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平成13年神審第79号
件名

貨物船レディー ピー貨物船トロピカル シーロード衝突事件

二審請求者 〔補佐人赤地 茂、補佐人松井孝之、
   受審人A、補佐人君島通夫、 補佐人
   中村哲朗、補佐人秋葉隆行、 補佐人
   小川洋一〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、西山烝一、前久保勝己)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:レディー ピー水先人 水先免状:大阪湾水先区
B 職名:トロピカル シーロード水先人 水先免状:大阪湾水先区

損害
レ 号・・・右舷船首部のブルワークに曲損、右舷中央部外板に擦過傷
ト 号・・・左舷船首部のハンドレール、凹損、左舷船尾部外板に擦過傷

原因
レ 号・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
ト 号・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、レディー ピーが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、トロピカル シーロードが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月14日08時32分
 大阪湾南部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船レディー ピー 貨物船トロピカル シーロード
総トン数 14,147トン 12,265トン
全長 160.00メートル 129.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,758キロワット 3,603キロワット

3 事実の経過
 レディー ピー(以下「レ号」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Jほか20人が乗り組み、亜鉛11,228トンを載せ、船首6.80メートル船尾7.10メートルの喫水をもって、平成13年7月12日17時00分福島県小名浜港を発し、兵庫県姫路港に向かった。
 翌々14日07時06分J船長は、友ケ島水道南方沖合でA受審人を乗せ、同人に嚮導を依頼したころ、折から霧のため視程200メートルの視界制限状態なので、所定の灯火を表示し、霧中信号を自動吹鳴しながら北上した。
 A受審人は、J船長、当直航海士及び同操舵手が在橋の下、07時53分友ケ島灯台を右舷側に並航して間もなく、視程が1ないし2海里にやや回復し、霧中信号を中断して北上中、08時10分洲本沖灯浮標(以下、海図W106中の同灯浮標記載の地点を「基点」という。)から159度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、針路を025度に定め、機関を12.0ノット(対地速力、以下同じ。)の港内全速力前進にかけ、手動操舵により進行した。
 当時、大阪湾内には、霧警報等の発表はなかったが、基点の南方0.5海里から同北方3.2海里にかけての東西方向に、視程100ないし200メートルの濃霧海域(以下「濃霧帯」という。)が地域的に発生していた。
 A受審人は、08時15分基点の東方沖に差し掛かったころ濃霧帯に入り、霧中信号の自動吹鳴を再開して原速力のまま続航し、同時17分基点から087度1.2海里の地点で、衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)付レーダー画面により、右舷船首21度5.0海里にトロピカル シーロード(以下「ト号」という。)のレーダー映像を初めて探知すると同時に、同映像の左舷側に2隻、右舷側に1隻の各船舶映像を認め、いずれも反航模様のベクトル表示を伴っていることを知ったものの、機関を半速力にするなど安全な速力とせず、原速力のまま進行した。
 08時22分少し過ぎA受審人は、基点から058度1.9海里の地点で、アルパ情報により、ト号のレーダー映像が右舷船首24度3.0海里となり、同映像が1万トンクラスの船舶であること、前示反航模様3隻の各速力がト号より遅いこと、ト号映像の最接近距離(以下「CPA」という。)が近いこと及び右転減速模様で進行していることを知った。
 08時24分半A受審人は、基点から051度2.4海里の地点に至り、ト号の映像が右舷船首27度2.0海里となったのを認め、ト号に著しく接近することを避けることができない状況となったが、右舷対右舷で替わるものと思い、直ちに大幅な減速を開始して、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することもなく、原速力のまま進行した。
 こうして、A受審人は、ト号の映像が船首輝線の右側に表示され、同映像の方位変化が開き気味なので、ト号との右舷対右舷航過を期待し、08時27分基点から046.5度2.8海里の地点で、針路を010度に転じ、同時28分ト号の映像が右舷船首35度1.0海里に迫ってなおも、緊急避航時機を失したまま続航中、右舷側にト号の霧中信号を聞き、同時30分右舷ウイングに出てト号の視認に集中していたところ、同時31分半右舷側至近にト号の船影を認め、左舵一杯、機関停止としたが及ばず、左旋回の偏角を生じてすぐの08時32分基点から038度3.7海里の地点において、レ号は005度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その右舷船首部が、ト号の左舷船首部に、後方から15度の角度で衝突した。
 衝突の直後、ト号の船尾部がレ号の右舷側に接触して、両船は分離した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視程は100ないし200メートルであった。
 また、ト号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Tほか17人が乗り組み、空船で船首3.58メートル船尾5.51メートルの喫水をもって、同日06時45分B受審人嚮導のもと、大阪府阪南港を発し、大韓民国釜山港に向かった。
 B受審人は、T船長、当直航海士及び同操舵手が在橋の下、07時55分少し過ぎ関西国際空港北西端を左舷側に並航して南西進中、08時10分基点から053度7.7海里の地点に達したとき、針路を235度に定め、機関を13.0ノットの航海全速力前進にかけ、手動操舵により進行した。
 08時21分ごろB受審人は、関西国際空港南端西方沖の地点に差し掛かって急に濃霧帯に入り、所定の灯火を表示し霧中信号の自動吹鳴を始めたが、機関用意を確認しないまま続航した。
 08時22分少し過ぎB受審人は、基点から051度5.1海里の地点で、左舷船首6度3.0海里にレ号のレーダー映像を初めて探知し、アルパ情報により、レ号が北北東方に進行中でCPAが近いことを知ったが、速やかに機関用意を確認して安全な速力とせず、左舷対左舷航過の期待をもって小刻みに右転を開始した。
 08時24分半B受審人は、基点から050度4.4海里の地点で、245度に向首しているとき、レ号の映像が左舷船首10度2.0海里となったのを認め、レ号に著しく接近することを避けることができない状況となったが、レ号と左舷対左舷で航過できるものと思い、直ちに大幅な減速を始め、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することもなく、小刻みに右転を続けながら原速力のまま進行した。
 こうして、B受審人は、08時27分基点から047度4.0海里の地点で、270度に向首して保針を命じ、同時28分レ号のレーダー映像が左舷船首40度1.0海里に迫った状況下、T船長からの進言もあって、同時29分半右舵一杯と針路300度とを命じ、整定速力8.4ノットの半速力前進を令して間もなく、同時31分レ号吹鳴の霧中信号を聞くに及んで衝突危険の切迫を感じ、左舷ウイングでレ号の視認に集中したところ、同時31分半左舷側至近にレ号の船影を認め、衝突衝撃緩和の目的をもって右舵一杯と全速力前進とを命じ、舵効の増大を試み右旋回中、ト号は350度に向首したとき、9.5ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、レ号は右舷船首部のブルワークに曲損と右舷中央部外板に擦過傷を、ト号は左舷船首部のハンドレール、ブルワーク及び上甲板に凹損と左舷船尾部外板に擦過傷を生じた。
 その後、ト号は造船所において修理されたが、レ号は即時の海難工事を見合わせ航海を継続した。

