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平成13年仙審第57号
件名

漁船第二欣盛丸漁船福忠丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年3月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(喜多 保、東 晴二、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第二欣盛丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:福忠丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第二欣盛丸甲板員

損害
欣盛丸・・・バルバスバウ及び船首部ブルワークに擦過傷
福忠丸・・・左舷船尾部外板に破口、転覆し沈没

原因
欣盛丸・・・居眠り運航防止措置不十分
福忠丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

 
主文

 本件衝突は、第二欣盛丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路に停留している福忠丸を避けなかったことによって発生したが、福忠丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月29日05時50分
 岩手県弁天埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二欣盛丸 漁船福忠丸
総トン数 75トン 9.7トン
全長   19.88メートル
登録長 27.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット  
漁船法馬力数   120

3 事実の経過
 第二欣盛丸(以下「欣盛丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成12年11月29日03時30分岩手県宮古港を発し、同県黒埼東方沖合13海里ばかりの漁場に向かった。
 A受審人は、発航時から1人で操舵操船に当たって宮古湾を北上し、04時00分閉伊埼灯台から039度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点に達したとき、針路を030度に定め、機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して11.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
 A受審人は、04時18分閉伊埼灯台から034度5.8海里の地点に達し、岩手県明神埼に並航したとき、操業する漁船が前方にいなくなったことから、船橋当直のため昇橋していたB指定海難関係人と当直を交代することとし、針路を伝え、06時になったら起こすよう指示したものの、まさか同人が居眠りすることはあるまいと思い、眠気を催したときは報告するよう指示することなく、船橋内後部の右舷側に設置した寝台で休息した。
 ところで、B指定海難関係人は、前日の28日は持病の痛風の検査があったため出漁しておらず、22時30分ごろ欣盛丸に乗船してから出港前まで船員室で休息をとっており、睡眠不足や疲れは感じていなかった。
 B指定海難関係人は、当直を引継いでから船橋内右舷側寄りに設置されたいすに腰掛けて見張りに当たり、時折同いすのすぐ右前にある6海里レンジとしたレーダーを監視しながら続航しているうち、05時00分陸中弁天埼灯台(以下「弁天埼灯台」という。)から121度11.8海里の地点に達し、そのころ海上は平穏で、同航する僚船もおらず、また、前路に他船を認めなかったことから気が緩み、やがて眠気を催すようになったが、眠気を感じたら報告するよう指示されていなかったこともあり、その旨をA受審人に報告しないでいるうち、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、欣盛丸は居眠り運航となり、05時45分弁天埼灯台から086度14.2海里の地点に達したとき、正船首0.9海里のところに停留している福忠丸が存在し、同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船を避けるための措置がとられないまま進行した。
 05時50分少し前B指定海難関係人は、目が覚め、船首方至近に福忠丸の黄色閃光(せんこう)灯を認め、A受審人を大声で起こしたものの、05時50分弁天埼灯台から083度14.7海里の地点において、欣盛丸は、原針路、原速力のまま、その船首が福忠丸の左舷船尾に後方から55度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、寝台で休息中、B指定海難関係人の叫び声で異常に気付き、急いで船橋前部にかけつけたところ、衝突を知り、事後の措置に当たった。
 また、福忠丸は、たらはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日02時40分岩手県島の越漁港を発し、同県弁天埼東方沖合15海里ばかりの漁場に向かった。
 C受審人は、出港時から1人で操舵操船に当たり、航行中の動力船が表示する灯火のほか黄色閃光灯及び両舷各4個の作業灯をそれぞれ点灯して東航し、04時40分ごろ予定した漁場付近に至り、漂泊しながら僚船と投縄地点について情報交換を行ったのち、04時50分ごろ同漁場を発進して北上を始め、05時20分弁天埼灯台から079度15.0海里の地点において縄の第1錨を投下した。
 C受審人は、第1錨を投下したのち、針路を180度に定め、機関を微速力前進にかけ、手動操舵により2.5ノットの対地速力で投縄を開始し、05時45分少し前前示衝突地点付近に至って第2錨を投入して投縄を終え、機関を中立運転として停留を始めた。
 C受審人は、05時45分前示地点で、船首を335度に向けて、右舷側から甲板員に浮標縄を投入させていたとき、左舷船尾55度0.9海里のところに自船に衝突のおそれがある態勢で接近する欣盛丸の白、紅、緑3灯を視認することができる状況であったが、操舵室内右舷側の窓から顔を出して同縄の投入作業を監視することに専念していて、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かず、警告信号を行わないまま同作業の監視を続け、同船が更に接近したが、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないでいるうち、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、欣盛丸はバルバスバウ及び船首部ブルワークに擦過傷を生じただけで、福忠丸は、左舷船尾部外板に破口を生じて転覆し、乗組員3人は欣盛丸に救助されたが、船体は引船により曳航されて岩手県久慈港に向かう途中で沈没した。

(原因)
 本件衝突は、夜間、岩手県弁天埼東方沖合において、漁場に向けて北上中の欣盛丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路に停留している福忠丸を避けなかったことによって発生したが、福忠丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 欣盛丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して眠気を催したときには報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、岩手県弁天埼東方沖合を漁場に向けて北上中、甲板員に船橋当直を行わせる場合、眠気を催したときには報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同甲板員が居眠りすることはあるまいと思い、眠気を催した際には報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同甲板員が居眠りに陥って居眠り運航となり、前路に停留中の福忠丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、欣盛丸のバルバスバウ及び船首部ブルワークに擦過傷を生じさせ、福忠丸の左舷船尾部外板に破口を生じさせて転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、岩手県弁天埼東方沖合において、浮標縄を投入するため機関を中立として停留する場合、自船に向首して接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、浮標縄の投入作業を監視することに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航しないまま接近する欣盛丸に気付かず、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま同作業の監視を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、岩手県弁天埼東方沖合を漁場に向けて北上中、単独で船橋当直に就いて眠気を催した際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。

参考図
(拡大画面:24KB)





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