(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月5日22時59分
瀬戸内海備讃瀬戸東部
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船こくどう丸 |
貨物船第三蛭子丸 |
総トン数 |
999トン |
198トン |
全長 |
73.32メートル |
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登録長 |
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43.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,059キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
こくどう丸は、2基2軸で可変ピッチプロペラを装備し、岡山県宇野港と香川県高松港間を折り返し運航される旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか5人が乗り組み、旅客38人を乗せ、車輌24台を積載し、船首3.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成12年12月5日22時20分高松港を発し、宇野港に向かった。
A受審人は、定時より約10分の遅れで発航し、甲板員を手動操舵に就けて操船指揮を執り、22時40分男木島灯台から214度(真方位、以下同じ。)3.55海里の地点で、針路を宇高東航路の南口に向けて305度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、所定の灯火を表示して進行した。
そのころA受審人は、右舷船首73度3.8海里のところに、備讃瀬戸東航路を西進している第三蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)の灯火を初認し、また、その後方に同航している第3船の大型フェリー(以下「第3船」という。)の灯火を視認した。
22時50分半A受審人は、男木島灯台から241度3.95海里の地点で、針路を宇高東航路に沿う347度に転じ、まもなく同航路に入ったころ、右舷前方1.6海里ばかりのところで蛭子丸の左舷側に約500メートルの間隔で並航しようとしていた第3船と発光信号を交わして自船が同船の前路を航過することになった。
こうして22時52分半A受審人は、右舷船首45度1.5海里に蛭子丸の白、白、紅3灯を認めるようになり、その後その方位にほとんど変化がなく、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、第3船の前路を替わってから避航すればよいと思い、早期に減速するなどして蛭子丸の進路を避けることなく続航した。
22時57分半A受審人は、第3船が右舷後方に替わって蛭子丸と650メートルに接近したものの、依然、減速するなどの避航動作をとらず、同時58分ごろ甲板員に同船の船尾に向けるよう指示して翼角を少し下げ、同員が右舵10度をとり、しばらくして蛭子丸が左転しているのを認めて急ぎ左舵一杯を令したが及ばず、こくどう丸は、22時59分男木島灯台から262度3.8海里の地点において、317度に向首したとき、その右舷後部に、蛭子丸の船首が後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、蛭子丸は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、B及びC両受審人ほか1人が乗り組み、塩酸200キロトンを積載し、船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同日15時30分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、山口県宇部港に向かった。
B受審人は、船橋当直を自身及びときに船長職も執るC受審人とによる単独の3時間交替制で実施し、出入航時のほか、宮ノ窪瀬戸、鼻栗瀬戸、上関海峡などの狭水道において操船指揮を執り、当直中の注意事項として要すればためらわずに機関、汽笛を使用すること、転舵を行うことなどを指示していた。
C受審人は、21時ごろ小豆島南方沖でB受審人と交替して船橋当直に就き、同時45分備讃瀬戸東航路に入り、GPSの表示を参照して航路の北端をこれに沿って西進し、22時36分男木島灯台から349度1.0海里の速力制限区間に差し掛かった地点で、針路を243度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの速力で所定の灯火を表示して進行した
22時51分半C受審人は、柏島南方で男木島灯台から265度2.55海里の地点に達したとき、針路を航路に沿って257度に転じ、そのころ左舷前方約1.7海里にこくどう丸の灯火を初認し、また自船の左舷側を同航している第3船がこくどう丸に発光信号を送ったのを認めた。
22時52分半C受審人は、左舷船首45度1.5海里のところに、こくどう丸の白、白、緑3灯を視認し、その後レーダー観測も併せて同船が方位にほとんど変化がなく前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを知り、手動操舵に切り換えたものの、そのうち避航するものと思い、警告信号を行わず、同時57分半同船が650メートルの距離で間近に接近したが、右転するとか減速するなど速やかに衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、同時58分半ごろ依然同船に避航の気配が見えず、衝突の危険を感じて左舵一杯をとり全速力後進をかけたが効なく、蛭子丸は、237度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
B受審人は、自室で休息していたとき後進がかかったことに気付き、船窓から外を見て衝突を知り、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
衝突の結果、こくどう丸は、右舷後部外板に亀裂を伴う凹損を、蛭子丸は、左舷船首部外板に凹損及び同部ハンドレールに曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東部において、宇高東航路を北上するこくどう丸と備讃瀬戸東航路を西進する蛭子丸が、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、こくどう丸が、前路を左方に横切る蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宇高東航路を北上中、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する蛭子丸を認めた場合、早期に同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、蛭子丸の左舷側を並航していた第3船の前路を替わってから避航すればよいと思い、早期に同船の進路を避けなかった職務上の過失により、衝突を招き、こくどう丸の右舷後部外板に亀裂を伴う凹損を、蛭子丸の左舷船首部外板及びハンドレールに凹損、曲損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路を西進中、こくどう丸が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で間近に接近するのを認めた場合、速やかに衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちこくどう丸が避航動作をとるものと思い、速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。