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平成13年横審第83号
件名

貨物船第十六とよふじ丸漁船第三成怡丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月8日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎、半間俊士、小須田 敏)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第十六とよふじ丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:第十六とよふじ丸一等航海士 海技免状:二級海技士(航海)
C 職名:第三成怡丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士

損害
とよふじ丸・・・右舷前部外板に凹損、右舷船尾外板に擦過傷
成怡丸・・・左舷船首部ブルワーク凹損、左舷船尾部外板に亀裂

原因
成怡丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
とよふじ丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三成怡丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第十六とよふじ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月3日05時25分
 愛知県常滑港沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十六とよふじ丸 漁船第三成怡丸
総トン数 4,599トン 19トン
全長 128.92メートル 20.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 5,972キロワット  
漁船法馬力数   190

3 事実の経過
 第十六とよふじ丸(以下「とよふじ丸」という。)は、船首船橋型の鋼製自動車運搬船でA及びB両受審人ほか9人が乗り組み、自動車404台を積載し、船首4.86メートル船尾6.00メートルの喫水をもって、平成12年12月2日17時30分京浜港横浜区を発し、航行中の動力船の法定灯火を表示して、名古屋港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を0時から4時の間を二等航海士と甲板手1人、4時から8時の間をB受審人と甲板手1人、8時から12時の間を三等航海士と甲板長による3直制とし、自らは狭水道通過時、狭視界時や出入港時あるいは船舶交通が輻輳(ふくそう)する海域において、船橋で操船の指揮に当たっていた。
 翌3日03時40分ごろA受審人は、伊良湖水道航路の手前で昇橋して操船の指揮をとり、04時11分伊良湖水道航路を出航したのち、B受審人に操船を委ね、自室に退いた。
 ところで、愛知県常滑市沖合には、中部国際空港建設のために、常滑港南防波堤灯台から211.5度(真方位、以下同じ。)5,750メートルの地点と273.5度4,000メートルの地点を結んだ線を西側側線とする航行禁止区域が設けられており、同区域を表示するために灯標及び灯浮標が設置されていた。
 B受審人は、相直の甲板手を操舵スタンド後方での見張りに配し、自らは船橋中央左舷寄りのレーダー後方で見張りを行い、05時01分野間埼灯台から270度2.1海里の地点で定時の船位測定をし、05時12分半伊勢湾灯標から184度7.5海里の地点に至り、針路を前示航行禁止区域の西側側線を右舷方に1海里ばかり離して航行する355度に定め、機関を全速力前進の18.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により続航した。
 B受審人は、05時16分伊勢湾灯標から186度6.4海里の地点に至ったとき、右舷船首16度2.0海里に第三成怡丸(以下「成怡丸」という。)の紅色全周灯2個を視認することができ、その後、同船が船尾灯を表示していないためその動向がすぐには判然としないものの、その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況であったが、同人は、夜間に右舷方の前示航行禁止区域から接近する他船はいないものと思い、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、成怡丸がさらに接近しても、機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
 A受審人は、05時23分伊勢湾灯標から190.5度4.5海里の地点に達したとき、名古屋港入港に備えて再び昇橋し、操舵室に入ってすぐ、右舷船首16度820メートルに成怡丸の表示する2個の紅色全周灯を1個の紅灯として初めて認めたので、その動静を見極めようと双眼鏡で注視していたところ、同時25分少し前、左舷を見せて航走する成怡丸の船体の薄い影を認めて衝突の危険を感じ、B受審人等に知らせるとともに左舵一杯を令したが、効なく、05時25分伊勢湾灯標から193度3.9海里の地点において、とよふじ丸は、原針路、原速力のまま、その右舷前部と成怡丸の左舷船首部とが後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、成怡丸は、船体の中央部に操舵室を有し、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、船舶所有者のEが1人で乗り組み、さっぱ漁の目的で、船首0.65メートル船尾2.49メートルの喫水をもって、12月2日16時00分ごろ、C受審人が1人で乗り組んだ探索船など4隻の僚船と船団を構成して愛知県碧南市大浜漁港を発し、18時00分同県野間埼沖の漁場に到着し、その後、伊勢湾北部の漁場を移動しながら操業し、途中で僚船のうち1隻が漁獲物の水揚げのため帰港した。
 翌3日03時00分、C受審人が乗り組んだ探索船も水揚げのため帰港することとなったので、僚船間で適宜船長を交代することとなり、C受審人は、成怡丸に船長として1人で乗り組んで僚船とともに3隻で操業を続けた。
 04時30分C受審人は、伊勢湾灯標から215.5度1.5海里の地点を発進し、操舵室の舵輪右舷後方に立って同室左舷前方に設置された魚群探知機の画面に注意を払いながら、南方に向けて魚群探索を行い、05時15分伊勢湾灯標から182度4.5海里の地点に至って反転し、針路を315度に定め、機関を極微速力前進にかけて6.0ノットの速力とし、僚船2隻の西側に位置して手動操舵により進行した。
 ところで、C受審人は、成怡丸に表示されている灯火が、操舵室前部の両舷灯、操舵室後方のマスト先端で操舵室天板上方1メートルにある紅色全周灯1個及び同マストに水平で船幅方向に取り付けられた桁の左舷先端で操舵室天板上方0.4メートルで船首尾線から左舷側0.5メートルにある紅色全周灯1個及び操舵室前面壁下部の紅色作業灯1個だけであることを確認していたが、白灯を表示すると水中の魚が見にくいとの理由から、マスト灯及び船尾灯を掲げず、航行中の動力船の法定灯火を表示しなかった。
 05時16分C受審人は、伊勢湾灯標から183.5度4.4海里の地点に達したとき、左舷船尾56度2.0海里にとよふじ丸の掲げる白、白、緑3灯を視認することができ、衝突のおそれのある態勢で互いに接近することを認め得る状況であったが、魚群探知機の画面や右舷方を並航する僚船に気をとられ、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、同灯火を見落とし、この状況に気付かず、とよふじ丸がさらに接近しても、機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 05時25分わずか前、C受審人は、左舷至近にとよふじ丸を視認して衝突の危険を感じ、直ちに機関を後進にかけたものの、時すでに遅く、成怡丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、とよふじ丸は、右舷前部外板に凹損及び右舷船尾外板に擦過傷を生じ、成怡丸は、左舷船首部ブルワーク凹損、同部網上げローラー損傷及び左舷船尾部外板に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、愛知県常滑港沖合において、両船が互いに衝突のおそれのある態勢で接近中、成怡丸が法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置とらなかったことによって発生したが、とよふじ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、夜間、愛知県常滑港沖合において、魚群探知を行いながら進行する場合、左舷方から接近するとよふじ丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、魚群探知機の画面や右舷方を並航する僚船に気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近しているとよふじ丸に気付かず、機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首部ブルワークに凹損等及びとよふじ丸の右舷前部外板に凹損等を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、愛知県常滑港沖合を北上する場合、右舷方から接近する成怡丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、夜間に右舷方の航行禁止区域から接近する他船はいないものと思い、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近している成怡丸に気付かず、機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して、成怡丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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