(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月21日02時02分
瀬戸内海 大下瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第五十五洞海丸 |
はしけBG102 |
総トン数 |
299トン |
6,119トン |
全長 |
41.80メートル |
119.5メートル |
幅 |
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19.0メートル |
深さ |
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9.5メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,323キロワット |
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船種船名 |
引船鳳竜丸 |
台船102号 |
総トン数 |
98トン |
318トン |
全長 |
29.95メートル |
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登録長 |
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50.0メートル |
幅 |
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18.0メートル |
深さ |
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3.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
551キロワット |
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3 事実の経過
第五十五洞海丸(以下「洞海丸」という。)は、専ら海砂運搬に従事し、2基2軸を装備した引船兼押船で、A受審人ほか7人が乗り組み、海砂約1,500立方メートルを載せ、装備されたクレーン修理の目的で、船首4.2メートル船尾5.0メートルの喫水となった鋼製はしけBG102(以下「BG102」という。)の船尾中央ノッチ部に、船首部を結合して押船列(以下「洞海丸押船列」という。)をなし、船首尾とも1.8メートルの等喫水をもって、平成11年5月21日01時30分広島県木江港東方約1,100メートル沖合の錨地で揚錨を開始した。
01時40分A受審人は、押船列が表示する所定の灯火を点灯し、木江港宇浜防波堤南灯台から105度(真方位、以下同じ。)1,020メートルの地点で揚錨を終え、愛媛県西条港に向かうため、針路を171度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して5.0ノットの押航速力(以下「速力」という。)とし、自ら操舵輪をとり、次席一等航海士を見張りにあてて進行した。
01時50分A受審人は、中ノ鼻灯台から062度1,100メートルの地点に達したとき、北上する船舶に注意しながら、針路を大下瀬戸の右側端に向く224度に転じ、同時56分半左舷船首21度1.1海里に北上する鳳竜丸及び台船102号(以下「鳳竜丸引船列」という。)のそれぞれの灯火を初認し、同引船列がそのまま北上するのか、西方の明石瀬戸に向かうのか不明だったので、その動静を監視しながら続航した。
ところで、大下瀬戸は、広島県大崎上島、同大下島、同小大下島からなる、長さが約2海里、幅員が最狭部で約750メートルの狭い水道で、船舶が同瀬戸の右側端を南下するときは、大崎上島の南端に寄って西行したのち、小大下島に沿って航行し、また、北上するときは、大下島に寄って航行したのち、同島北端のナブチ鼻辺りまで東行し、その後針路を北に向けて航行する必要があった。
01時57分少し過ぎA受審人は、鳳竜丸引船列が右転して紅灯を示し、大下島の北端に向かうのを認め、同時58分半同引船列が同島北端に達し、左舷船首28度1,320メートルに認めたとき、左転して再び緑灯を示し、大下瀬戸の右側端に寄らずに航行し始め、その後衝突のおそれがある態勢で大下瀬戸の右側端に寄らずに北上するのを知ったので、警告信号を行ったものの、避航の気配もなく接近してきたが、汽笛を吹鳴していればいずれ同引船列が同瀬戸の右側端に寄るものと思い、右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく、再び短音を鳴らしながら進行した。
02時01分半A受審人は、依然鳳竜丸引船列が避航の気配もなく接近してくるので、衝突の危険を感じ、右舵一杯をとったが、効なく、02時02分中ノ鼻灯台から201度880メートルの地点において、洞海丸押船列は、船首が254度を向いたとき、原速力のまま、BG102の左舷中央部に鳳竜丸の船首が前方から74度の角度で衝突したあと、台船の左舷前部がBG102の左舷後部に再び衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、付近海域には約1.5ノットの北東流があった。
