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平成13年門審第56号
件名

貨物船寶積丸油送船第八あさひ丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、原 清澄、橋本 學)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:寶積丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八あさひ丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
寶積丸・・・左舷前部に凹損
あさひ丸・・・左舷船首部に凹損

原因
寶積丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、港則法の航法(右側通行、衝突回避措置)不遵守
あさひ丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、港則法の航法(右側通行、衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、寶積丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、 警告信号を行わず、 衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第八あさひ丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、 警告信号を行わず、 衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月7日09時40分
 関門港小倉区堺川水路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船寶積丸 油送船第八あさひ丸
総トン数 299トン 198トン
全長   51.51メートル
登録長 47.59メートル 44.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 551キロワット

3 事実の経過
 寶積丸は、船尾船橋型の鋼製セメント運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、高炉セメント554トンを積載し、船首2.60メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成12年6月7日09時20分関門港小倉区堺川口船だまりにある新日鉄化学桟橋を発し、伊万里港に向かった。
 A受審人は、手動操舵に就いて操船に当たり、乗組員2人を船首甲板に配置し、 馬島西方を航行して関門港を通過することを示す国際信号旗K・P・U旗を掲げて堺川水路に向かい、09時25分少し前堺川口船だまり防波堤灯台から327度(真方位、以下同じ。)130メートルの地点において、同水路南西口に達したところで、針路を062度に定め、機関を回転数毎分240の極微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で、同水路の中央部をこれに沿って進行していたところ、同時32分小倉日明第2防波堤灯台(以下「第2防波堤灯台」という。)から278度1,520メートルの地点において、船首方約700メートルのところに離桟操船中の油送船を認めたので、機関を後進にかけ、行きあしを止めて同船の出航を待った。
 ところで、堺川水路は、水深7.5メートルに掘り下げられた幅員150ないし200メートル及び法線が062(242)度の水路で、関門航路側線から南西方約380メートルのところに、同水路の北東口を示す堺川第1号灯浮標及び同第2号灯浮標が150メートルの間隔で設置されており、また、同水路北西岸は、LNG基地などの護岸となっているが、南東岸は、北東側から順に廃棄物積出桟橋、三井物産エネルギー物流桟橋(以下「三井物産桟橋」という。)、ジャパンオイルネットワーク桟橋、日石三菱第1号桟橋及び同第2号桟橋(以下「日石三菱」を省略する。)並びに九州電力桟橋の各係留施設が設置されていて、同係留施設及び同水路奥部の堺川口船だまりに出入りする船舶の航路筋となっていた。
 A受審人は、しばらくして油送船が関門航路に向けて東行し始めたので、09時33分半自船も発進して再び針路を062度に定め、機関を極微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力で、堺川水路の右側端に寄って航行することなく、同水路の中央部をこれに沿って東行し、そのころ右舷前方の第1号桟橋付近から小型給油船(以下「給油船」という。)が離桟したのを認めた。
 09時35分A受審人は、第2防波堤灯台から283度1,360メートルの地点において、正船首1,150メートルのところに堺川水路の中央部を西行する第八あさひ丸(以下「あさひ丸」という。)を視認し得る状況で、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、同水路を斜航して前路を左方に横切る態勢の給油船の動静などに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、あさひ丸に対して警告信号を行うことも、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもせずに、同針路を保持したまま続航した。
