(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月16日13時30分
大阪湾南部
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第一芳徳 |
土運船第7芳石 |
総トン数 |
231.24トン |
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全長 |
32.25メートル |
87.00メートル |
幅 |
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16.00メートル |
深さ |
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5.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,176キロワット |
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船種船名 |
漁船金刀比羅丸 |
総トン数 |
4.9トン |
登録長 |
10.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
15 |
3 事実の経過
第一芳徳は、鋼製押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.1メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、山土3,800トンを積載して船首4.6メートル船尾4.7メートルの喫水となった、鋼製土運船第7芳石の船尾凹部に船首を嵌合して全長約119メートルの押船列(以下「芳徳押船列」という。)とし、平成13年5月16日12時50分兵庫県由良港北方の海岸に設けられた通称内田桟橋を発し、関西国際空港の埋立工事区域に向かった。
A受審人は、発航操船に引き続き、2人の当直員を伴って船橋当直に就き、13時11分淡路由良港成山防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から015度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を038度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
13時20分A受審人は、防波堤灯台から024度2.7海里の地点に達したとき、右舷船首57度1.8海里のところに、前路を左方に横切る態勢の金刀比羅丸を初めて視認したが、一べつして自船の船尾方を無難に替わるものと思い、その後、金刀比羅丸の動静監視を十分に行うことなく続航した。
13時23分A受審人は、防波堤灯台から026度3.0海里の地点に至ったとき、金刀比羅丸が右舷船首58度1.2海里となり、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、動静監視が不十分で、これに気付かず、早期に右転するなど、同船の進路を避けないで進行した。
13時28分A受審人は、右舷船首67度590メートルに迫った金刀比羅丸を認めて不安を感じ、機関を中立として汽笛を連吹したものの、同船に替わしてくれる気配がないので、急ぎ機関を全速力後進まで操作したが及ばず、13時30分防波堤灯台から028度3.7海里の地点において、芳徳押船列は、原針路のまま約2ノットの前進速力で、第7芳石の右舷中央部に、金刀比羅丸の船首部が後方から86度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、金刀比羅丸は、底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日03時00分兵庫県津名港を発し、同港南東沖合の漁場でえびなど60キログラムを獲て、13時19分防波堤灯台から054度3.7海里の地点を発進して帰途に就いた。
B受審人は、発進と同時に針路を312度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針して間もなく、B受審人は、前方を一べつしたとき他船を認めなかったので、漁獲物の選別作業を行うこととし、自動操舵に切り替えて後部甲板に赴き、ネットローラー後方で船尾方を向いて腰を下ろし、甲板員とともに同作業を始めた。
13時23分B受審人は、防波堤灯台から045度3.6海里の地点に達したとき、左舷船首36度1.2海里のところに、前路を右方に横切る態勢の芳徳押船列を視認できる状況であったが、漁獲物の選別作業に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかったので、同押船列に気付かなかった。
B受審人は、その後芳徳押船列の方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま、有効な音響による避航を促す信号を行わず、更に間近に接近したとき、機関を後進に操作して行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで続航した。
B受審人は、選別作業に専念していて芳徳押船列の汽笛の吹鳴にも気付かずに進行中、金刀比羅丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第7芳石は、右舷側中央部外板に擦過傷を生じ、金刀比羅丸は、球状船首を圧壊したが、のち修理され、B受審人及び金刀比羅丸甲板員が、いずれも頸椎捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は、大阪湾南部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北東進中の芳徳押船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る金刀比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北西進中の金刀比羅丸が、見張り不十分で、有効な音響による避航を促す信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大阪湾南部を関西国際空港の埋立工事区域に向けて北東進中、前路を左方に横切る態勢の金刀比羅丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一べつしただけで自船の船尾方を無難に替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、金刀比羅丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して金刀比羅丸との衝突を招き、第7芳石の右舷側中央部外板に擦過傷を生じさせ、金刀比羅丸の球状船首を圧壊させるとともに、同船乗組員2人に頸椎捻挫を負わせるに至った。
B受審人は、大阪湾南部を帰航のため北西進する場合、左舷前方の芳徳押船列を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物の選別作業に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する芳徳押船列に気付かず、有効な音響による避航を促す信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して第7芳石との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するとともに自船の甲板員を負傷させるに至った。