(航法の適用)
 本件は、大阪湾において、北上中のレ号と南下中のト号とが洲本沖灯浮標の北方海域で衝突したものであるが、同海域は港則法の適用海域外で、海上交通安全法に適用される航法の規定がないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)により律することになる。
1 予防法第6条
 同条は、あらゆる視界の状態における船舶の航法のなかで、安全な速力として、「他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。」とし、その際に考慮しなければならない事項として、同条第1号に「視界の状態」を挙げている。
 本件の視界の状態は、両船の相対位置関係が3.0海里となって以降、共に視程100ないし200メートルの濃霧帯であったから、次の要件により、両船共に「安全な速力」としなかった点を摘示した。
(1)レ号の速力は、事実の経過のとおり港内全速力の12.0ノットと認定したが、航海全速力と断定するまでに至らなかったまでで、友ケ島水道を通過後やや視界が回復し、再び濃霧帯に入り衝突前のいわゆる悲鳴操船である機関停止まで、一切機関を使用していないので、安全な速力とは認められない。
(2)ト号の速力は、衝突2分前の半速力前進を令するまで、濃霧帯に入ってからも航海全速力13.0ノットと認定した。これは、次に示す機関用意との関連があるが、仮に機関用意としていたとしても、具体的に衝突の2分前まで半速力以下の機関操作は行っておらず、ト号の減速惰力効果を勘案すると、安全な速力とは認められない。