 こうして、A受審人は、堺川水路の中央部を進行中、09時39分第2防波堤灯台から301度1,050メートルの地点に達したとき、給油船が行った短音2回の汽笛信号を聞き、改めて前方を確認したところ、正船首160メートルのところに自船に向首したあさひ丸を初めて認めて衝突の危険を感じ、同時39分半機関を全速力後進にかけたが、及ばず、09時40分第2防波堤灯台から306.5度1,000メートルの地点において、寶積丸は、船首が約080度を向いたとき、約2ノットの残存速力で、その左舷前部が、あさひ丸の左舷船首部に前方から約20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、あさひ丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、B受審人ほか3人が乗り組み、A重油600キロリットルを積載し、船首2.75メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、同日09時00分関門港小倉区砂津泊地を発し、堺川水路南東岸の三井物産桟橋に向かった。
 B受審人は、手動操舵に就いて操船に当たり、乗組員2人を船首甲板に配置し、堺川水路南東岸の各係留施設に向かうことを示す国際信号旗第2代表旗・R旗を掲げ、機関を回転数毎分300の微速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で進行し、砂津航路から関門航路に入り、関門航路第14号灯浮標及び同第12号灯浮標の北東方をそれぞれ約10メートル隔てて同航路の左側端を西行した。
 09時31分少し過ぎB受審人は、第2防波堤灯台から014度1,030メートルの地点において、関門航路第12号灯浮標を通過したところで左転を始め、同時32分同灯台から000度1,050メートルの地点に達して、針路を240度に定め、堺川第1号灯浮標及び同第2号灯浮標の中間に向けて続航した。
 09時33分少し過ぎB受審人は、第2防波堤灯台から353度1,000メートルの地点において、機関を回転数毎分230の極微速力前進として4.0ノットの対地速力に減じ、同時34分堺川第1号及び同第2号灯浮標の中間を通過して堺川水路に入り、同時35分同灯台から340度920メートルの地点に達したとき、正船首1,150メートルのところに同水路を東行する寶積丸を初めて視認したが、一見しただけで同船の速力が遅く、自船の方が先に左転して三井物産桟橋への着桟態勢がとれるものと判断し、同船のことは気にも止めず、同水路の右側端に寄って航行することなく、同水路の中央部をこれに沿って進行した。
 B受審人は、その後寶積丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、寶積丸に対して警告信号を行うことも、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもせずに同針路を保持したまま続航中、堺川水路を斜航して前路を右方に横切る態勢の給油船を認め、09時38分第2防波堤灯台から315度940メートルの地点において、三井物産桟橋を左舷船首26度250メートルに見るようになったところで、機関を中立として着桟態勢に入るとともに、給油船の動静を監視しながら続航した。
 こうして、B受審人は、前進惰力で進行中、09時39分第2防波堤灯台から309度970メートルの地点に達したとき、寶積丸が正船首160メートルのところに接近していたが、給油船が右方に替わったことを認めたものの、今度は三井物産桟橋に係留作業員が待機しているか否かを確認することに気を取られ、同桟橋の方を注視していて、依然として同船の接近に気付かず、同桟橋に向けるため左舵25度をとって間もなく、09時40分少し前正船首至近に迫った寶積丸を認めて衝突の危険を感じ、機関を後進一杯にかけ、右舷錨を投じたが、及ばず、あさひ丸は、 原針路のまま、約1ノットとなった残存速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寶積丸は、左舷前部に凹損及びハンドレールなどに曲損を生じ、のち修理され、あさひ丸は、左舷船首部に凹損を生じた。

(原因)
 本件衝突は、関門港小倉区堺川水路において、東行する寶積丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、航路筋の中央部を航行中、見張り不十分で、警告信号を行わず、 行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかったことと、西行する第八あさひ丸が航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、航路筋の中央部を航行中、動静監視不十分で、警告信号を行わず、 行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港小倉区堺川水路において、同水路奥部から出航して同水路を東行する場合、接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同水路を斜航して前路を左方に横切る小型給油船などに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同水路の中央部を西行する第八あさひ丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、寶積丸の左舷前部に凹損を、第八あさひ丸の左舷船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、関門港小倉区堺川水路において、同水路南東岸の係留施設に着桟するため同水路の中央部を西行中、同水路の中央部を東行する寶積丸を認めた場合、同船と衝突のおそれの有無について判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一見して寶積丸の速力が遅いので、同船より先に左転して着桟態勢に入ることができるものと思い、同水路を斜航して前路を右方に横切る小型給油船の動静及び係留作業員を確認することに気を取られ、寶積丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、寶積丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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