日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第51号
件名

貨物船興徳丸・漁船第十一丸善丸漁船第十二丸善丸漁具衝突事件
二審請求者〔補佐人植竹正雄、補佐人戸田満弘、補佐人高橋勇〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月7日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、阿部能正、前久保勝己)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:興徳丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:第十二丸善丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
興徳丸・・・損傷ない
丸善丸船団・・・左舷側に転覆
第十一丸善丸・・・機関等に濡れ損等、船長が右下腿擦過傷
第十二丸善丸・・・船長が溺水により死亡、甲板員が左下腿挫創

原因
興徳丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作) 不遵守(主因)
第十一丸善丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

主文

 本件漁具衝突は、興徳丸が、動静監視不十分で、二そうびきで漁ろうに従事している第十一丸善丸及び第十二丸善丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十一丸善丸及び第十二丸善丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月26日06時17分
 和歌山下津港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船興徳丸
総トン数 1,195トン
全長 90.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,309キロワット

船種船名 漁船第十一丸善丸 漁船第十二丸善丸
総トン数 8.5トン 8.5トン
登録長 13.88メートル 13.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 35 35

3 事実の経過
 興徳丸は、ベクツインラダーを装備した、船首端から船橋前面までの長さ約74メートルの船尾船橋型コンテナ専用船で、A受審人ほか9人が乗り組み、12フィート型コンテナ102個を積載し、船首3.52メートル船尾4.73メートルの喫水をもって、平成12年6月25日17時30分愛媛県松山港を発し、瀬戸内海経由で和歌山下津港和歌山区南区に向かった。
 ところで、和歌山下津港は、紀伊水道に面して西方に開けた、港則法が適用される港で、外港、和歌山区、海南区、下津区及び有田区に5分され、和歌山区の港区内が北、第1、第2及び南の4区に分かれていて、第1区及び南区の入口が、北防波堤と南防波堤及び南防波堤と外防波堤とによってそれぞれ形成されており、更に、両区の入口付近から、北側にある工事中の防波堤(以下「工事防波堤」という。)と、その南側にある防波堤(以下「一文字防波堤」という。)とがそれぞれ西方の外港に延び、両防波堤西端間の可航幅が約540メートルあって第1区及び南区に向かう入口を成していた。
 A受審人は、翌26日05時55分和歌山県田倉埼南西方1.8海里の地点に達したとき、入港部署配置として自ら操船の指揮を執り、機関操縦装置に機関長を、操舵輪に甲板長をそれぞれ就かせ、また、船首に一等航海士ほか甲板員2人を、船尾に二等航海士ほか甲板員1人をそれぞれ配置したうえ、船首尾の配置員に入港作業とともに、ガントリークレーンのラッシング取外しなど荷役準備作業に当たらせた。
 A受審人は、和歌山下津港港界を越え外港に入って間もなく、06時06分半和歌山南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から280度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、針路を南防波堤灯台に向く100度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 06時12分A受審人は、南防波堤灯台から280度1.4海里の地点に至って機関用意としたとき、南西方に向首して航行中の第十一丸善丸を左舷船首2度1,640メートルに初めて視認したが、一見しただけで、右方に替わるものと思い、双眼鏡を使うなどして、引き続き動静監視を十分に行わなかったので、同船が、その東側に存在する第十二丸善丸とともに、鼓型形象物を掲げて二そうびきで漁ろうに従事している船団(以下「丸善丸船団」という。)であることに気付かなかった。
 A受審人は、その後丸善丸船団が右方に替わる状況であったものの、同船団が引いている漁具に衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、速やかに大幅な減速又は転舵するなど丸善丸船団の進路を避けることなく、機関を港内全速力、半速力、微速力に順次操作して平均12.4ノットの速力とし、そのころ右舷前方に同航する小型タンカー(以下「第3船」という。)を認め、これを見守りながら続航した。
 06時15分A受審人は、南防波堤灯台から280度1,490メートルの地点に達したとき、第3船を右舷前方近くに見るようになったので、同船をそのまま先航させるつもりで機関を中立に操作し、依然として動静監視不十分のまま、丸善丸船団の操業模様や漁具の末端を示す浮標などに気付かず、平均6.0ノットの前進行きあしで進行中、06時17分南防波堤灯台から280度1,050メートルの地点において、興徳丸は、原針路原速力のまま、その船首が、234度に向首した第十一丸善丸の船尾方約90メートルのところの漁具に前方から46度の角度で衝突した。
