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平成13年門審第116号
件名

漁船第三久丸漁船久栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月8日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、米原健一、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第三久丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:久栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
久 丸・・・推進器翼に欠損、船首船底外板に擦過傷
久栄丸・・・左舷前部外板に大破口、のち廃船

原因
久 丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
久栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三久丸が、見張り不十分で、漂泊中の久栄丸を避けなかったことによって発生したが、久栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月10日07時25分
 山口県萩港内

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三久丸 漁船久栄丸
総トン数 4.8トン 1.39トン
登録長 10.81メートル 7.39メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 45

3 事実の経過
 第三久丸(以下「久丸」という。)は、レーダーを装備しない、二艘(そう)引き機船底引き網漁業船団に属する魚群探索船兼運搬船で、A受審人ほか1人が乗り組み、しらすを獲る目的で、船首0.30メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成12年11月10日07時00分主船の第一久丸及び従船の第二久丸とともに山口県萩漁港越ケ浜を発し、同地の南西方に位置する萩港内の漁場に向かった。
 出航後、A受審人は、僚船2隻を萩漁港の防波堤外側で待機させ、自らは魚群の探索を行うこととし、狐島北西方沖合で探索を行ったのち、菊ケ浜の沖合で更に探索を行うため、07時22分少し過ぎ萩新漁港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から340度(真方位、以下同じ。)1,640メートルの地点で、針路を209度に定め、機関回転数を全速力前進より少し下げた毎分2,600回転として18.0ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
 ところで、A受審人は、速力が16ノットを超えると船首部が浮上し、前路に死角を生じることから、死角を補う見張りを行うため、操舵室後部壁の船尾側で、甲板上の高さ60センチメートルのところに取り付けた幅40センチメートルの木製の踏み台に上がり、操舵室の天井越しに周囲の見張りを行いながら、操船するようにしていた。
 07時24分A受審人は、東防波堤灯台から304度1,240メートルの地点に達したとき、正船首600メートルのところに、船首を南東に向けて漂泊中の久栄丸を視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、定針時に前路を一瞥(べつ)して他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
 07時24分少し過ぎA受審人は、東防波堤灯台から298度1,230メートルの地点に達したとき、正船首460メートルのところに、久栄丸が存在していたものの、依然として同船に気付かず、予定の探索海域に近づいたことから、速力を減じて前路の死角をなくす措置をとらないまま、踏み台から降り、前路の死角以外の周囲を見張りながら、魚群探知機で魚群の探索を始めた。
 こうして、久丸は、A受審人が久栄丸を見落としたまま魚群探索中、07時25分東防波堤灯台から277.5度1,340メートルの地点において、久丸の船首が原針路、原速力のまま、久栄丸の左舷船首部に後方から80度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、日出は06時42分であった。
 また、久栄丸は、レーダーを装備しない、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、ふぐを釣る目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月10日06時40分萩漁港中小畑を発し、機関回転数を微速力前進より少し上げた毎分1,200回転とし、5.4ノットの対地速力で鶴江台北西方沖合の、萩港内の漁場に向かった。
 06時50分B受審人は、漁場に至って機関を停止し、漂泊して釣りを行うこととし、船尾部で後方を向いてビールケースに腰を掛け、右舷方に1本の釣り竿を、船尾方に1本の釣り竿をそれぞれ出して釣りを始めた。
 07時24分B受審人は、船首が129度を向いていたとき、左舷船尾80度600メートルのところに、自船に向首して接近する久丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、平素、漂泊して釣りをしている自船を他船が避けてくれていたところから、そのような他船がいれば自船を避けてくれるものと思い、釣りに熱中し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続けた。
 こうして、久栄丸は、B受審人が釣りに夢中になっていたところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、久丸は、推進器翼に欠損及び船首船底外板に擦過傷を生じたが、のち修理され、久栄丸は、左舷前部外板に大破口を生じ、のち廃船処分とされた。

(原因)
 本件衝突は、山口県萩港内において、第三久丸が、見張り不十分で、漂泊中の久栄丸を避けなかったことによって発生したが、久栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県萩港内において、萩漁港越ケ浜から菊ケ浜沖合の海域に向けて航行する場合、前路で漂泊中の久栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時に前路を一瞥したとき他船を認めなかったので、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の久栄丸を見落とし、同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、死角を補う見張りを止めて魚群の探索にかかり、同船を避けることなく進行して衝突を招き、左舷船首部外板に大破口を生じさせて廃船とさせ、自船の船首船底外板に擦過傷及び推進器翼に欠損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、山口県萩港内において、漂泊して一本釣り漁を行う場合、自船に向首接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から接近する他船が自船を避けてくれていたところから、そのような他船がいれば自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、釣りに熱中し、自船に向首接近する第三久丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための措置をとることもなく、釣りを続けて同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:31KB)





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