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平成13年広審第98号
件名

漁船第二永福丸漁船第三金平丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(?橋昭雄、坂爪 靖、横須賀勇一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二永福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第三金平丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:第三金平丸甲板員 

損害
永福丸・・・船首外板に破口
金平丸・・・左舷後部外板に破口、浸水

原因
永福丸・・・居眠り運航防止措置不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
平丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、漁場を移動する第二永福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁ろうに従事中の第三金平丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三金平丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月2日05時35分
 日本海 隠岐諸島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二永福丸 漁船第三金平丸
総トン数 85トン 75トン
登録長 28.37メートル 25.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 507キロワット 507キロワット

3 事実の経過
  第二永福丸(以下「永福丸」という。)は、掛け回し漁法による沖合底引網漁業に従事する、船橋が船体中央やや後部に位置した鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.1メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成12年2月1日08時00分鳥取県鳥取港を発し、隠岐諸島西方沖合に向かった。
 途中、A受審人は、鳥取港から北西方30海里沖合の漁場に至ったところで7回の操業を行ったのち、翌2日未明付近海域で操業していた同業船が次々漁場を移動し始めたころ、自船も予定していた隠岐諸島西方沖の漁場に向かうため操業を打ち切り、04時05分美保関灯台から037度(真方位、以下同じ。)24.2海里の地点で、針路を306度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で自動操舵により発進した。
 ところで、A受審人は、船橋当直及び休息について、漁場に向かうとき及び操業中は投網後の漁獲物選別の間を自ら単独で当直を行うこととし、休息を1回約2時間を要する操業と操業との合間で投網後の選別作業を済ませた甲板員と交替してとるようにしていた。しかし、1回の睡眠が30分から1時間の短い休息のため、疲れを完全に回復することができずに疲労が残り、発進して間もなく疲れを感じる状態であったが、近くに他船を見かけなくなったこともあって見張りに対する配慮を欠き、見張り補助員を配するなり、見張りの位置を変えるなりして努めて居眠り運航の防止措置をとることなく、船橋後部に置かれたいすに腰掛けたままの姿勢で単独で当直を行っていたところ、いつしか居眠りに陥ってしまった。
 こうして、05時21分半A受審人は、右舷船首18度2海里に漁ろうに従事中の第三金平丸(以下「金平丸」という。)の灯火を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、これに気付かず、同船の進路を避けないまま続航し、05時35分西郷岬灯台から167度8.3海里の地点において、永福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が金平丸の左舷側後部に後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、金平丸は、主船として2そう引き沖合底引網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人(以下、両人の姓を略する。)ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.9メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、僚船を伴って同年1月31日06時20分鳥取県境港を発し、隠岐諸島南方沖の漁場に至って投網を繰り返しながら僚船と操業を続け、越えて2月2日未明同諸島南東方10海里沖合に至った。
 ところで、僚船との2そう引き網による操業は、主船と従船とがそれぞれ搭載していた網を交互に投網して両船が約200メートルの間隔をもって曵網し、それぞれが投網した網を引き揚げて漁獲物の選別を行うもので、1回の操業時間が約2時間45分のうち曵網に2時間余りを要した。そこで、B受審人は、自船側の網を曵網中は甲板員4名による単独船橋当直を、そして従船側の網を曵網中は甲板員に揚網した自船側の網で獲た漁獲物の選別作業を行わせて自らが当直を行うようにしていた。その際、甲板員の当直にあたっては、一定の曵網速力の保持及び他船との接近を避けることなどの注意事項を与えていた。
 こうして、05時00分B受審人は、自船側の投網を終えると所定の灯火を表示し、西郷岬灯台から155度8.2海里の地点で、針路を246度に定め、機関を微速力前進にかけて3.0ノットの曵網速力で右舷正横方約200メートル離れた従船と並航するように進行した。同時15分当直のため昇橋したC指定海難関係人に当直を行わせ、甲板に降りて次の揚網作業の段取りをし、間もなく船橋内後部ベッドで休息するため再び昇橋したとき、周囲に操業の他船の灯火の点在する状況であったが、当直中の同人に対して後方から接近する他船を見て見張りを指示したので、いつものとおり見張りを行ってくれるものと思い、周囲の見張り及び接近する他船の報告等に関する指示を十分に行うことなく休息に就いた。
 ところが、C指定海難関係人は、船橋内に置かれたいすに腰掛けた姿勢で前方に認めていた同業船を見張っていたものの、周囲に対する見張りを十分に行わなかったので、05時21分半左舷正横後12度約2海里に永福丸の白、白、緑の3灯を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、これに気付かず、B受審人は接近する同船の報告を受けられず、警告信号を行うことも機関を使用して衝突を避けるための協力動作もとられないまま曵網を続け、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、永福丸は船首外板に破口を生じ、金平丸は左舷後部外板に破口を生じて浸水したほかマストを曲損し、僚船により境港に引き寄せられ、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、未明、隠岐諸島南東方沖合において、漁場に向かって移動中の永福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁ろうに従事中の金平丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金平丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 金平丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の単独船橋当直者に対する見張り及び接近する他船の報告等に関する指示を十分に行わなかったことと、同当直者が周囲に対する見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、未明、隠岐諸島南東方沖合において、操業に引き続いて次の漁場に向かって移動する際、操業中の短い睡眠の繰り返しで休息を十分にとれずに疲れを感じたまま船橋当直に就く場合、仮にも居眠り運航に陥ることのないよう、見張りの補助員を配するなり、当直中には見張りの位置を変えるなりして努めて居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、次第に他船を見かけなくなったこともあって見張りに対する配慮を欠き、努めて居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに座った姿勢のまま単独で当直を続けて居眠りに陥り、漁ろうに従事中の金平丸の進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、永福丸の船首外板に破口を、金平丸の左舷後部外板に破口及びマストの曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、未明、隠岐諸島南東方沖合において、無資格者に単独で曵網中の船橋当直を行わせる場合、付近には他船が点在する状況であったから、周囲に対する見張り及び接近する他船の報告等に関する指示を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、当直者がいつものとおり見張りを行ってくれるものと思い、見張り及び接近する他船の報告等に関する指示を十分に行わなかった職務上の過失により、当直者が見張り不十分で接近する永福丸に気付かず、同人からの何らの報告も受けられず警告信号も衝突を避けるための協力動作もとれないまま曵網を続けて、永福丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、未明、単独で曵網中の船橋当直に就いていた際、周囲に対する見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:18KB)





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