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平成13年神審第118号
件名

プレジャーボートカズプレジャーボートシェル被引浮環衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西山烝一)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:カズ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:シェル船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
カズ・・・損傷ない
シェル・・・損傷ない

原因
シェル・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
カズ・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、シェルが、見張り不十分で、Uターンしてカズに著しく接近したことによって発生したが、カズが、動静監視不十分で、シェル及び同艇が曳航する浮環との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月3日15時00分
 福井県福井市鷹巣海水浴場

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートカズ プレジャーボートシェル
全長 3.10メートル 2.86メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 73キロワット 62キロワット

3 事実の経過
 カズは、定員3人のウォータージェット推進装置を有するFRP製水上オートバイで、艇体前部に操縦ハンドルを設置し、同ハンドルの右側グリップに速力調節用のスロットルレバー、左側グリップに機関の起動及び停止スイッチなどを備え、同ハンドルにより船尾のジェットノズルの噴射方向を左右に変えて回頭するようになっており、同ハンドル後方から船尾にかけて跨乗用座席が設けられていた。
 A受審人は、乗用車にカズを載せて平成13年6月3日09時30分福井県福井市の鷹巣海水浴場に着き、10時ごろから知人数名とカズほか2隻の水上オートバイで、水上スキーやウェイクボードなどを曳航し、同海水浴場沖合で遊走を始めた。
 14時59分半A受審人は、知人をウェイクボードとして使用できるようにした水上スキーの片方の板(以下「水上スキー板」という。)に乗せて曳航することとし、ウェイクボード曳航用の直径9ミリメートルの化学繊維製ロープで、船尾から水上スキー板搭乗者までの距離を20メートルに調節して波打ち際を離れ、同時59分45秒鷹巣港灯台から078度(真方位、以下同じ。)810メートルの地点で、同搭乗者を曳航して発進し、針路を030度に向け、スロットルレバーにより加速し、15キロメートル毎時の対地速力で航走を開始した。
 発進したとき、A受審人は、船首やや左150メートルのところに、シェルが南西方に向けて航走しているのを初めて視認したが、一瞥して同艇が著しく接近することはないと思い、同艇に対する動静監視を十分に行うことなく、曳航している水上スキー板の搭乗者と前方を交互に見ながら進行した。
 14時59分54秒A受審人は、左舷船首43度50メートルのところでシェルがUターンを開始し、シェル及び同艇が曳航する浮環とその搭乗者が左回頭しながら、自艇に著しく接近する状況となり、衝突のおそれがあったものの、水上スキー板の搭乗者の状態に気をとられ、シェルに対する動静監視が不十分で、このことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないで続航した。
 A受審人は、14時59分58秒速力が増加したような感じを受けて後方を振り返ったとき、同搭乗者が落水しているのを認め、Uターンしようとしたところ、水しぶきとともに船首方至近に接近したシェルに気付き、続いて左舷正横方至近から、シェルに曳かれた浮環とその搭乗者が横滑りしながら急速に接近してくるのを認めたが、どうすることもできず、15時00分鷹巣港灯台から075度850メートルの地点において、カズは、原針路、原速力のまま、その左舷前部にシェルが曳航している浮環及びその搭乗者Dが衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、シェルは、定員2人のウォータージェット推進装置を有するFRP製水上オートバイで、艇体前部に操縦ハンドルを設置し、同ハンドルの右側グリップに速力調節用のスロットルレバー、左側グリップに機関の起動及び停止スイッチなどを備え、同ハンドルにより船尾のジェットノズルの噴射方向を左右に変えて回頭するようになっており、同ハンドル後方から船尾にかけて跨乗用座席が設けられていた。
 B受審人は、乗用車にシェルを載せて同日10時00分鷹巣海水浴場に着き、間もなく知人数名と適宜交替して浮環を曳航し、同海水浴場沖合で遊走を開始した。
 14時50分ごろB受審人は、グリップ付の青色カバーを取り付けた外径1.3メートルのチューブと称する浮環を、直径10ミリメートル長さ10メートルの化学繊維製ロープで船尾から曳航し、浮環にD搭乗者を乗せて鷹巣港灯台から076度910メートルの波打ち際を離れ、沖合に向かった。
 B受審人は、針路を8の字に描くようにして航走し、2回目のUターンによりD搭乗者が落水したあと、14時59分半鷹巣港灯台から070度950メートルの地点で、海中から搭乗者が乗り込んだ浮環を曳航して発進し、針路を沖合の消波堤に沿う230度に向け、スロットルレバーにより徐々に加速し、同時59分40秒30キロメートル毎時の対地速力となって進行した。
 14時59分45秒B受審人は、左舷船首23度150メートルのところに、発進したカズを視認でき、その後、自艇に向かって接近するのを認め得る状況であったが、曳航している浮環とD搭乗者に気をとられ、間もなくUターンをするつもりであったものの、周囲の見張りを十分に行うことなく、カズを見落としたまま続航した。
 B受審人は、14時59分54秒鷹巣港灯台から073.5度840メートルの地点でUターンを開始し、そのときカズが左舷船首63度50メートルに接近していたものの、依然見張り不十分で、同艇に気付かないまま、同艇の前路に向け著しく接近する状況となって左回頭中、同時59分58秒右舷後方至近にカズを視認したが、どうすることもできず、シェルは、その船首が050度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、カズとシェル及びその浮環には損傷がなかったが、D搭乗者は、右肋骨骨折、頸椎捻挫などを負った。

(原因)
 本件衝突は、両水上オートバイが、福井県福井市の鷹巣海水浴場沖合を航走中、シェルが、見張り不十分で、Uターンしてカズに著しく接近したことによって発生したが、カズが、動静監視不十分で、シェル及び同艇が曳航する浮環との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、福井県福井市の鷹巣海水浴場沖合において、船尾から人を搭乗させた浮環を曳航し、針路を様々に変えて航走する場合、水上オートバイが航走する海域であったから、前方から接近するカズを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、曳航している浮環の搭乗者に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、カズを見落としたまま、Uターンをして同艇に著しく接近し、同艇と浮環及びD搭乗者との衝突を招き、同搭乗者に右肋骨骨折などを負わせるに至った。
 A受審人は、福井県福井市の鷹巣海水浴場の波打ち際から沖合に向け、船尾から人を搭乗させた水上スキー板を曳航して発進する際、船首方にシェルを視認した場合、水上オートバイは様々な方向に航走することがあるから、シェルの動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一瞥して同艇が著しく接近することはないと思い、同艇の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、シェルがUターンしたことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同艇が曳航する浮環及び同搭乗者との衝突を招き、前示の負傷を負わせるに至った。


参考図
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