していた。
 A受審人は、翌々6日02時35分関門海峡西口の、六連島灯台北方1,000メートル付近に至ったときに昇橋し、関門航路通航に備えて、若潮の船首端から旭栄の船尾端までの全長が約350メートルであったものを、曳航索を巻き縮めて全長を約190メートルに調整し、それぞれに法定の灯火を表示して単独で操船に当たり、関門航路に入航した。
 03時05分A受審人は、六連島灯台から079度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点に至ったとき、左舷前方の台場鼻潮流信号所の電光板が、早鞆瀬戸の東流が8ノットであることを表示しており、更に折から西北西の風が強吹していたことから、そのまま船舶が輻輳(ふくそう)する関門航路を東行すると、水路が南東方向から北東方向に大きく屈曲し、その幅が急に狭まっている大瀬戸付近においては、強い順潮流と横風を受けて東側に圧流され、操船が困難な状況になるおそれがあったが、慎重に操船すれば大丈夫と思い、潮流の弱まるまで六連島東側泊地で錨泊して待機することなく、機関を5.0ノットの曳航速力となる全速力前進にかけて順潮流に乗じて航行した。
 A受審人は、大瀬戸第1号導灯及び同第2号導灯で示される各進路線に乗せて東行し、大瀬戸西口付近に差し掛かって航路が大きく屈曲する状態になったとき、圧流により大瀬戸第3号導灯の表示する進路線から右に約200メートル偏位する状況となったものの、同進路線に沿うよう当て舵をとりながら北上を開始した。
 04時11分半A受審人は、大瀬戸第3号導灯(前灯)から235度1,250メートルの地点に達し、関門航路第20号灯浮標(以下灯浮標の名称については関門航路を省略する。)を右舷側130メートルばかり離して並航したとき、針路を第22号灯浮標を約190メートル右舷側に離す016度に定め、右方への圧流を防ぐため左に5度の当て舵をとって、機関を引き続き全速力前進にかけ、折からの約3ノットの東流に乗じ8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 間もなく、A受審人は、風及び潮流によって自船と旭栄がそれぞれ右側に圧流され、第22号灯浮標に接近する状態となっていることに気付き、左舵15度をとって船首が010度を向く態勢としたものの、なお右方に圧流される状況となった。
 A受審人は、旭栄が第22号灯浮標に接触することを避けようとして、さらに大きく当て舵をとって船首を左に向けたようとしたが、そのころ巌流島付近の航路内に数隻の反航船が存在し、これらに対して自船の緑灯を示して前路に進出する態勢となることをおそれ、当て舵を左15度のまま続航中、同時16分半わずか過ぎ、若潮は第22号灯浮標を右舷側至近に航過できたものの、04時17分巌流島灯台から172度1,500メートルの第22号灯浮標に、旭栄の船首部右舷側ランプウェイが衝突した。
 当時、天候は曇で、風力6の西北西風が吹き、付近には約3ノットの北北東流があった。
 衝突の結果、旭栄は右舷船首部に擦過傷を生じ、第22号灯浮標は引きずられて定位置から移動したほか、浮体外筒部に凹損等を生じ、のち同灯浮標は修理されたうえ定位置に戻された。

(原因)
 本件灯浮標衝突は、夜間、満載の大型バージを曳航して船舶が輻輳する関門航路を東行するにあたり、大瀬戸付近の通過時に強い順潮流と横風を受けることが予測される際、潮流と風圧流の危険性に対する配慮が不十分で、強潮時における関門航路の通航を待たなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、満載の大型バージを曳航して船舶が輻輳する関門航路を東行する場合、東流が強かったうえ、西寄りの風が強吹していたのであるから、海峡の幅が急に狭まって潮流の流勢が強まる大瀬戸付近において操船が困難とならないよう、潮流が弱まるまで六連島東側泊地で錨泊するなどして関門航路の通航を待つべき注意義務があった。ところが、同受審人は、慎重に操船すれば大丈夫と思い、潮流が弱まるまで関門航路の通航を待たなかった職務上の過失により、旭栄と第22号灯浮標との衝突を招き、旭栄に擦過傷を生じさせ、第22号灯浮標を引きずって定位置から移動させたほか、浮体外筒部に凹損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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