日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第98号
件名

プレジャーボート生丸IIIスパット台船衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(前久保勝己、大本直宏、内山欽郎)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:生丸III船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
生丸III・・・船首部を圧壊、船長が顔面打撲、同乗者が右肋骨骨折
スパット台船・・・浮体部に凹損

原因
生丸III・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件スパット台船衝突は、見張り不十分で、土質調査のため設置中の同台船を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月5日02時25分
 石川県金沢港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート生丸III
総トン数 9.1トン
全長 15.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 316キロワット

3 事実の経過
 生丸IIIは、船体中央部に操舵室を有するFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.7メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成13年6月5日02時20分石川県金沢港港奥の係留地を発し、福井県坂井郡三国町付近の釣り場に向かった。
 ところで、金沢港内では、国土交通省北陸地方整備局発注により、明治コンサルタント株式会社が、同年5月31日からボーリング用のスパット台船を使用して土質調査を実施しており、同6月4日09時40分衝突地点に3番目の調査地点として同台船を設置した。
 スパット台船は、フロータケースと称する4個の鋼製箱型浮体を正方形状に組み合わせた、縦横共約6.5メートル高さ約1.3メートルの構造物を浮体部とし、浮体部上方の作業台にボーリング機械など、浮体部の四隅に最大脚長約19メートルのスパット各1本と油圧式昇降装置がそれぞれ装備されており、調査地点に設置する際、浮体部の底面を海面上高さ約2.5メートルに保つよう、スパットの脚を調節して海底に打ち込み、浮体部の四隅からワイヤーロープ付き錨を1個ずつ投じ、固定されていた。
 また、スパット台船の灯火は、作業台上の海面上高さ約5.5メートルに白色4秒1閃、光達距離6キロメートルの電池式簡易標識灯2個と、各錨位置の海面に黄色4秒1閃、光達距離6キロメートルの電池式簡易灯浮標4個がそれぞれ設置され、作業員が不在となる夜間、いずれも自動的に点灯するようになっていた。
 A受審人は、調査地点、同期間などが、九管区水路通報、ポスターなどによって周知されていたものの、これらを入手していなかったので、スパット台船が金沢港内に設置されていることを知らなかった。
 A受審人は、発航時から操舵室右舷寄りの踏み台の上に立って操船に当たり、同乗者を左隣りに座らせ、02時23分金沢港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から188度(真方位、以下同じ。)840メートルの地点で、針路を352度に定め、機関を回転数毎分2,100にかけ、18.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 02時23分半A受審人は、東防波堤灯台から195度620メートルの地点に達したとき、スパット台船の存在を知らなかったものの、右舷船首7度900メートルのところに、同台船の各灯火を視認できる状況であったが、そのころ正船首方に認めた第3船が両舷灯を見せている状況に気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかったので、スパット台船の存在に気付かず、第3船を注視しながら続航した。
 02時24分少し過ぎA受審人は、東防波堤灯台から220度310メートルの地点に達したとき、両舷灯を見せたままの第3船を左方に替わすため、機関回転数を少し上げ21.0ノットの速力に増速し、針路を11度右に転じて003度としたところ、スパット台船が正船首560メートルのところに迫り、その後同台船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、これに気付かず、スパット台船を避けずに続航中、同時25分わずか前ふと船首方に目を向けたとき、前方至近に2ないし3個の黄色の点滅灯火を認めたが、どうすることもできず、02時25分東防波堤灯台から331度350メートルの地点において、生丸IIIは、原針路原速力のまま、その船首部が、同台船の浮体部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 衝突の結果、生丸IIIは船首部を圧壊し、スパット台船は浮体部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人が顔面打撲を、同乗者が右肋骨骨折をそれぞれ負った。

(原因)
 本件スパット台船衝突は、夜間、石川県金沢港において、港口に向けて航行する際、見張り不十分で、土質調査のため設置中の同台船を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、石川県金沢港において、港口に向けて航行する場合、土質調査のため設置中のスパット台船を見落とさないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、正船首方の第3船に気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同台船の存在に気付かず、これを避けずに進行して衝突を招き、生丸IIIの船首部を圧壊させ、スパット台船の浮体部に凹損を生じさせるとともに、自らが顔面打撲を負い、同乗者に右肋骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図(1)
(拡大画面:27KB)

参考図(2)
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION