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平成13年神審第106号
件名

漁船美紀丸プレジャーボート新栄丸5号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西山烝一、大本直宏、前久保勝己)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:美紀丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二新栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
美紀丸・・・左舷側船首部外板に擦過傷
新栄5号・・・右舷側前部外板に亀裂、破口、釣客1人が海中転落し右肩甲骨峰骨折等

原因
美紀丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
新栄5号・・・錨地の選定不適切(一因)

主文

 本件衝突は、美紀丸が、見張り不十分で、錨泊中の新栄丸5号を避けなかったことによって発生したが、新栄丸5号を引航した第二新栄丸が、錨地の選定が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月8日08時15分
 和歌山県串本港

2 船舶の要目
船種船名 漁船美紀丸
総トン数 3.1トン
登録長 9.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70

船種船名 プレジャーボート新栄丸5号 遊漁船第二新栄丸
全長 7.36メートル 9.07メートル
機関の種類   ディーゼル機関
出力   95キロワット

3 事実の経過
 美紀丸は、船体中央部やや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、まぐろ養殖場に行く途中に氷を積み込む目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年1月8日08時08分和歌山県大島漁港を発し、同県串本漁港に向かった。
 A受審人は、離岸後間もなく、機関を微速力前進にかけて3.5ノットの対地速力とし、08時10分紀伊大島漁港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から180度(真方位、以下同じ。)25メートルの地点を航過したとき、針路を277度に定め、操舵室前方の煙突とマストにより船首方の見通しがやや妨げられる状況で、操舵輪のやや右後方に立って手動操舵により進行した。
 08時14分少し前A受審人は、東防波堤灯台から274度400メートルの地点に達したとき、針路を238度に転じ、機関を回転数毎分800に上げて6.0ノットの対地速力とし、串本漁港奥のNTT鉄塔を操舵目標にして続航した。
 転針したとき、A受審人は、正船首220メートルのところに新栄丸5号(以下「5号」という。)を視認でき、船尾の箱形簡易トイレとその上に掲げられた黄色旗から、同船が錨泊中のかせ船であることが分かり、その後、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、船首やや左方遠方のNTT鉄塔を注視することに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、5号の存在に気付かず、同船を避けることなく進行中、突然衝撃を感じ、08時15分東防波堤灯台から261度590メートルの地点において、美紀丸は、原針路原速力のまま、その船首が5号の右舷前部に後方から77度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、5号は、無動力の和船型FRP製プレジャーボートで、船尾に箱形簡易トイレと船体中心線の船首尾方向にベンチシートが設置され、遊漁船の第二新栄丸(以下「新栄丸」という。)により串本港内及びその付近海域に引航されて錨泊し、釣客だけが乗船して遊漁を行うための船舶で、これを地元ではかせ船と称していた。そして、5号は、救命胴衣等を備え付けていただけで、音響信号設備はなく、乗組員が在船しないので、緊急事態に対処することが困難な船舶であった。
 B受審人は、平成3年県知事に遊漁船業の届け出をし、5号ほか同種のかせ船6隻と、これらを引航するための新栄丸を所有し、かせ船業と称する遊漁船業を営んでいた。
 ところで、串本港では、かせ船による遊漁船業者は12名ほどで、100隻ばかりのかせ船が稼働し、また、かせ釣り組合が結成されており、同組合は、運航時間、気象・海象による出航中止基準、錨泊自粛海域、錨泊中の標識及び定時巡回の励行などを取り決めていた。
 B受審人は、新栄丸に1人で乗り組み、釣客9人を乗せ、船首尾とも0.2メートルの喫水の5号ほか4隻のかせ船を左右両舷側に横抱きし、遊漁の目的で、同日06時30分串本新港を発し、釣り場に向かった。
 出航時、B受審人は、釣客の1人が水深の深い釣り場を要望したので、大島漁港から串本漁港などへの船舶が頻繁に通航する水域である前示衝突地点付近に5号を錨泊させることにしたが、航行する船舶が錨泊中のかせ船を避けるので大丈夫と思い、他の船舶との衝突の危険に注意して、船舶通航量の少ない水域など、適切な錨地を選定することなく、06時50分衝突地点に着き、重さ30キログラムの四爪錨を5号の船首から投じ、直径12ミリメートルの化学繊維製錨索を50メートル延出して船首部のたつに係止し、錨泊中の形象物の代わりに縦40センチメートル横70センチメートルの黄色旗2枚を、簡易トイレの上で船尾舷縁から4メートルばかりの高さに掲げ、釣客1人を同船に移乗させた。
 投錨作業終了後、B受審人は、ほかの4隻のかせ船を引航して南下し、苗我島南方沖合で同船を錨泊させて釣客8人を移乗させ、07時20分5号の錨地に戻り、同船の船首が北西方に向くよう、船首と同様の錨及び錨索を使用し、船尾から錨を投じて50メートルに延出した錨索を船尾のたつに取り、同船を固定したのち、朝食をとるため串本新港に向かった。
 その後、5号は、船首を315度に向け錨泊中、釣客が右舷方を向いてベンチシートに腰掛け釣りを続けていたところ、08時15分わずか前右舷正横方至近に迫った美紀丸を初めて視認し、その直後前示のとおり衝突した。
 B受審人は、自宅で同業者から5号衝突の電話連絡を受け、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、美紀丸は、左舷側船首部外板に擦過傷を生じ、5号は、右舷側前部外板に亀裂を伴う破口を生じたが、のち修理され、釣客Kは、衝突の衝撃により海中に転落し、A受審人に救助されたが、右肩甲骨肩峰骨折、顔面多発挫創などを負った。
 また、B受審人は、本件後、大島漁港と串本漁港間など、船舶の通航が多い水域にかせ船を錨泊させないこととした。

(原因)
 本件衝突は、串本港において、美紀丸が、見張り不十分で、錨泊中の5号を避けなかったことによって発生したが、5号を引航した新栄丸が、錨地の選定が不適切で、船舶が頻繁に通航する水域に錨泊させたことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
 A受審人は、串本港において、大島漁港から串本漁港に向けて航行する場合、前路に錨泊中の5号を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船首やや左方遠方の鉄塔を注視することに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、5号の存在に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、美紀丸の左舷側船首部外板に擦過傷を、5号の右舷側前部外板に亀裂を伴う破口を生じさせ、釣客に右肩甲骨肩峰骨折などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、串本港において、遊漁を行わせるため、かせ船の5号を錨泊させる場合、同船が乗組員の在船しない船舶であったうえ、衝突地点付近は船舶が頻繁に通航する水域であったから、他の船舶との衝突の危険に注意して、船舶通航量の少ない水域など、適切な錨地を選定すべき注意義務があった。しかし、同人は、航行する船舶が錨泊中のかせ船を避けるので大丈夫と思い、適切な錨地を選定しなかった職務上の過失により、錨泊中の5号に衝突させる事態を招き、両船に前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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