(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月30日08時50分
島根県 大岬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船生祐丸 |
漁船義丸 |
総トン数 |
2.62トン |
2.4トン |
全長 |
7.58メートル |
8.38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
45 |
70 |
3 事実の経過
生祐丸は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年7月30日05時00分島根県波根漁港を発し、同時20分同県大田市沖合の漁場に到着し、操業を始めた。
A受審人は、2回の操業を行ったが、あまり漁獲がなかったことから、大岬北方沖合の漁場に替えることとし、08時38分大岬灯台から020度(真方位、以下同じ。)5.3海里の地点で、針路を219度に定め、機関を全速力前進の16.0ノットにかけ、舵柄を操作しながら進行した。
ところで、A受審人は、生祐丸の操船に際し、眼高が操舵室屋根の高さとほぼ同じになるため前方が見にくくなるので、同室後方の甲板上に長さ60センチメートル(以下「センチ」という。)幅30センチ高さ30センチの石箱(以下「踏台」という。)を置き、その上に立って操舵にあたり、更に同室上部前方に高さ50センチの風防を取り付けていた。また、魚群探知器とGPSが同室内の下段に装備されていたので、これらを使用するときは腰を屈めた状態で操作しなければならなかった。
A受審人は、次の漁場が漁船の少ないところで、2ないし3日前に良く釣れた水深約95メートルの地点を確かめるため、魚群探知器とGPSの映像を腰を屈めて監視しながら続航した。
08時48分A受審人は、正船首方約990メートルのところに義丸が存在し、同時49分正船首方約490メートルのところで、同船が船首を南方に向けて漂泊しているのを認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で接近している状況であったが、次の漁場が漁船の少ないところだったので前路に他船はいないものと思い、魚群探知器とGPSの映像を監視することに気を取られ、踏台の上に立って見張りをしなかったので、前路の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、同船を避けずに進行中、08時50分大岬灯台から357度2.6海里の地点において、生祐丸は、原針路、原速力のまま、その船首が義丸の左舷船首部に後方から45度の角度で衝突し、その後同船に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、視界は良好であった。
また、義丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、めだい釣りの目的で、船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日06時00分島根県五十猛漁港を発し、大岬北方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、漁場到着後、機関を回転数毎分500の中立運転とし、船尾にスパンカーを揚げ、操舵室後方の右舷側にいすを置いてそれに座り、船首を南風に立て南西流に乗じてめだい釣りを始め、潮上りを数回繰り返して釣りを続けたが、釣果がなかったので漁場を替えることとして移動し、水深約110メートルのところで潮上りを繰り返しながら釣りを行ったものの、ここでも釣果がなかったので再び移動することとした。
07時20分ごろB受審人は、前示衝突地点付近に至って釣りを再開し、08時48分船首が174度に向いていたとき、左舷正横後45度990メートルのところに南西に向けて航行中の生祐丸を初認し、同時49分同船が同方向490メートルとなり、減速するなどの避航動作をとらないまま自船に向首接近しているのを認めたが、釣果の状況を聞きに来たものと思い、避航を促す有効な音響による信号を行うことも、機関を後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続け、08時50分わずか前生祐丸が至近に迫ったので衝突の危険を感じ、機関を後進にかけたが及ばず、義丸は174度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、生祐丸は船首部船底に亀裂を伴う破口を、右舷中央部水線下に破口をそれぞれ生じ、義丸のロープがプロペラ軸に絡んで航行不能となり僚船により五十猛漁港に引き付けられ、義丸は左舷船首部外板が脱落し、右舷船首部外板に亀裂を生じて船首部に浸水したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、島根県大岬北方沖合において、漁場移動中の生祐丸が、見張り不十分で、前路で漂泊して釣りをしている義丸を避けなかったことによって発生したが、義丸が、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、島根県大岬北方沖合において、漁場を移動する場合、前路で漂泊して釣りをしている他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、次の漁場が漁船の少ないところだったので前路に他船はいないものと思い、魚群探知器とGPSの映像を監視することに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船を避けないまま進行して衝突を招き、生祐丸の船首部船底に亀裂を伴う破口と、右舷中央部水線下に破口を生じ、義丸のロープがプロペラ軸に絡んで僚船により五十猛漁港に引き付けられ、義丸は左舷船首部外板が脱落し、右舷船首部外板に亀裂を生じて船首部に浸水をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、島根県大岬北方沖合において、漂泊して一本釣り中、生祐丸が減速するなどの避航動作をとらないまま自船に向首接近してくるのを認めた場合、機関を後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、生祐丸が自船に釣果の状況を聞きに来たものと思い、機関を後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま漂泊し続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。