日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年横審第94号
件名

漁船孝栄丸漁船清丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月8日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、小須田 敏、甲斐賢一郎)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:孝栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
孝栄丸・・・右舷船首に破口
清 丸・・・左舷船尾を圧壊、船長が頚椎捻挫、頭部外傷、右肩打撲

原因
孝栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
清 丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、孝栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の清丸を避けなかったことによって発生したが、清丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月17日08時30分
 三重県大王埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船孝栄丸 漁船清丸
総トン数 8.65トン 1.66トン
全長 14.60メートル  
登録長   7.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 40

3 事実の経過
 孝栄丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、刺網漁の目的で、氷4キログラムを積み、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成12年10月17日03時00分愛知県日間賀漁港小戸浜地区を発し、大王埼南東方沖合の漁場に至って操業を行い、アマダイ約9キログラムを漁獲した後、08時18分同漁場を発して帰途に就いた。
 08時19分A受審人は、大王埼灯台から124度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点で針路を339度に定め、波が高くなってきたことから機関を港内全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、操舵輪の後方やや右舷側に立ち、手動操舵により進行した。
 A受審人は、時折右舷船首からの波しぶきが操舵室にかかる状況下、08時27分大王埼灯台から104度2.3海里の地点に達したとき、正船首1,020メートルのところに、清丸を視認し得る状況であったが、波が高かったので釣りをしている他船はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかったので、清丸の存在に気付かず続航した。
 A受審人は、その後黒色球形の形象物を掲げて錨泊している清丸に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、転舵するなど同船を避けることなく進行中、08時30分大王埼灯台から091度2.1海里の地点において、孝栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が、清丸の左舷船尾に真後ろから衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、波高は約2メートルあり、潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は、衝撃で衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
 また、清丸は、船体中央部やや後方に操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、タイの一本釣り漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日06時30分三重県波切港を発し、大王埼東方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、06時50分漁場に至り、07時00分水深約80メートルの前示衝突地点で、船首から重さ10.8キログラムの錨を投じ、直径30ミリメートルの錨索を約160メートル延出して機関を停止し、船体中央部に設置された甲板上高さ約2.5メートルのマストの頂部に黒色球形の形象物を掲げて操業を始めた。
 B受審人は、操舵室後方で、時折後方を見ながら操業を続けていたものの、08時27分船首が339度に向いているとき、正船尾1,020メートルのところに、自船に向首して接近する孝栄丸を視認し得る状況であったが、黒色球形の形象物を掲げているので接近する他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず操業を続けた。
 B受審人は、その後孝栄丸が避航動作をとることなく衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近するに及んでも直ちに機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることもなく操業中、08時30分わずか前、ふと後方を見たとき、船尾至近に孝栄丸を認め、急ぎ操舵室に戻って機関を始動し、右舵一杯に続いてクラッチを前進としたが及ばず、清丸が339度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、孝栄丸は右舷船首に破口を、清丸は左舷船尾が圧壊するなどの損傷をそれぞれ生じたが、のち修理され、B受審人が頚椎捻挫、頭部外傷、右肩打撲を負い2週間の通院加療を要した。

(原因)
 本件衝突は、三重県大王埼東方沖合において、操業を終えて帰航中の孝栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の清丸を避けなかったことによって発生したが、清丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三重県大王埼東方沖合において、操業を終えて帰航する場合、前路で錨泊中の清丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、波が高かったので釣りをしている他船はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、清丸の存在に気付かず、転舵するなど同船を避けることなく進行して衝突を招き、孝栄丸の右舷船首に破口を、清丸の左舷船尾を圧壊するなどの損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に頚椎捻挫、右肩打撲などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、三重県大王埼東方沖合において、一本釣り漁の操業のため錨泊する場合、接近する孝栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、黒色球形の形象物を掲げているので接近する他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、孝栄丸の接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることもなく操業を続けて衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:20KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION