(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月15日07時05分
福島県相馬港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船観音丸 |
プレジャーボート大清丸 |
総トン数 |
48トン |
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全長 |
29.05メートル |
7.58メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
77キロワット |
3 事実の経過
観音丸は、船首船橋型の可変ピッチプロペラを装備した沖合底引き網漁業に従事する軽合金製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成12年9月14日02時00分福島県相馬港松川浦漁港を出港し、03時40分同県鵜ノ尾埼東方沖合15海里ばかりの漁場に至って操業を開始し、たい、ひらめ、かれいなど500キログラムを漁獲したのち、翌15日05時30分鵜ノ尾埼灯台から085度(真方位、以下同じ。)15.2海里の漁場を発して、同漁港に向け帰途に就いた。
A受審人は、乗組員の漁獲物の整理が終了した05時50分鵜ノ尾埼灯台から084度12.1海里の地点で、針路を相馬港松川浦南防波堤(以下「南防波堤」という。)の北端に向く268度に定め、機関を翼角17度の全速力前進にかけて、航行中の動力船が示す灯火を掲げ、操業を終える前から霧のため視界が著しく制限されていたが、霧中信号を行うことなく、11.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
A受審人は、06時35分鵜ノ尾埼灯台から077度4.1海里の地点に達したとき、依然として霧中信号を行うことなく、3.0海里レンジとしたレーダーを監視しながら続航した。
ところで、南防波堤の北側では防波堤の延長工事が行われていて、そのため、その水域を示す相馬港松川浦南防波堤A灯浮標、同B灯浮標、同C灯浮標及び同D灯浮標の4灯浮標が設置されていた。
A受審人は、06時50分鵜ノ尾埼灯台から057度1.5海里の地点に達したとき、レーダー画面の船首輝線上1.5海里のところに相馬港松川浦南防波堤A灯浮標(以下「A灯浮標」という。)の映像を認め、針路を283度に転じ、このとき右舷後方30メートルばかりのところに同航する小型漁船がおり、この漁船を先航させるつもりで、翼角を6度とし、レーダーレンジを1.5海里に切り替えて4.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、06時55分鵜ノ尾埼灯台から045度1.3海里の地点で、A灯浮標が元の針路に戻しても左舷側に替わる状態となったことから、針路を元の268度として続航し、07時00分同灯台から031度1.0海里の地点に達したとき、レーダー画面の船首輝線上600メートルのところに停留中の大清丸の映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、右舷後方を同航する前示の小型漁船に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、大清丸の存在に気付かず、速やかに行きあしを止めることなく進行した。
A受審人は、大清丸の存在に気付かないまま同じ針路、速力で続航し、07時05分鵜ノ尾埼灯台から012度1,570メートルの地点において、観音丸は、その船首が大清丸の右舷中央部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約100メートルで、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、大清丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、いなだ釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日05時00分松川浦漁港を出港し、同時06分鵜ノ尾埼北方沖合1海里ばかりの釣り場に至り、準備をした後、同時50分いなだの引き釣りを開始した。
B受審人は、操縦席の屋根の上に設置してある黄色閃光灯を点灯して、潜航板及び擬餌針2本を取り付けた長さ約30メートルの釣り糸1本を船尾のクリートから出し、更にヒコーキと称する跳ね板及び擬餌針2本を取り付けた長さ約30メートルの釣り糸を長さ5.5メートルの釣り竿2本にそれぞれ結び、これらを船尾部両舷から真横に仰角約10度となるように出して固定し、機関を回転数毎分1,000の微速力前進にかけて6ノットばかりの対地速力で、かもめが群れている海面をめがけるなどして、魚群を追いながら引き釣りを続けた。
B受審人は、蛇行しながら引き釣りを行い、06時58分前示衝突地点付近において、進路を南から北に変えたところ機関が停止したので船尾に赴き、右舷側から出していた釣り糸がプロペラに絡んでいるようなので、操縦席に設置してあるスイッチを操作してプロペラを海面上に出して点検することとした。
B受審人は、07時00分前示衝突地点付近で、船首が000度を向いて停留していたとき、出港時1,000メートルばかりあった視程が約100メートルとなり、視界が著しく制限された状況となったが、プロペラを点検することに気を取られ、自船の存在を他船に知らせるよう、有効な音響による霧中信号を行うことなく停留を続けた。
B受審人は、07時04分わずか過ぎプロペラに絡まった釣り糸を切断するため操縦席後部の物入れから草刈鎌を取り出して周囲を見たところ、右舷ほぼ正横100メートルばかりのところに観音丸を初めて視認し、釣り糸が絡まったまま機関を始動して同船を避けようと海面上のプロペラを4分の3ばかり下げたものの、同船が自船を認めていれば転舵して避けてくれるものと思い、帽子とタオルを振って合図したが、自船を避けずに更に同船が接近するので危険を感じて海中に飛び込んだ直後、大清丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、観音丸は船首部船底のペイント剥離(はくり)を生じただけであったが、大清丸は右舷中央部から同部船底にかけての外板に亀裂を生じ、のち大清丸は廃船となった。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された福島県相馬港において、入港する観音丸が、霧中信号を行わなかったうえ、レ−ダーによる見張り不十分で、停留中の大清丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを止めなかったことによって発生したが、大清丸が、有効な音響による霧中信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が著しく制限された福島県相馬港に入港する場合、停留中の大清丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷後方から同航してくる小型漁船に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大清丸の存在に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況になった際、速やかに行きあしを止める措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、観音丸の船首部船底にペイント剥離を生じさせ、大清丸の右舷中央部から同部船底にかけての外板に亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、霧のため視界が著しく制限された福島県相馬港東側港界付近において、プロペラに釣り糸が絡んで機関を停止して停留する場合、入港してくる他船が自船の存在に気付くよう、有効な音響による霧中信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、プロペラを点検することに気を取られ、有効な音響による霧中信号を行わなかった職務上の過失により、自船に気付かないまま衝突のおそれのある態勢で接近する観音丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。