 A受審人は、機関長から右舷後方で漁船が傾いているとの報告を受けるとともに、右舷船首部で引き綱が切断するのを視認して事故の発生を知り、間もなく反転して事後の措置に当たった。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、第十一丸善丸は、船尾甲板上に巻揚ローラーを装備し、二そうびきの引き網漁業に主船として従事するFRP製漁船で、船長Sほか1人が乗り組み、しらす漁の目的で、喫水不詳のまま、同型船で従船の第十二丸善丸及び付属船1隻とともに、同日04時40分和歌山下津港外港北部の西脇漁港(通称)を発し、紀ノ川河口付近の漁場に向かった。
 一方、第十二丸善丸は、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、自船と第十一丸善丸とで漁網を半分ずつ積載のうえ、前示のとおり発航した。
 S船長は、漁ろう長を兼務して操業の指揮に就き、目的の漁場に着いて魚群探索を行い、05時35分一文字防波堤西方沖合で、丸善丸船団の船尾から漁網を投入したのち、自船の左舷正横約40メートルのところに第十二丸善丸を配置し、漁ろうに従事している船舶が表示する鼓型形象物を船橋上のマストと船尾マストとの間に掲げ、北東方に向けて二そうびきによる曳網を開始した。
 ところで、漁網は、長さ約25メートル直径12ミリメートルのワイヤー製引き綱に連結された、長さ約90メートルの袖網と約50メートルの袋網からなり、網口付近に多数の浮子及び袋網の末端に米俵大のオレンジ色発泡スチロール製浮標をロープで取り付けたものであった。
 B受審人は、第十一丸善丸との船間距離を保ちつつ、S船長から無線電話による指示を受けながら曳網を続け、しばらくして同船に合わせ南西方に向けて反転し、06時03分少し前工事防波堤西端付近の、南防波堤灯台から300度780メートルの地点で、針路を234度に定め、1.2ノットの曳網速力で手動操舵により進行した。
 06時12分B受審人は、南防波堤灯台から281度970メートルの地点に達したとき、右舷船首45度1,670メートルに興徳丸を視認でき、その後同船が漁具と衝突のおそれがある態勢で接近していたが、形象物を掲げて漁ろうに従事しているので、他船が避けてくれるものと思い、接近する興徳丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在とその接近に気付かず、警告信号を行うことなく続航した。
 そのころ、S船長は、南防波堤灯台から283度1,000メートルの地点で、右舷船首44度1,640メートルに興徳丸を視認でき、その後同船が漁具と衝突のおそれがある態勢で接近していたものの、操業の指揮に気を取られていたものか、見張り不十分で、このことに気付かなかった。
 06時16分B受審人は、S船長から引き綱を10メートル延ばすよう指示されて船尾に赴く際、左舷前方に東行中の第3船を認めただけで、甲板員とともに巻揚ローラーに巻かれた引き綱の延出作業を始め、同時17分少し前同作業を終えて操舵室に戻ったとき、無線からS船長の危ないとの叫び声を聞き、周囲を見渡し右舷後方至近に興徳丸を初めて視認したが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、興徳丸に損傷はなく、丸善丸船団は、後方に引きずられながらいずれも左舷側から転覆し、機関等に濡れ損及び引き綱が切断するなど漁具に損傷を生じ、B受審人が右下腿擦過創及び第十二丸善丸甲板員Nが左下腿挫創などを負うとともに、S船長(昭和17年2月23日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が溺水により窒息死した。
(主張に対する判断)
 本件は、港則法適用港である和歌山下津港において、入航する興徳丸と、西方に開口した防波堤出入口の外側で漁ろうに従事しながら南西進する丸善丸船団の船尾方に引かれた漁具とが衝突したものである。
 興徳丸側補佐人は、「丸善丸船団が港則法第35条に違反し、船舶交通の妨となる虞(おそれ)のある港内の場所においてみだりに漁ろうしていたことによって発生した。」と主張する。
 ところで、港内において、「船舶交通の妨となる虞のある場所」とは、単に航路筋、泊地その他の空間的要素のみでなく、船舶の往来及び停泊の頻度その他の時間的要素をも考慮し、具体的かつ個別に判定されるものである。
 興徳丸は、和歌山下津港に入って定針してからは直進しており、周囲には大型船舶、フェリーや他の漁船など航行に支障を生ずるような船舶はなく、左右には回頭できる十分な操船余地があったから、前路に位置していた丸善丸船団及び漁具を避けるのに何らの支障はなく、また、丸善丸船団の漁具を含めた長さは約180メートルで、右舷前方の第3船が丸善丸船団を無難に替わして航行したのであるから、興徳丸が強いて直進する必然性はなく、同船団の前方又は後方の水域を任意に選択して航行することもできた。
 つまり、本件が発生した海域は、同条にいうような「船舶交通の妨となる虞のある場所」に該当せず、丸善丸船団の漁ろう形態も興徳丸の通航を妨げたとか、避ける動作をとるための水域や時間的余裕がなかったとかが認められないのであるから、「みだりに漁ろうしていたこと」にも当たらず、同条を適用することはできない。
 よって、港則法には他に適用すべき条項がないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)を適用することとなるが、興徳丸側補佐人は、「予防法第9条(狭い水道等)第3項の適用がある。」とも主張する。
 しかしながら、本件発生海域は、衝突地点付近の事実認定で述べたとおりであり、興徳丸及び丸善丸船団とも狭い水道等を航行していたものではなく、同条の適用は妥当ではない。
(航法の適用等)
 本件の場合、丸善丸船団が二そうびきで漁ろうに従事していたことに争いはなく、興徳丸及び同船団の接近模様から、互いに視認することができ、衝突のおそれがある態勢で接近していることを認め得る状況で、興徳丸が、航法判断をして衝突回避のための動作をとることが時間的距離的に十分な余裕があった、及び防波堤出入口までの海域が十分に広く、当時の船舶交通の状況から、船首方に見る丸善丸船団の進路を避けることが可能であったと認められる。
 したがって、本件は、予防法第18条第1項を適用し、「航行中の動力船である興徳丸が、漁ろうに従事している丸善丸船団の進路を避けなければならない。」とする各種船舶間の航法をもって律するのが相当である。
 なお、丸善丸船団が、曳網中で衝突回避のための動作をとることが困難であったものの、警告信号を吹鳴することを妨げる状況にはなかったと認められる。