また、鳳竜丸は、鋼製引船で、B受審人ほか2人が乗り組み、船首尾とも0.5メートルの等喫水となった無人で空倉の鋼製台船102号(以下「台船」という。)の、左右先端両舷のビットにそれぞれ係止された直径28ミリメートル長さ約22メートルのワイヤロープに、直径80ミリメートル長さ60メートルのナイロンロープを連結した引索でこれを船尾にとり、同船尾から台船後端までの長さを約122.0メートルの引船列とし、台船を水島港の係留地に返却する目的で、船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月20日14時40分福岡県宇島港を発し、水島港に向かった。
ところで、B受審人は、航海当直を3人による単独4時間3直制としていたが、同受審人以外は無資格者で、特に甲板員は同当直の経験が少なかった。
19時10分ごろB受審人は、山口県祝島の南西方約4.0海里の地点に達したとき、日没となったので、鳳竜丸に引船としての所定の灯火のほかマスト頂部に緑色回転灯を、台船甲板上に白色と黄色の点滅灯を両舷にそれぞれ3本ずつ点灯して周防灘、平郡水道を東行し、23時00分愛媛県二神島の南西方約5.0海里の地点で、甲板員が昇橋してきたので船橋当直を行わせたが、同人が夜間にこれから差し掛かる大下瀬戸の航海経験がなかったので、船橋後部に設置されている長いすに横になり、時々起きあがって操船の指示を与えながら進行した。
翌21日01時49分甲板員は、大下島灯台から219度1,410メートルの地点に達したとき、長いすに横になっていたB受審人に知らせないまま、針路を大下瀬戸のほぼ中間に向く016度に定め、機関を全速力前進にかけ、順潮流に乗じて8.0ノットの曳航速力(以下「速力」という。)で北上した。
01時56分B受審人は、大下瀬戸に向けようとして長いすから起きあがって周囲を見渡したところ、すでに予定の016度の針路に向けられたことを知ったとき、右舷船首7度約1.2海里に洞海丸押船列の灯火を初認し、同押船列が大崎上島の南端に寄って西行していることを知ったが、甲板員に大下島北西端にある険礁に接近しないよう、また同島の北端を替わしたところで針路を東北東にして航行するよう指示したので、そのまま同押船列と互いに左舷を対して航過するものと思い、適宜指示を与えながら操舵を行わせずに再び長いすに横たわった。
こうして、01時57分少し過ぎB受審人は、大下島灯台から341度910メートルの地点で、甲板員が大下島に沿うよう徐々に右転して同島北西端付近の険礁に近づき過ぎ、同時58分半中ノ鼻灯台から190度1,760メートルの地点で、同険礁から離すつもりで針路を000度に転じて狭い水道の左側に進出する態勢となり、右舷船首16度1,320メートルに迫った洞海丸押船列とその後衝突のおそれがある状況となったが、これに気付かず、速やかに同水道の右側端に寄らないまま続航した。
その後、甲板員が、レーダーで曳航中の台船と大下島との接近模様に気をとられたまま進行し、02時02分わずか前船首至近に迫っている洞海丸押船列を認めて急いで右舵一杯としたものの及ばず、鳳竜丸は原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
これより先、B受審人は、甲板員の異常な動作に気付いて起きあがったとき、船首至近に迫った洞海丸押船列を認めたが、どうすることもできなかった。
衝突の結果、BG102は、左舷中央部及び後部に凹損を生じ、鳳竜丸は、船首部に軽微な凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、狭い水道に該当する大下瀬戸において、鳳竜丸引船列が、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、洞海丸押船列が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、無資格の甲板員に操舵させながら大下瀬戸を北上する際、同瀬戸の右側端沿いを南下する洞海丸押船列を認めた場合、同瀬戸の左側に進出することのないよう、適宜操舵指示を与えながら狭い水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、操舵中の甲板員に大下島を替わったところで針路を東北東に向けるように指示したので瀬戸の右側端に寄って航行することになり、そのまま同押船列と互いに左舷を対して航過するものと思い、適宜指示を与えながら操舵を行わせず、一時的に船橋後部の長いすに横になり狭い水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、同押船列との衝突を招き、BG102の左舷中央部及び後部に凹損を、鳳竜丸の船首部に軽微な凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、狭い水道に該当する大下瀬戸において、同瀬戸の右側端に寄らずに北上している鳳竜丸引船列を初認し、警告信号を吹鳴しても同瀬戸の右側端に寄らずに、衝突のおそれがある態勢で接近してくる同引船列を認めた場合、右転するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、汽笛を吹鳴していればいずれ同引船列が同瀬戸の右側端に寄るものと思い、右転するなどして衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同一針路のまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。