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平成13年門審第88号
件名

プレジャーボートジェイエイアイ突堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、西村敏和、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:ジェイエイアイ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
ジ号・・・船首部を圧壊、のち廃船、船長と同乗者2人が胸部打撲等

原因
飲酒運航の防止措置不十分

主文

 本件突堤衝突は、出航後に飲酒したばかりか、マリーナに係留中の船内で飲酒する際、飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月30日19時30分
 福岡県博多港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートジェイエイアイ
登録長 5.62メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 66キロワット

3 事実の経過
 ジェイエイアイ(以下「ジ号」という。)は、船体前部甲板下にキャビン区画を、中央部に操舵区画を配置したFRP製プレジャーボートで、A受審人は、H(以下「H同乗者」という。)ほか2人の友人とで、平成11年12月30日午後博多港を遊覧したのち、同港内の西福岡マリーナに係留して船内でバーベキューを行い、同マリーナで一泊する予定で忘年会を行うことにしたが、マリーナに一泊する旨を同乗者の1人に告げていたものの、H同乗者には告げていなかった。
 12月30日14時00分A受審人は、ジ号に1人で乗り組み、友人1人を乗せ、船首0.20メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、他の2人の友人を博多港内の箱崎ふ頭及び香椎パークポートでそれぞれ乗船させ、前示忘年会を行う目的で、同港内多々良川河口北岸の係留地を発した。
 14時10分A受審人は、箱崎ふ頭材木岸壁に到着し、同時30分容量350ミリリットルの缶ビール10缶とつまみを持参したH同乗者を乗船させたのち、同時40分香椎パークポート北側の浮き桟橋にジ号を係留し、15時30分容量1.8リットルの焼酎1本を持参した他の友人が乗船するまでの間、缶ビール1缶を、その後、4人で雑談しながら、更に缶ビール1缶と焼酎を少量飲酒した。
 16時30分A受審人は、前示浮き桟橋を発進し、博多港遊覧を兼ねて能古島に買い出しに向かい、H同乗者が海技免状を受有していなかったものの、これまでも操縦方法を教えたことがあったことから、途中、能古島付近まで同人に操縦に当たらせた。
 17時00分A受審人は能古島のフェリーターミナル付近の岸壁に到着し、容量180ミリリットルの日本酒10本とつまみを購入して、同フェリーターミナルの待合所で日本酒2本を飲んだ後、同時30分同島を発進し、目的地である西福岡マリーナに向かった。
 17時40分A受審人は、西福岡マリーナに至って、桟橋に係留し、キャビン内でバーベキューを始めたが、同乗者全員が同マリーナで一泊する予定を知っており、同受審人に無断でジ号を操縦することはないものと思い、当日は同マリーナで一泊する旨を同乗者全員に周知し、同乗者が無断で操縦することがないよう、差し込んだ機関始動キーを抜き出して厳重に保管するなど、飲酒運航の防止措置を講じることなく、平素の量を超えて飲酒をしていたことから眠気を覚え、18時00分ごろ他の同乗者2人とともにキャビン内で眠り込んだ。
 H同乗者は、他の3人が眠り込んだので、1人で飲酒を続けていたが、同桟橋で一泊することを知らされておらず、年末でもあり、その日の内に自宅に帰るつもりでいたので、自分1人でジ号を操縦して、前示香椎パークポートの浮き桟橋まで移動しておけば、他の同乗者も早く家に帰れるものと考え、差し込んだままの機関始動キーでエンジンを始動し、19時25分前示マリーナを発航した。
 発航後H同乗者は、マリーナ入口の防波堤を航過したものの、周囲はすでに真っ暗で、昼間の明るいときの風景との違和感により不安を感じたまま、海岸の灯りを頼りに、博多港姪浜2号防波堤(以下、防波堤の名称に冠する「博多港」を省略する。)沖合約30メートルを同防波堤に沿って、微速力で西行した。
 19時27分ごろA受審人は、航走している気配を感じて眼を覚まし、キャビンから出て操縦席に向かい、H同乗者が操縦しているのを認め、同時28分姪浜1号防波堤西端から272度(真方位、以下同じ。)300メートルの地点で同人と操縦を交替し、西福岡マリーナに帰航することにした。そのとき同受審人は、周囲を一瞥(いちべつ)して、右舷前方に能古島の灯りを、左舷後方に福岡ドームを認めたが、酔いのため注意力が散漫となっていたので、周囲の物標の灯火との相対位置を確かめるなどして船位を十分に確認することができず、西福岡マリーナと能古島の中間にいるものと思い、同マリーナに戻るつもりで右回頭して反転し、福岡ドームを船首目標として、同時29分わずか前姪浜地区西突堤西方沖合約620メートルの、姪浜1号防波堤西端から288度270メートルの地点で、針路を097度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ20.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 こうして、A受審人は、姪浜地区西突堤中央付近に向首し、その後同突堤に接近する状況となったが、このことに気付かないまま続航し、19時30分わずか前、助手席に座っていたH同乗者の「前、前、前」との叫び声に驚いて前方を見たところ、船首至近に同突堤を認めたが、どうすることもできず、ジ号は19時30分、姪浜1号防波堤西端から090度370メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、姪浜地区西突堤中央部の西側壁面に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 衝突の結果、ジ号は船首部を圧壊し、のち廃船とされた。また、A受審人は頭部、胸部及び足に打撲を、H同乗者は右眼下部切創並びに顔面、胸部及び左膝に打撲を、同乗者Mが3箇月の加療を要する第4腰椎圧迫骨折、左第7、8肋骨骨折、頸椎捻挫及び前額部挫創などをそれぞれ負った。

(原因)
 本件突堤衝突は、博多港において、出航後に飲酒したばかりか、マリーナに係留して船内で飲酒する際、飲酒運航の防止措置が不十分で、無資格の同乗者が操縦して同マリーナを発航し、操縦を交替して同マリーナに戻る途中、姪浜地区西突堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、博多港において、西福岡マリーナに係留して船内で飲酒をする場合、無資格の同乗者が無断で操縦して同マリーナから発航することのないよう、同マリーナで一泊する予定である旨を同乗者全員に周知し、機関始動キーを抜き出して厳重に保管するなどの飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同乗者全員が同マリーナに一泊する予定であることを知っており、無資格の同乗者が無断で操縦して同マリーナから発航することはないものと思い、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、無資格の同乗者が、差したままの機関始動キーを使用してエンジンを始動し、無断で操縦して同マリーナから発航し、これに気付いた同受審人が、同人と操縦を交替して同マリーナに帰航しようとしたものの、酔っていたため、船位を十分に確認できない状態で操縦を続け、姪浜地区西突堤に向首接近していることに気付かないまま進行して同突堤との衝突を招き、ジ号の船首部を圧壊させ、自らは頭部、胸部及び足に打撲を負い、H同乗者に右眼下部切創並びに顔面、胸部及び左膝に打撲を、同乗者Mに3箇月の加療を要する第4腰椎圧迫骨折、左第7、8肋骨骨折、頸椎捻挫及び前額部挫創などをそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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