(原因)
 本件漁具衝突は、和歌山下津港において、興徳丸が、動静監視不十分で、二そうびきで漁ろうに従事している丸善丸船団の進路を避けなかったことによって発生したが、丸善丸船団が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、和歌山下津港を東行中、船首方で南西方に向首した第十一丸善丸を視認した場合、双眼鏡を使うなどして、引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、一見しただけで、右方に替わるものと思い、引き続き動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、第十一丸善丸が、その東側に存在する第十二丸善丸とともに、鼓型形象物を掲げて二そうびきで漁ろうに従事し、丸善丸船団が引いている漁具に衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、速やかに大幅な減速又は転舵するなどその進路を避けないまま進行して漁具との衝突を招き、同船団を転覆させて機関等に濡れ損及び引き綱の切断など漁具に損傷を生じさせ、B受審人に右下腿擦過創及び第十二丸善丸甲板員に左下腿挫創などをそれぞれ負わせるとともに、第十一丸善丸船長を溺水により死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、和歌山下津港において、低速力で第十一丸善丸とともに二そうびきで漁ろうに従事しながら南西進する場合、接近する興徳丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、形象物を掲げて漁ろうに従事しているので、他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、興徳丸の存在とその接近に気付かず、警告信号を行わないまま進行して丸善丸船団が引いている漁具と興徳丸との衝突を招き、前示の損傷、負傷及び死亡の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:34KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION