(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月11日20時30分
木更津港富津
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第五豊和丸 |
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総トン数 |
204トン |
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全長 |
41.00メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
588キロワット |
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船種船名 |
引船大光丸 |
台船S−4 |
総トン数 |
98.61トン |
953トン |
全長 |
29.30メートル |
50.00メートル |
幅 |
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18.00メートル |
深さ |
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3.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
544キロワット |
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3 事実の経過
第五豊和丸(以下「豊和丸」という。)は、千葉港千葉第4区市原あるいは木更津港富津から京浜港東京第2区豊洲への石灰石あるいは砂の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、木更津港富津泊地(以下「富津港」という。)の東部港奥にある株式会社アイ・エス・ビーでの塗装工事を終えて同社前の修繕船岸壁に左舷着けで係留していたところ、折からの西南西風により同港内の波浪が高くなり、船体が同岸壁に当たって塗装が擦れるため、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、荒天避難の目的で、船首0.9メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成13年1月11日20時10分同岸壁を発し、木更津航路奥の錨地に向かった。
ところで、富津航路と富津港との間の水深14メートルの掘下げ済水路(以下「富津水路」という。)では、同10年11月27日から同13年2月28日までの間、東京電力株式会社富津火力第2LNGバース土木工事(以下「工事」という。)が実施され、同工事に伴い、木更津港富津第9号灯浮標(以下「木更津港富津」を冠する灯浮標及び灯台名については冠称を省略する。)が337度(真方位、以下同じ。)方向に550メートル移動されるとともに第11号仮設灯浮標が廃止されたほか、工事区域表示用灯浮標(以下「工事用灯浮標」という。)として、富津航路外の東側水域には灯色黄のA、B、C及びD各工事用灯浮標、同航路内には西防波堤灯台から348度1,630メートルに同色緑のE工事用灯浮標、富津水路内には同灯台から350度1,350メートルに同色緑のF工事用灯浮標、352度1,030メートルに同色黄のG工事用灯浮標及び006度800メートルに同色黄のH工事用灯浮標がそれぞれ設置され、これら工事用灯浮標で囲まれる水域に航泊禁止区域が設定されていた。
航泊禁止区域付近の可航幅は、富津航路では、工事前の第9号及び第10号両灯浮標間が530メートルであったところ、E及びF両工事用灯浮標を結ぶ線と第10号灯浮標との間が380メートルに狭められ、富津水路北部では、工事前の富津LNGタンカーバースと第12号及び第14号両仮設灯浮標を結ぶ線との間が1,000メートルであったところ、同線とG及びH各工事用灯浮標との間がそれぞれ800メートル及び860メートルに狭められていたが、H工事用灯浮標以南の水域では工事前と変わらなかった。
A受審人は、工事開始後何回も富津港に入出航を繰り返していたので、航泊禁止区域が設定されて可航幅が狭められていることも、同禁止区域以南の富津水路南部で同幅が変わっていないことも知っていた。
こうして、A受審人は、発航時に航行中の動力船が表示する灯火を掲げ、単独の船橋当直に就き、修繕船岸壁のある西防波堤灯台から093度1,600メートルの地点を離岸と同時に、針路を同灯台に向く273度に定め、機関を極微速力前進にかけて3.1ノットの対地速力で、操舵室中央の舵輪の後方に立ち、レバーによる手動操舵によって進行した。
20時17分A受審人は、西防波堤灯台から093度930メートルの地点に差し掛かったとき、右舷船首51度1.8海里のところに、大きな構造物を積載した台船S−4(以下「台船」という。)を曳航している大光丸(以下「大光丸引船列」という。)の灯火及び両船の船影を双眼鏡により初めて認めたが、それぞれ緑灯を見せていたことから、富津航路を横切る引船列と思って気にせずに続航した。
20時19分A受審人は、西防波堤灯台から093度740メートルの地点に達したとき、富津東及び富津西両防波堤で挟まれる富津港港口中央に向けて右転を始めたところ、大光丸引船列が第8号灯浮標付近で富津航路内に向けて右転しているのを認め、その後台船と一線になった大光丸の両舷灯を認めるようになり、これから行き会うこととなるので、航泊禁止区域への進入を避けながら同航路の右側を航行することとして右転を続けた。
20時25分半A受審人は、富津港港口中央に当たる西防波堤灯台から058度200メートルの地点で、針路をF工事用灯浮標の少し西方に向く340度に転じ、機関を半速力前進に上げ、0.5海里レンジとしたレーダー画面で探知したG工事用灯浮標への接近状況の監視に当たりながら、折からの西南西風と波高約1メートルの波浪とをほぼ左舷正横に受け、右方に1度圧流されて同工事用灯浮標に向かう進路で、7.4ノットの対地速力で進行した。
20時26分半A受審人は、西防波堤灯台から018度350メートルの地点に達したとき、大光丸引船列を左舷船首2度1,130メートルに再び認め、このまま進行すると航泊禁止区域の西側間近で同引船列と行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、大光丸が紅灯を見せていたことから、いずれ同引船列が富津水路の右側に寄って航行するので、互いに左舷を対して安全に航過できるものと思い、引き続き同引船列に対する動静監視を十分に行うことなく、同引船列との接近状況に気づかず、H工事用灯浮標の南側の広い水域で船首を風に立てて行きあしを止めるなど、同引船列との衝突を避けるための措置をとらず、G工事用灯浮標との接近模様を気にしながら、同じ針路、対地速力で続航した。
20時29分A受審人は、西防波堤灯台から354度870メートルの地点に達し、G工事用灯浮標が正船首160メートルになったとき、左舷船首10度190メートルに大光丸及び同3度280メートルに台船が、富津水路の右側に寄る気配を見せないまま、大光丸引船列が斜めになった状態で接近するのを認め、漸く(ようやく)衝突のおそれを感じたものの、船首方に航泊禁止区域が、ほぼ右舷正横に富津LNGタンカーバースがそれぞれ間近にあって右転ができないことから、急いで機関を後進にかけ、1軸左回りのプロペラを後進にかけたため船首が左方に振れ、同時30分少し前大光丸が船首方約30メートルを左方に航過した直後、右舵一杯にとり、更に全速力後進にかけたが及ばず、20時30分西防波堤灯台から351度980メートルの地点において、豊和丸は、船首が300度に向き、行きあしが停止したとき、その右舷船首部に、台船の船首左舷角部が前方から55度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、強風、波浪注意報が発表され、波高約1メートルの波浪があった。
また、大光丸は、船首船橋型の鋼製引船で、B受審人ほか2人が乗り組み、日立造船株式会社因島工場にて発電所用プラント大小2基150トンを積載し、船首尾とも0.6メートルの等喫水となった無人の鋼製台船を曳航し、船首2.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、同月6日14時30分広島県土生港を発し、途中荒天のため和歌山県由良港及び三重県賀田湾にて避泊したのち、同10日11時00分同湾を発進して木更津港に向かった。
ところで、B受審人は、大光丸の船尾端から約11メートル船首方の船体中心線上に設置された、曳航フックから後方に伸出した直径75ミリメートル長さ200メートルの合成繊維製曳航索の後端に、台船の船首端から3メートル船尾方の左右両舷にそれぞれ設置された、ボラードから前方に伸出した直径28ミリメートル長さ20メートルのワイヤ製ブライドル各1条をシャックルで連結し、外洋曳航時には大光丸の船尾から台船後端までの距離を254メートルとし、航路筋や港に接近するときには曳航索を長さ50メートルまで徐々に短縮していた。
B受審人は、富津港に何回も入出航した経験があり、1年くらい前に昼間入航した際、航泊禁止区域を示すE、F両工事用灯浮標を富津航路境界線の灯浮標と、また、G、H両工事用灯浮標をオイルフェンス位置表示用の標識とそれぞれ誤認し、GPSプロッターの簡易地形図に表示された工事前の灯浮標位置や航路区画線を見ながら、同航路の中央を通航して安全に入出航したので、今回もGPSプロッターを見ながら富津航路の中央を通航すれば安全に入航できるものと思い、事前に水路通報や灯台表を確認するなどして富津港付近についての水路調査を十分に行わず、工事用灯浮標の設置及び同禁止区域の設定各状況を知らないまま同港に向かった。
こうして、B受審人は、同月11日19時半ごろ中ノ瀬航路の途中から出航し、神奈川県剱埼沖合で長さ100メートルに短縮していた曳航索を更に同50メートルまで短縮し、大光丸に航行中の曳航船が表示する灯火を、台船に他の動力船に引かれている航行中の船舶が表示する灯火のほか左右各舷に3個の電池式白色点滅灯をそれぞれ掲げ、単独の船橋当直に就き、操舵室中央の舵輪の後方に立ち、ときどき1.5海里レンジとしたレーダーを監視しながら、レバーによる手動操舵によって富津航路に向かった。