2 予防法第19条第2項
 同項は、「動力船は、視界制限状態においては、機関を直ちに操作することができるようにしておかなければならない。」として、いわゆる機関用意又はスタンバイエンジンとしておくことを示したものである。
 一般に、航海速力から港内速力に移行するときは、機関用意の手続きをとるから、レ号は、港内全速力前進としていた点に的を当てると、機関用意をしていたことになるが、前示のように、悲鳴操船まで一貫して12.0ノットの速力を維持しており、仮に機関用意の手続き状況下としても、減速意識は希薄で同手続きが全く生かされていない。
 また、ト号は、時機が遅れたものの、減速意識は具体的に示され、衝突の2分前には半速力前進を命令し、ベルブックによると同命令に応答している記載があるので、この点に的を絞ると機関用意の手続きは踏んでいたことになる反面、濃霧帯に入り機関用意としたベルブックの応答の記載がない。
 このように、機関用意手続きの有無についての揺らぎもあって、本件においては、単純に二者択一の「有」に踏み切らなかったものである。
3 予防法第19条第4項及び同第5項
 予防法第19条第4項は、「他の船舶の存在をレーダーのみによって探知した船舶は、当該他の船舶に著しく接近することとなるかどうか又は当該他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断しなければならず、また、他の船舶と衝突するおそれがあると判断した場合は、十分に余裕のある時期にこれらの事態を避けるための動作をとらなければならない。」とし、これを受けて同第5項では、「前項の規定による動作をとる船舶は、やむを得ない場合を除き、次に掲げる針路の変更を行ってはならない。」と示し、第1号で「他の船舶が自船の正横より前方にある場合(当該他の船舶が自船に追い越される船舶である場合を除く。)において、針路を左に転じること。」と、第2号で「自船の正横又は正横より後方にある他の船舶の方向に針路を転じること。」とを掲げている。
 このいわゆるレーダー航法は、レーダー画面上の船舶映像の移動情報をレーダープロッティング等により解析し、該当船舶の針路、速力、CPA、最接近時間等を知り、著しく接近することとなる状況か否かを判断し、同事態となる判断に基づき、「十分に余裕のある時期にとらなければならない。」とする条件を満足したうえで、同事態を避けるための動作(以下「避航動作」という。)をとるのである。
 そもそも、レーダーには、その性能上、方位、距離両誤差のうち方位誤差が大きい特性があるうえ、関係他船の移動情報解析は、すべて過去のデータにより、他船が同一の針路速力を保持したものとして当たるから、解析開始時も、解析結果判明時も、その後も他船の針路速力の保持が保障されたものではなく、不安定要素が含まれている。
 この不安定要素は、近年アルパ付レーダーが普及し、各映像のベクトル表示、針路、速力、CPA等が比較的短時間に数値表示されるが、解析情報データとベクトル計算の時間間隔が短くなっているだけで、短時間のベクトルの長さが短いと、それだけ解析結果に誤差が反映されやすく、本質的にすべて解消されていないのである。
 しかるに、この不安定要素があるから「他の船舶に著しく接近することとなるかどうか」において、距離的時間的な判断基準が如何なるものかについては、船舶の大きさ、相対位置関係、海域が事案によって異なり、世界的にも定量化して具体的な数値は示されていないが、針路変更だけで避航動作をとる場合、少なくともCPAが2海里以上となるように、針路変更を検討し「十分に余裕のある時期」の条件を満足した状況下、針路を左に転じることを排除して行うのがレーダー航法の基本である。
 本件の場合、両船のレーダー初認模様がレ号側で衝突の15分前の5.0海里、ト号側で約10分前の3.0海里であった。
 レーダー航法の基本に照らすと、衝突の15分前には、他船のベクトル要素情報の収集を始め、解析して試行針路を定め、具体的にとる動作は、少なくとも両船の相対距離が3.0海里のとき、すでに「十分に余裕のある時期」の条件を満足すべき状況を迎えているのである。
 したがって、この条件を満足し得ない以上、本件には、予防法第19条第4項及び同第5項を適用できない。
4 予防法第19条第6項
 同項は、レーダー航法の出現以前から存在する歴史の長い規定で、「自船の正横より前方にある他の船舶と著しく接近することを避けることができない場合は、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じなければならず、また、必要に応じて停止しなければならない。」を旨とし、視界制限状態における航法を締めくくったものである。
 本件は、すでに前示のレーダー航法を適用する時期が過ぎ去っているので、両船の大きさ、運航模様、海域等を加味し、予防法第19条第6項の航法を適用し、適用時期としては両船間の距離2.0海里をもって律したものである。

(主張に対する判断)
 レ号側からは、ト号の初速を14.0ノットとし、右転開始時機を遅らせた事実構成を行い、「本件は、ト号がレ号の前路2.7海里を無難に通過する態勢であった状況以降、ト号が右転して、無難に航過できる態勢のレ号の前路に向かう針路とし、著しく接近することを避けることができない状況としたことが原因である。」旨の主張がある。
 しかし、本件のような大きさの両船が霧中、反航模様で接近中、ト号がレ号の前路2.7海里を通過する状況を「無難に通過する態勢」とは認められない。そもそも「無難に通過する態勢」とは、「船舶が互いに視野の内にある航法」の範疇で用いるものである。
 すでに、航法の適用のところで示したように、本件は「視界制限状態における航法」を適用するのであって、レーダー航法の基本についても、ケーブル単位のCPA論議が存在しない点に触れたところであって、前示の主張は認められない。
 また、ト号側からは、「レ号の左転が霧中航法の違反である。」旨の主張があるが、すでに航法の適用のところで示したように、本件は、予防法第19条第6項をもって律する。
 したがって、予防法第19条4項及び同第5項の適用をもって、レ号左転の非は指摘できないから、この適用に基づく主張は認められない。

