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平成13年横審第43号
件名

貨物船尾上丸貨物船清海丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月29日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、長谷川峯清、小須田 敏)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:尾上丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:清海丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
清海丸・・・船首を圧壊
尾上丸・・・船首外板に破口

原因
清海丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守
尾上丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、清海丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る尾上丸の進路を避けなかったことによって発生したが、尾上丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月14日02時51分
 千葉県洲埼南南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船尾上丸 貨物船清海丸
総トン数 116,427トン 498トン
全長 315.00メートル 77.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 14,489キロワット 1,323キロワット

3 事実の経過
 尾上丸は、第4種近代化船に指定された船尾船橋型鉱石運搬船で、A受審人ほか日本人5人フィリピン人16人が乗り組み、便乗者1人を乗せ、鉄鉱石230,097トンを積載し、船首18.12メートル船尾18.20メートルの喫水をもって、平成12年11月2日00時10分(現地時間)オーストラリアのポート ウォルコット港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 A受審人は、同月14日00時15分ごろ伊豆大島南方沖合を北上中、当直中のM員外二等航海士から、ナイトオーダーブックに記載した「船長報告」の位置に至った旨の連絡を受け、同時 20分昇橋して法定灯火の点灯していることや周囲の状況を確認したのち、残航程をチェックして時間調整をすることとし、同時30分操船指揮をM員外二等航海士から引き継ぎ、同航海士を15分毎の船位測定と見張りに、甲板手を操舵にそれぞれ当たらせ、予定針路を外れて東方に航行したのち、01時00分竜王埼灯台の南南東方12海里ばかりの地点で再び北上を始めた。
 A受審人は、02時ごろ甲板手に手動操舵とするよう指示し、船橋内前面中央のレピーターコンパスの右横に立ち、その右側にある12海里レンジとした、衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)付きの2号レーダーで、行き交う他船を監視しながら操船に当たり、02時 25分洲埼灯台から203度(真方位、以下同じ。)15.5海里の地点に達したとき、針路を005度に定め、機関を速力12.5ノットの全速力前進にかけたまま、折からの風と海潮流とによって右方に2度圧流されながら、11.7ノットの対地速力で進行した。
 定針したとき、A受審人は、左舷船首方7海里ばかりに清海丸とその南西側にもう1隻(以下「左舷第三船」という。)、右舷船首方6海里ばかりに1隻(以下「右舷第三船」という。)の映像をそれぞれ認め、アルパで確認したところ、これらの船舶とは横切り関係で、右舷第三船の最接近距離(以下「CPA」という。)が1.0海里で自船の後方を替わることを知り、左舷側の2隻については、清海丸のCPAが0.2海里で船首方至近を右方に横切り、左舷第三船のCPAが0.0海里であることを知ったので、左舷方の2隻の接近模様に注意しながら続航した。
 A受審人は、02時30分洲埼灯台から204度14.5海里の地点に達したとき、左舷船首46度5.1海里のところに清海丸の白、白、緑3灯を双眼鏡を用いて初めて視認し、同時39分半同船が左舷船首45度3.0海里となり、同船の方位がわずかに右方に替わるものの、明確な変化がないことから、清海丸及び左舷第三船の両船と衝突のおそれのある態勢で接近することを知り、針路、速力を保持して進行した。
 A受審人は、02時41分少し過ぎ清海丸が左舷船首45度2.5海里に接近したのを認め、避航を促す目的で同船及び左舷第三船に向けて昼間信号灯を点滅させたところ、左舷第三船は右転して自船の船尾方を替わすようになったものの、依然として清海丸に避航の気配が見られないので、同時44分汽笛による長音1回を吹鳴して、しばらくしたのちもういちど吹鳴したが、警告信号を行わなかった。
 02時47分A受審人は、右舷第三船の正船首方を航過する状況下、洲埼灯台から209度11.4海里の地点で、清海丸が左舷船首43度1.1海里となり、再び長音1回を吹鳴したものの、なおも避航の動作が認められず、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかとなったが、方位がわずかながらも右方に変わるので船首近距離を航過してゆくものと思い、自船の操縦性能を考慮して針路、速力の保持から離れ、直ちに右舵一杯とするなど衝突を避けるための動作をとることなく続航した。