20時10分B受審人は、西防波堤灯台から328度2.1海里の地点で、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で、富津航路内に向けてゆっくり右転を始め、同時17分同灯台から338.5度2,860メートルの地点で同航路西側境界線に至ったとき、同航路内に他船を認めなかったので、前回入航時と同じように同航路の中央を南下することとし、GPSプロッターの航路区画線を見ながら、右転を続けた。
20時20分B受審人は、西防波堤灯台から343度2,360メートルの地点に達したとき、GPSプロッターに表示される工事前の航路区画線の中央を南下すると、航泊禁止区域に接近し、工事により可航幅が狭められた富津航路の左側を航行することとなる状況であったが、水路調査を十分に行っていなかったので、このことに気づかないまま、針路を西防波堤灯台に向く163度に定め、機関を半速力前進に落とし、折からの西南西風により左方に5度圧流されながら、4.8ノットの対地速力で進行した。
20時26分半B受審人は、西防波堤灯台から347度1,400メートルの地点に差し掛かったとき、左舷船首5度1,130メートルのところに、豊和丸が表示する白、紅2灯及び波浪による船体の動揺で見え隠れする緑1灯を初めて認め、このまま進行すると航泊禁止区域の西側間近で同区域に沿って北上する同船と行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、同船が小型船のように見えたことと、航泊禁止区域が設定されていることを知らなかったこととから、豊和丸が自船と富津航路の東側境界線の延長線との間を通航でき、互いに左舷を対して安全に航過できるものと思い、引き続き豊和丸に対する動静監視を十分に行うことなく、同船との接近状況に気づかず、速やかに富津水路西部の広い水域に向けて右転するなど、同船との衝突を避けるための措置をとらず、GPSプロッターの航路区画線の中央わずか左側に表示された自船の航跡を見ながら、同じ針路、対地速力のまま、同禁止区域に接近する進路で続航した。
20時30分少し前B受審人は、豊和丸と異常に接近したのを認めて漸く衝突の危険を感じ、同船の船首方約30メートルを航過したとき、機関を停止としたが効なく、20時30分大光丸は、西防波堤灯台から352度890メートルの地点に達して船首が172度に向き、衝突を免れたが、台船は、船首が175度に向き、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大光丸は損傷がなく、豊和丸は右舷船首部外板に亀裂を生じ、台船は船首左舷角部のフェアリーダーの倒壊を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、航泊禁止区域が設定された富津水路東部水域において、同禁止区域の間近で両船が行き会う際、南下する大光丸引船列が、水路調査不十分で、同禁止区域が設定されていることを知らずにこれに接近する進路で進行したばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北上する豊和丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、航泊禁止区域が設定された富津水路東部水域において、富津港港口に向けて南下中、北上する豊和丸を認めた場合、互いに左舷を対して安全に航過できるかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、豊和丸が小型船のように見えたことと、同禁止区域が設定されていることを知らなかったこととから、豊和丸が自船と富津航路の東側境界線の延長線との間を通航でき、互いに左舷を対して安全に航過できるものと思い、引き続き豊和丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船との接近状況に気づかず、速やかに同水路西部の広い水域に向けて右転するなど、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま、同禁止区域に接近する進路で進行して豊和丸と台船との衝突を招き、大光丸には損傷がなかったが、豊和丸の右舷船首部外板に亀裂を、台船の船首左舷角部のフェアリーダーの倒壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、航泊禁止区域が設定された富津水路東部水域において、富津航路に向けて北上中、同禁止区域に接近して南下する大光丸引船列を認めた場合、工事実施に伴い同禁止区域付近の可航幅が狭められていることを知っていたから、互いに左舷を対して安全に航過できるかどうかを判断できるよう、大光丸引船列に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、いずれ大光丸引船列が同水路の右側に寄って航行するので、互いに左舷を対して安全に航過できるものと思い、大光丸引船列に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同引船列との接近状況に気づかず、H工事用灯浮標の南側の広い水域で船首を風に立てて行きあしを止めるなど、大光丸引船列との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して台船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。