(原因の考察等)
 本件は、予防法第19条第6項をもって律するから、両船の原因は、等しい原因、いわゆる等因として摘示したが、以下の主要な問題点が内在しており、全く等しいものではない。
1 レ号の減速意識は、悲鳴操船まで一貫して12.0ノットを保っており、きわめて 希薄である。
2 本件におけるレ号の左転は、予防法第19条関係では不問としたが、ト号の右転 気配を知っていながら左転を行っている点は、同種海難予防の観点からして、次の ようなことも潜在している。
 これまでの視界制限状態における衝突事例をみると、レーダー船首輝線の右側に相手船の映像を探知した船舶が、あたかも視野の内にあるような感覚に陥るからか、安易に右舷対右舷航過の期待から左転し、同映像の船舶が右転して衝突した例が顕著に存在する。
 航法の適用のところで、針路のみの変更で設定したCPAを満たす目的でレーダー航法を行う場合、右転針路と左転針路の双方があるから、どちらかを選択することになるが、その際、予防法第19条第5項の「左転の禁止」を明文化した根拠はどこにあるのかを探るとき、次の海上交通ルールの大原則に帰着する。
 つまり、来島海峡等の特殊航法を除き、海上交通ルールの原点は、「右側通行」の理念に立ち、衝突のおそれがあるとき、いわゆる左舷対左舷で避航するのを常とする海上の経験則を基調としているのである。
 以上を合わせ考えると、本件の等因は、主因一因の領域の近くまで迫ったところに位置しているものと判断するのが相当である。
 ところで、海難審判法第6条(懲戒の免除)には、「海難審判庁は、第4条第2項に規定する場合において、海難の性質若しくは状況又はその者の閲歴その他の情状に徴し、懲戒の必要がないと認めるときは、特にこれを免除することができる。」の規定がある。
 A受審人の閲歴に照らすと、同人は、平成7年7月20日「多年にわたり水先業務に携わりその使命達成に貢献した功績」の旨をもって、当時の運輸大臣表彰を受けている。
 しかしながら、前示のように、同一の水先人会に所属する両受審人が嚮導中に発生した本件は、原因に前示の軽重が内在しているから、両受審人に対する裁量を定めるに当たり、公平な均衡を保つ点に配慮し、A受審人に対しては、海難審判法第6条による懲戒の免除を適用しない。

(背 景)
 本件は、いずれも同一の大阪湾水先区水先人会に所属しているA、B両受審人が、各外国船を嚮導中に発生したもので、次のような背景を含んでいる。
1 A、B両受審人に対する各質問調書中でも、両人の当廷における各供述でも、各運航状態の情報を得るよう、両人はVHF等の通信手段を用いて情報交換を行っていない。
2 B受審人の当廷における、「水先人会で事故対策として、コミュニケーションをもっとやろうということで、北行船は友ケ島通過時、南行船は洲本沖灯浮標10海 里手前で、針路、速力、到着予定などを通報し合うよう対策を講じている。」旨の供述がある。
3 わが国水先人の資格要件は、海技レベルも最上位に値しているもので、ひとたび水先人嚮導中の海難が発生すれば、国際的にもわが国水先制度の信頼性を損なうことにつながる。
 したがって、本件のような事例について、例えば、当該水先人会から日本パイロット協会に前示対策が報告され、同協会から全国レベルに関係情報を伝達し、同種海難発生防止に資する教訓として生かされることが肝要で、すでにそのような機運の現出が進行中であれば、同種海難防止に資する貢献度の高まることに期待が膨らむことになる。

(原 因)
 本件衝突は、霧のため、視界制限状態の大阪湾において、両船が安全な速力としないまま航行中、北上中のレ号が、南下中のト号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、ト号が、レ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、レ号の嚮導に当たり、霧のため視界制限状態の大阪湾を北上中、右舷船首方にト号のレーダー映像を探知し、同映像のベクトル表示等により、ト号が南西進中であること、CPAが近いこと、右転気配で進行していることを知ったうえ、その後同映像との距離が2.0海里となったのを認めた場合、ト号と著しく接近することを避けることができない状況であったから、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷対右舷で替わるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により、過大な速力のまま、小幅な左転針を行った後に直進して衝突を招き、レ号の右舷船首部のブルワークに曲損と右舷中央部外板に擦過傷を、ト号の左舷船首部のハンドレール、ブルワーク及び上甲板に凹損と左舷船尾部外板に擦過傷を、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、ト号の嚮導に当たり、霧のため視界制限状態の大阪湾を南西進中、左舷船首方にレ号のレーダー映像を探知し、アルパ情報により、レ号が北東進中であること及びCPAが近いことを知り、その後同映像との距離が2.0海里となったのを認めた場合、レ号と著しく接近することを避けることができない状況であったから、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷対左舷で替わるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により、過大な速力のまま右転進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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