 A受審人は、02時49分少し過ぎ清海丸が左舷船首41度0.5海里に接近したとき、互いの航過距離を大きくするつもりで、甲板手に針路000度を令し、その復唱を得て、更に355度を命じ、同時51分少し前355度に向首したところ、同船が右転していることに気付き、急いで右舵一杯を令したものの効なく、02時51分洲埼灯台から211度10.7海里の地点において、尾上丸は、355度に向首したまま、原速力で、その左舷船首に清海丸の船首が前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、付近には0.9ノットの南南東流があった。
 また、清海丸は、船尾船橋型の貨物船で、船長H及びB受審人ほか3人が乗り組み、とうもろこし1,160トンを積載し、船首3.55メートル船尾3.97メートルの喫水をもって、同月13日13時45分愛知県衣浦港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
 ところで、H船長は、船橋当直をB受審人が0時から6時、自身が6時から12時までの6時間交代の単独2直制とし、平素からB受審人に対して、船橋当直中に眠気を催したときには、船橋の外に出て外気にあたるか、顔を洗うなどして眠気を払うように努め、それでも眠気が解消しないときは、報告するよう指示していた。
 23時45分神子元島沖でB受審人は、H船長との船橋当直交代時に法定灯火が点灯していることを確認したのち、窓や扉を締め切った船橋内に立って見張りに当たり、翌14日01時42分伊豆大島灯台から000度1.3海里の地点で、針路を085度に定め、機関を速力11.5ノットの全速力前進にかけ、折からの風と海潮流とによって右方に4度圧流されながら、11.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 B受審人は、02時15分洲埼灯台から233度15.6海里の地点で、6海里レンジとしたレーダーで右舷後方2海里ばかりに同航船を1隻認めただけで、周囲に見える他船も少なくなったことから、船橋内の操船コンソールの右横に設置されていたいすに腰掛けたところ、気が緩んで眠気を感じたが、強い眠気ではなかったので居眠りに陥ることはないものと思い、船橋の外に出て外気にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたまま見張りを続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
 02時39分半B受審人は、洲埼灯台から220度12.0海里の地点に至ったとき、右舷船首55度3.0海里に前路を左方に横切る尾上丸の白、白、紅3灯を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で互いに接近することを認め得る状況であったものの、居眠りをしていてこのことに気付かず、右転するなどして同船の進路を避けることなく続航し、同時50分わずか過ぎふと目を覚ましたところ、右舷前方近くに尾上丸の左舷灯を初めて認め、あわてて右舵一杯をとって右転中、清海丸は、165度に向首して原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 H船長は、衝撃で目覚めて昇橋し、衝突を知って事後の措置に当たった。
 衝突の結果、尾上丸は船首外板に破口を伴う凹損を生じ、清海丸は船首を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、千葉県洲埼南南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、清海丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る尾上丸の進路を避けなかったことによって発生したが、尾上丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、千葉県洲埼南南西方沖合において、単独の船橋当直に就いて東行中、眠気を感じた場合、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、強い眠気ではなかったので居眠りすることはあるまいと思い、船橋の外に出て外気にあたるなどの居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、前路を左方に横切る尾上丸の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の船首に亀裂を伴う凹損を、清海丸の船首に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、千葉県洲埼南南西方沖合を北上中、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する清海丸を認め、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかになった場合、自船の運動性能を考慮して直ちに右舵一杯とするなど衝突を避けるための動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、清海丸の方位がわずかながらも右方に変わるので船首近距離を航過してゆくものと思い、衝突を避けるための動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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