(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月4日13時10分
関門港小倉区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船鶴里丸 |
総トン数 |
749トン |
全長 |
74.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
鶴里丸は、航行区域を限定沿海区域とする、船尾船橋型の油タンカーで、A受審人ほか6人が乗り組み、C重油2,000キロリットルを積載し、船首4.4メートル船尾5.2メートルの喫水をもって、平成12年2月3日13時55分岡山県水島港を発し、関門港小倉区の兼松油槽LPG桟橋(以下「桟橋」という。)に向かった。
翌4日04時45分A受審人は、着桟時間の調整のため、部埼灯台から155度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点で投錨して待機したのち、同日12時10分抜錨し、機関長を操舵室で主機の操作に当たらせ、自らは操舵操船に当たり、機関を全速力前進より少し落とした10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として桟橋に向かった。
12時51分半A受審人は、金ノ弦岬灯台の南方沖合に達したとき、左転し、速力を徐々に減じ始め、13時01分少し過ぎ砂津導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から060度510メートルの地点に達したとき、針路を桟橋の西側に設けられたドルフィンに向く228度に定め、機関を停止と微速力前進とを交互に使用して2.0ノットの速力を保ち、手動操舵により進行した。
ところで、A受審人の着桟時の操船方法は、導灯から066度280メートルの地点に達したとき、機関を停止して惰力で続航し、導灯から067.5度260メートルの地点で右舷錨を投下し、導灯から070度230メートルの地点に達したとき、機関を微速力後進にかけて行きあしを完全に止め、船首から前示ドルフィンまでの距離を約30メートルに保ち、その後、2本のヘッドラインを同ドルフィンに、スターンラインを桟橋の東側のドルフィンにそれぞれ取り、舵を右舵一杯として機関を微速力前進にかけ、錨鎖を繰り出しながら、船体を桟橋と平行となるように操船し、その後、ヘッドラインとスターンラインを巻き込んでゆっくりと桟橋に左舷側を接舷させるようにしていた。
13時05分A受審人は、導灯から066度280メートルの地点に達したとき、機関を停止して惰力で進行し、同時06分導灯から067.5度260メートルの地点で右舷錨を投下させ、その後、舵を右舵一杯として舵輪から離れ、行きあしの状態を見るために左舷側ウイングへ移動した。
13時07分A受審人は、導灯から070度230メートルの地点に至り、前進行きあしがわずかにあったので、一旦行きあしを完全に止めることにした。
ところが、A受審人は、前進行きあしを止めるため、機関長に微速力後進を指示すべきところ、誤って微速力前進を指示したが、機関長の復唱を聞き漏らしたうえ、自分では微速力後進を指示したものと思い込み、このことに気付かず、操舵室に入って回転計を見るなどの機関操作の確認をすることなく、わずかな前進行きあしが停止するのを待った。
13時10分少し前A受審人は、前進行きあしが止まらず、行きあしが更に加速していることに初めて気付き、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、13時10分鶴里丸の船首部が導灯から084度150メートルのところにあるドルフィンに、約1ノットの残存速力をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果、鶴里丸は、船首部外板に凹損を生じ、ドルフィンは、コンクリート前面コーナー部の衝突箇所に約40センチメートルの欠損、上部表面に亀裂及び鋼管杭3本の陸側への傾斜等の損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件桟橋衝突は、関門港小倉区において、兼松油槽LPG桟橋に着桟する際、機関操作の確認が不十分で、前進行きあしを止めなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、関門港小倉区において、兼松油槽LPG桟橋に着桟する際、機関操作を指示した場合、機関操作を正しく指示したかどうか確かめられるよう、操舵室に入って回転計を見るなどして機関操作を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自らは微速力後進を指示したものと思い込み、機関操作を確認しなかった職務上の過失により、微速力後進を指示すべきところ、微速力前進を指示したことに気付かず、前進行きあしを加速させながら進行してドルフィンとの衝突を招き、鶴里丸の船首部に凹損を、ドルフィンの上部表面に亀裂などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。