(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月6日20時20分
長崎県 平戸瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第三近祥丸 |
総トン数 |
697トン |
全長 |
73.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第三近祥丸(以下「近祥丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成13年8月6日12時30分熊本県八代港を発し、平戸瀬戸及び関門経由で大分港に向かった。
ところで、平戸瀬戸は、九州西岸に沿って航行するときの最大の難所で牛ヶ首及び南竜埼付近で大きくわん曲し、S字形の複雑な水路地形を成しているうえに、可航幅も400メートルと狭く、強潮流の影響があるなど特殊な航行環境であり、各変針点付近において狭い水道における右側端航行が適正に守られにくい水道であったので、航行にあたっては、できるだけ夜間の通峡は避け、強い潮流のあるときは水道の入口で潮待ちするとか、わん曲部では行き会わないようにする注意が必要であった。
また、A受審人は、夜間、北流の最強時に同瀬戸を通航することになることを知っており、内航タンカーの乗船履歴も長く、平戸瀬戸を幾度となく通航していた。
19時45分A受審人は、沖ノ六ツ瀬灯浮標から285度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点において、一等航海士から当直を引き継ぎ、甲板員を見張りにつけ、自ら操舵輪をとって当直に当たり、平戸瀬戸に向けて北上し、20時14分半平戸大橋橋梁灯(C1灯)(以下「橋梁灯」という。)から200度1,400メートルの地点に達したとき、針路を029度に定めて機関を全速力前進にかけ、折からの順流に乗じて14.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
定針したころ、A受審人は、同瀬戸の左にわん曲した最狭部まで0.7海里となり、南竜埼の陰により行き会うことになる南下船を見ることができない水域に接近していたが、長音1回の汽笛信号を行うことなく続航した。
20時16分少し過ぎA受審人は、針路を平戸瀬戸中央を示す橋梁灯に向けて010度として進行中、同時16分半左舷船首約15度方向に南竜埼の陰から大田助瀬灯標の灯光を認め、そのわずか右方約0.8海里のところに同瀬戸を南下する船舶の白、白、緑3灯を初めて視認し、このまま続航すれば、同船と瀬戸のわん曲した最狭部で行き会う状況であることを知った。
ところが、A受審人は、平戸瀬戸を幾度も通航していたことから、在橋していた一等航海士に探照灯で閃光1回を照射させて南下船に注意を与えるとともに、機関を半速力前進として針路を037度とし、同瀬戸の右側端に寄せれば互いに無難に航過できるものと思い、わん曲した最狭部で同船と行き会うことのないよう、機関を微速力前進にするなど行きあしを十分に減ずる措置をとることなく、同時17分少し過ぎ針路を橋梁灯と東側橋脚間の中央に向けて010度とし、折からの順潮により右に2度圧流されて進行し、平戸大橋通過後左転して南下船と左舷を対して航過するつもりで続航した。
20時18分A受審人は、平戸大橋を通過したものの左舷約23度方向からわん曲部に差し掛かるのに、依然、右転の気配のないまま接近する同船に対し、慌てて閃光5回を照射して機関を微速力前進としたものの、増勢する潮流に乗じて11ノットの速力で、原針路のまま進行中、同時19分少し前船首方向の田平港西防波堤に300メートルに接近したときようやく同方位のまま同船の両舷灯が見えるようになったが、至近に迫っていて左転することができず、防波堤に向首したまま続航した。
20時19分わずか過ぎA受審人は、同船と左舷を対して至近を航過した直後、左舵一杯としたものの、折からの強潮流により舵効きが悪く、同時19分半、機関を全速力後進をかけたが、効なく、近祥丸は20時20分大田助瀬灯標から094度440メートルの地点で350度に向首したとき、6ノットの速力で、右舷船首が後方から30度の角度で防波堤と衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、南竜埼東側の同瀬戸最狭部中央では4.5ノットの北北東流があった。
衝突の結果、近祥丸の船首部に亀裂を伴う圧損を生じ、田平港西防波堤上の送電柱等に損傷を与え、当直中の甲板員が鼻骨骨折等を負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、北流最強時の平戸瀬戸を北上中、他の船舶を見ることのできない狭い水道のわん曲部に接近するとき長音1回の汽笛信号を行わず、同瀬戸を南下中の船舶を認めた際、行きあしを減ずる措置が不十分で、同わん曲部で他の船舶と行き会うことを避けることなく、田平港西防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、北流最強時の平戸瀬戸を北上中、同瀬戸を南下する船舶を視認した場合、わん曲した最狭部で同船と行き会うことのないよう、行きあしを減ずる措置を十分とるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同瀬戸を幾度も通航したことがあることから、南下船に対して探照灯で注意を与えたので、自船も同瀬戸の右側端に寄せれば互いに無難に航過できると思い、わん曲した最狭部で同船と行き会うことのないよう、行きあしを減ずる措置を十分とらなかった職務上の過失により、同瀬戸のわん曲した最狭部で同船と行き会う態勢となり、左転できないまま、田平港西防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、近祥丸の球状船首部に亀裂を伴う圧損を、当直中の甲板員に鼻骨骨折等の負傷及び防波堤上の送電柱等に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。